実はこの巻だけ買っていないのに気づかないままだったと慌てて購入しました。
そのせいもあるのかちょっと不思議な印象を受けました。
ネタバレしますのでご注意を。
ここまで老人がもしくは子供がカムイに好意を持ち父子のような関係性が築かれる話はあったけど同じ年齢ほどの男との友情を感じさせる出会いは初めてなのいではないだろうか。
むろんこの時点ではあまりに好意的で「追忍では」とこちらが身構えてしまうけど。
カムイはウツセに対しても仲間になろう、という気持ちを見せたのにもかかわらず拒まれてしまった。
今回は逆。
カムイから助けられたとかいうのでもなく「一緒に組まないか」と言ってにっこり笑う。カムイよりも背が高いがっしりした体格で明るくくったくがない。
前回の話が続いていて黒猫の墓に花を手向けるカムイに付き合い酒を飲みながら話を聞く。
そして酔ったふりをしてカムイをつけ狙っていた男たちの後を追った。
前回、黒猫を殺した男たちはカムイの怒りをかい体の一部を失った。その腹いせにカムイを殺そうとしているのだ。(作者は地の文で「こういったたぐいの人間はいつの世にもいるものである」と記している)
遠州という男はカムイを襲おうとする連中を騙しておびき寄せた上で皆殺しにしてしまった。カムイも手伝ってはいるが。
そうしたことを笑顔でやってしまうどうにもつかめない男なのだ。
『カムイ外伝』第一部から次第に次第に社会の中に溶け込んでいく様子が描かれる。
非人ゆえに忍びとなりその掟を拒否して抜け忍となり逃げ続け今度は社会の中に入り込んでいくカムイ。
しかし親友になれたと思った遠州は自らの復讐のために動いていたのだった。
遠州は復讐を果たせず簀巻きにされ川に投げ込まれてしまう。
それを救ったカムイは遠州から稲葉屋に父を殺された顛末を聞かされる。遠州は稲葉屋を殺さずその娘を誘拐して苦しめる計画を立てる。
が、その娘は気立てが良く遠州は復讐心が挫けてしまうのだ。
一方の稲葉屋も目に入れても痛くない娘が誘拐されカムイにすがりついて救けを乞う。
カムイが稲葉屋を遠州の元へ連れていくと誘拐された娘は背後から遠州を包丁で刺したのだ。
なんとも奇妙な話である。
これまでとは違い心底悪い人ではない者たちの悲劇が描かれている。
そこではカムイは無力である。
「言霊」
なんと前回の父娘が亡くなった(というか殺した)遠州一家の(たぶん)供養の旅に出る。
社長の留守を任せられるのがカムイなのだ。
非人→忍者→抜け忍→命懸けで逃亡→親友出来る→番頭さん!!???
ところでカムイが就職した稲葉屋というのは江戸時代の口入れ屋なのだが現在でいうところの人材派遣会社なのだ。
この作品が描かれたのは1985年。日本でも人材派遣会社は存在していたが、パソナが労働者派遣法の施行により一般労働者派遣事業許可を取得したのは1986年と書かれているからこの時期は「派遣」という言葉はまだ定着していなかったのではなかろうか。
とにかく江戸時代には派遣会社はヤクザとつながりのあるおっかない業種であったようだ。
うわーカムイがアニキと呼ばれて帳面持ってるう。
こういうことだ。
カムイ・・・なんでもできるのね。めっちゃ決まってるし。
いまならきっとIT関係の第一人者なんだろうなあ。
しかしこのように出世したカムイと対照的にカムイに負けた忍者の惨めな生活が描かれる。
カムイに負けて気力も能力も失ってしまったという。あまりにも悲しい。
しかし彼らも腕は落ちていなかった。
謎の老人に目覚めさせられ再びカムイを狙う。
そして口入屋のライバル店岩戸屋では「稲葉屋社長が仏心をおこして巡礼の旅に出た。その後を仕切っている三郎(カムイ)が若いのに腕も度胸もある。その青二才を殺してしまえ」という話になる。
なんだかもうカムイを褒めてるんだかなんだか。
サブ(カムイ)暗殺に雇われた橘先生。
しかしカムイに勝てるわけもなく。
恐ろしいほどシリアスだった『カムイ外伝』がかなりコミカルになっていく。
今読むと派遣会社に勤めているのがおかしくてしょうがない。
やっぱり白土三平は凄いなあ。