今回の『カムイ外伝』読書は横山光輝氏の作品を読むなかで白土三平氏からの影響を感じて再読しているのですがそもそも両者は同時期の作家であり(白土氏が2歳年上)逆に白土氏が横山氏の影響を受けたことはないのかな、とも考えました。
ふたりのプロフィールを比べると作家活動開始時期は逆に横山氏の方が先である。白土氏は紙芝居製作や劇団の背景などの仕事を経て漫画家になっているので漫画家としてはむしろ横山氏の方が先輩でもあるのだ、となれば白土氏が横山氏の影響を受けていることもあるのかもしれません。
ネタバレしますのでご注意を。
「掛け捕り」
年老いた川漁師の物語だ。が、心臓の発作も時々起こり以前のように思うように川漁ができなくなった。
跡継ぎの息子は漁師を厭い大工になってしまい別の所帯を持っている。
漁師が朝獲れた魚や貝を持っていっても嫁は「生臭いのは苦手でねえ」とそれを嫌う。孫もまた漁師を嫌っている。
帰り道漁師は胸を押さえ倒れてしまった。
そこを通りかかったカムイが漁師を背負って家まで運び心臓の薬を煎じてあげたのだった。
以前の海の漁師の物語とはまったく印象が違う地味で寂しい物語である。
カムイは具合の悪い漁師に代わって獲れた魚を売りさばきに行く。大工となった息子はそうと聞いてカムイに「親友のお祝いに活け鯉が五匹ほど欲しいと父つぁんに伝えてくれ」と頼む。
漁師はカムイと共に鯉を獲りに行くが水が冷たく姿が見えない。
漁師は「抱き捕りしかねえ」と水中に入った。
が、二匹捕まえたところで体が動かなくなってしまう。
カムイは「代わりにやらせてもらえないか」と言って潜ったがさすがに簡単には獲れるものではなかった。
コツを聞いたカムイは夜ひとりで水中に潜り残る三匹を獲ってきた。
驚く漁師に「目印をつけていました」と答える。
とはいえ夜中ひとりで暗闇の水中にもぐったというカムイに漁師は感嘆するのだった。
老いた漁師もかつては腕利きとして知られていた。掛け捕りと抱き捕りという技があった。しかし今それを伝える跡取りはいない。
漁師はカムイに己の技を伝授した。
カムイもまたそれを受け止めたのだった。
が、別れは突然に訪れる。
水中に潜ったカムイの目の上に漁師が浮かんでいたのだった。
一度意識は戻り漁師はカムイに「わしの掛け捕りと抱き捕りはおまえさんの中に生きている」と言って礼を言った。
カムイは息子に漁師の死を知らせた。
そして追忍を掛け捕りで仕留めたのだった。
「妖怪」
山の中の一軒家に住んでいる老人と娘は旅するカムイに茶と蕎麦を馳走し泊まっていくことを勧める。「この山には妖怪が出るので夜分はここで過ごした方がいい」と。
がカムイはそのまま出ていく。
山中、カムイは恐ろしい蜘蛛の妖怪に襲われその身を粉砕されてしまうのだった。
さらにカムイを追ってきた二人の男がいた。
男たちは老人と娘に茶をもらいカムイの話を聞いて出ていく。
男たちも恐ろしい妖怪に襲われる。なぜかここでカムイが現れふたりは倒れてしまった。
その後、老人と娘は男たちの財布を奪いその体は崖から落としてしまう。
一軒家に戻り「うまくいった」と老人と娘は大喜びで酒を飲み肉汁を食らう。
そこへ裸のカムイが登場し「金と着物を返してもらおう」という。
あの妖怪は老人と娘が茶に仕込んだ「ハシリドコロ」が見せた悪夢だったのだ。
ハシリドコロを食すると幻覚作用があり走り回って苦しむのだ。
カムイもまた老人たちの肉汁にたっぷりとハシリドコロを仕込んで返したのだ。
二人は恐ろしい幻覚に苦しむのだった。
「黒」
この物語は猫好きにはつらい話なのだが読まずにいられない話でもある。
黒猫には仔猫たちがいて養っていたのだが雄猫に子を殺され茫然としてしまう。
カムイは墓を作ってやると黒はカムイになついてしまった。
そして仔猫たちにそうしていたようにネズミを捕まえて持ってくる。
(うわあ。猫を飼っていた者は必ず体験することだ)
カムイは「これを食べろというのか」と黒の頭を撫ぜ「よしよしおまえがせっかくとってきたのだ」とそのネズミを焼いてたべ「おまえもお食べ」と猫に分けた。
(この優しさ、真似できない)
その後も黒はせっせとカムイに餌を運びカムイを困らせた。
が、武士の乗った馬に蹴られ黒は酷い傷を負ってしまった。
姿を見せない黒をカムイは心配する。
近所の子どもたちから馬に蹴られたという話を聞く。
子どもを失い自分もまた、とカムイは胸を痛める。
ところが黒は半死の状態でネズミを捕まえカムイに運んできたのだ。
(泣きそう)カムイは驚き黒の手当てをする。
しかし黒は頭を蹴られたせいか瞳孔が開いたままで舌も出したままとなってしまった。
それでも黒はカムイに餌を運ぶことをやめなかった。
ところが以前の武士たちが生きていた黒を見つけ「化け猫め」「殺してやる」と馬に蹴らせたのだ。
それを見たカムイは「許せん」と言って武士たちに石つぶてを投げる。
「下人の分際で武士に刃向かうか」と斬りつける武士たち。
カムイは武士たちの手足を切り落とし「一生その体で生きて思い知るがよい」と吐き捨てた。
そして「クロ」と黒猫を抱く。
そこに追忍が近づきカムイを攻撃する。
が、なぜかその刃はカムイに届かなかった。
小動物を虐待する話を聞くといつもこのカムイを思い出す。
「一生その体で思い知るがよい」