ついに『カムイ外伝』最終回となりました。
ネタバレしますのでご注意を。
「伊児奈」
イコナ。
ここでもカムイは偶然母子が心中しようとする場面に出会ってしまい咄嗟に救け金を渡して去っていく。
『カムイ外伝』一部でのカムイは「疑心暗鬼」がタイトルになるほど他人を信じることができず出会う人間が絶えず追手ではないかと怯え緊張し殺気を発していたが第二部の後に行くほど彼は出会う人間を救けていく。
前回の稲葉屋編などは出会った人間しかもカムイを襲って来た人間こそを救け善人へと導く。その姿はここで形容された「風」というより「神」に近い。仏のようとも天使ともいえる。
がそれでもカムイは去ってしまう。
カムイが去り時が経った時人々は「あの人は一体何だったのだろうか。私はもしかしたら神の使いに会ったのかもしれない」と思い出すのではないだろうか。
今回『カムイ外伝』を読み返して以前まったく気付いていなかったことに今更ながら気づけたことが大きな収穫だった。
以前はただただカムイかっこいい、と読み飛ばしてしまっていた。
それにしてもアニメにもなった第一部の段階で白土三平氏はすでに第二部の構想を考えていたのだろうか。
第一部の殺人鬼とも言えるカムイが第二部になって神のような存在となっていく、そんな構成を考えていたのだろうか。
が、この「伊児奈」は今までとは少し違う話でもある。
なんとイコナはカムイの幼馴染であり同じように忍びとしての修行を積んできた仲間でもあった。
イコナはカムイに恋をして「お嫁さんになりたい」と願っていたというのだ。
しかしこんな話を聞き自らも癒され嬉しいと感じてもカムイは女性に打ちとけようとはしない。
これまでも一切そういう行動がなかった。
それは抜け忍が生き延びるための選択なのか。
それともカムイは女性と性交ができない体なのか、ここまで読み取ることはできなかった。
幼馴染だったイコナと再会し彼女もまた抜け忍、しかも子どもを持った抜け忍であると知りイコナの好意を感じながらもカムイはイコナに別れを告げる。
「上意異変」
とある城下。城主と悪家老の悪だくみによって追い詰められた神子十左ヱ門一家の悲劇にカムイが関わっていく。
神子家の次女・サエは倒れていたカムイを保護した。
カムイはお礼にとしばらくその家で下働きをするがそこで神子家の災難を目の当たりにある。
藩は城主の乱行で経済がひっ迫していると神子十左ヱ門が家老に追及したところを城主に咎められてしまう。
それを主君への反逆とされ神子家は生贄とされていくのだ。
まずは跡取りの一学が暴徒に襲われ謹慎処分を言い渡されたのは序の口であり切腹を命じられ抵抗するのを男子は皆殺しにされてしまう。
壮絶な斬殺をサエは見つめるしかなかった。
女は放免とされながらも母親は自害。そしてサエもまた後を追おうとしたのをカムイはとどめて「ひとりの個人として新たなる意志を持った時別の道が見えてくる時もあります」と告げる。
サエはその言葉に心を動かしたのである。
城主はカムイによって廃人となりサエは家族を失ったもののその優しさからつい拾い子をして新しい人生を歩みだす。
「吸血」
『カムイ外伝』第二部の最終回という作品だが「なぜこれが最終回なのか」という不気味な話なのだ。
前回の「上意異変」が終わりであればすっきりとした美しい最終回だったはずなのに何故この後味の悪い「吸血」で終わったのだろうか。
しかもこの回は記載を見るとたった一か月で120ページの話が描かれている。恐るべきものだ。
私の勝手な憶測を書けば先の「上意異変」で終わってしまうとあまりにも美しすぎる、と白土氏が考えられたのではないか、と思ってしまうのだ。
「吸血」は年老いた剣士が己の衰えに慄き、若い女の生き血を啜ることで活気を取り戻すと感じ女殺害をやめられなくなってしまうというおぞましい作品でとても最終を飾る作品とは思えない。
だが作品中カムイはつぶやく。「そういうわたしも追忍の死を代償に生きながらえている」と。
カムイ自身が自分を吸血鬼だと考えているのである。
しょせん人は多くの生命を糧にこの世に在る。おごるまいぞ。
カムイはそう考えているのだと白土氏は最後に描きたかったのではないか。
第二部になり神のように人々を救け幸福にしていったカムイではあるが一方で追忍の命は絶えず奪い取ってきた。そうしなければ生きていけない。しかし奢ってはなるまい、とカムイは言うのである。
だからこそ白土氏はカムイを神ではなく風としたのだろう。
「風は風だから吹くにすぎない」と。
そしてまたこの旅が続けばいつかカムイもまた同じような吸血鬼になってしまうかもしてないとも暗示されているのだろう。
カムイはかつてのような疑心暗鬼で殺人を犯すことはなくなりむしろ善意を持つ者となったとしてもやはり追手に襲われるならばその能力で人を殺す。
そのような存在なのだと最期に記されたのではないだろうか。
『カムイ外伝』にはその十年後書き下ろされたが未単行本化の「