ガエル記

散策

短編集『影の世界』横山光輝 「黒い沼地」「時間警備隊」「13番惑星」「タイムマシン」

短編集『影の世界』の続きです。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

第四話「黒い沼地」(別冊少年サンデー1960年秋季号) 

これ言っちゃいけないのかもしれないが横山先生、昔の色塗りは凄く上手くて良いのに後に行くほど変な感じになっておられる。

なにか理由があるのかしらん。なのでこの時代の色塗りは最高です。

 

さて内容は。

設定はアメリカ西部劇。

偏見かもしれませんが少女マンガに比べると少年マンガは異国設定というのがかつては極端に少なかったと思う。

特に日本人はまったく出てこないというものは。

そんな中で横山光輝作品は中国も含め異国ものは男性マンガの平均よりも多いのではなかろうか。

 

主人公の名はケリー(この名がお気にいり?)

BB牧場にギム・ギャレットと言う男が訪ねてくる。有名な拳銃使い(?)で拳銃の台尻が黄金で作られている。

ギャレットは牧場主のボッブスに「牧場を倍の値段で売ってくれ」と言うのだ。

しかしボッブスは「開拓時代から住んでいるこの牧場は売れない」と断ったのだった。

がギャレットは執拗に「では西側の半分でいいから売ってくれ」と言い出す。西側は草木が枯れはじめ荒地になっているのだ。しかしボッブスは無理だと断る。

 

父からこの話を聞いたケリーは(なんと息子だった)あきれてその場所を見に行く。荒れ果てた場所なのだ。

その場所は草一本生えず池には毒物性のものが混じっていて牛が飲んで死んでしまったのだ。

すると高い崖の上からそのギャレットと隣の牧場主のキング氏がこの場所を覗きこんでいるのにケリーは気づく。

 

夜中牧場が襲われる。牛は一頭残らず崖に追い込まれ突き落とされて死んでしまったのだ。(こんな地形があるのだろうか。牧場の先に崖・・・『キャッチャーインザライ』って現実なのか)

ボッブスとケリーは無一文になってしまった。

しかしケリーは襲われた時に残っていた蹄鉄の跡ときらりと光った銃の台尻から犯人を割り出した。

ギム・ギャレットはキングと手を組みBB牧場を手に入れるため牛を全滅させてボッブスに牧場を売る羽目に追い込みたかったのだ。

なぜならBB牧場の西側から石油が湧き出しているからなのだった。

 

本作には横山氏得意の馬が多く登場する。

日本が舞台だとどうしても馬を描くことはあまりない。

時代ものでも馬はそんなに出てこないからなあ。

やはりアメリカと中国なら馬は欠かせない。

 

第五話「時間警備隊」(別冊少年サンデー1961年正月号)

かわいい!服も乗り物も。全体的に丸み。

 

ぎゃあかわいい。このデザイン、すばらしい。乗りたい。

しかし今更なんだけどどうして一コマ一コマ順番を打っていたんだろう。必要な人がいたんだろうか。

 

様々な時代の人間が一堂に集まり特別な教育を受けて「時間警備隊」となる。役目は時間密航者を捕えることだ。

主人公は二十世紀を受け持つ隊員で夏目完太という。

殺生石」というものについて興味を持つが江戸支部から調査を依頼されて赴くことになる。

 

ふむ。これは『時の行者』だな。夏目くんは江戸時代に行き調査を始めるがその恰好じゃいけないと言われる。

日本が舞台でも馬登場。さすが。

夏目君はまだ前髪がある年頃なのだ。初々しいね。こういうの可愛く描いてしまうからショタコンと呼ばれてしまうんだよなあ。

ガイガー計数機が鳴り始めたので放射能防御服を着用する。

髷の形になってる

三十世紀の原子燃料が見つかり夏目くんは時間密航者のしわざと見てさらに時代を遡る。そして時間密航者の犯罪をつきとめた。

ふむう。これを見るとやはり『時の行者』はさらに洗練されている。

しかしこれは今でも使いたい。

 

第六話「13番惑星」(別冊少年サンデー1962年1月号)

なんとなく松本零士みを感じる。

 

空気も水もあり美しい花が咲き乱れる13番惑星に行った者は何故か誰ひとり帰ってこない、という物語。

十度目の調査団が降り立った。

この惑星はいわゆるハビタブルゾーンにありその問題はない。ただ毎晩強風が吹くのだ。

隊長は隊員たちに役割を分担し二人一組で行動を開始した。

しかし主人公の星・コインズ以外のコンビはみなふたりのうち一人が死んでしまったと言って帰ってきた。

さらに夜の間にも見張りが殺されその加害者もまた殺されとうとう生き残った者は主人公・星と生物学者のジョッキーのふたりきりとなった。

 

そしてジョッキーは星に渡したお茶に毒を入れ飲ませてから理由を話す。

「この惑星に咲いている花の花粉には動物を狂暴にさせ目の前にいる生物を殺したくなるという毒性を持っているのだ。毎晩強風が吹き花は受粉して生存を続ける。

そして花粉を吸いこんだ動物は殺し合ってしまうのだ」

こうして最後に残ったふたりも殺し合い絶滅してしまった。

星は最期の力を振り絞り地球にこの惑星の危険性を伝えた。この星の探検は禁止された。

「殺し合ってしまう」という毒性というのは考えられるものだろうか。

他の作家であれば性的な効用を考えたかもしれない。「殺意を持つ」「人々は殺し合う」ということにやはり横山氏は最も興味を持っているのだと思う。

 

第七話「タイムマシン」(別冊少年サンデー1962年春季号)

またまたタイムマシン。こういう選択にも好みがわかる。



ふっふ。いきなりのキスシーン。

灰田は博士の実験台に自ら志願するがそれは目的があったためだ。

灰田は「四日後」にタイムワープし銀行強盗をして大金を手に入れ実際の四日後にはアリバイを作って逃げ切るつもりだった。

 

そういえば横山氏は銀行に勤めていたのだった。こういうことを考えていたのだろうか。

灰田は銀行で金を奪い警察に追われて五分後に元の世界に戻る。

これで大金持ちだと喜んだ。四日後にはアリバイを作ろうと「人のいる前でドンチャン騒ぎをするんだ」と出かけたが店で突然胸から血が溢れて苦しむ。そこへ警官が現れたが灰田はそこで死んでしまった。

 

灰田は間違いを犯していた。タイムマシンで行った「四日後の強盗」の後彼は警察に撃たれこの店に逃げ込んで死んだのだった。

それを確かめないままにいたのが灰田の失敗だった。

 

最初の「未来をのぞいた男」の焼き直しのようだが、前作が納得しやすかったのに本作はよくわからない。これであっているのかなあ。

 

というなかなか楽しいSF短編集だった。