これが本当にほんとうの『カムイ外伝』で一番心に残った作品です。
いやほんとうにい。
ネタバレしまうのでご注意を。
カムイを詰めた追忍は熊の三本指によって逆襲されカムイに仕留められる。
三本指もまた追忍に瀕死の状態にされカムイも頽れた。
だが雪の中三本指は再び立ち上がってカムイを探しその体を抱きしめたのだった。
再びカムイが目を覚ました時彼は竜神の安兵衛とその仲間たちによって介抱されていたと知る。
そして安兵衛から「クマが子供を抱くようにあなたを抱えておりました」と聞き泣き崩れた。三本指は体を爆破されながら自分を守ってくれたのだ。しかもそれはもしかしたらカムイの忍術・獣遁による死だったかもしれないのだ。
カムイは安兵衛の住み家で休息し回復していく。
安兵衛は三郎と名乗るカムイの強さと優しさを目の当たりにして惹かれていってしまう。
そしてここにも追手が役人に化けてきたのを安兵衛は見破り躊躇なく殺害してしまう。
が、気づくとカムイはすでに逃亡していた。
安兵衛はここで別れてしまうことに耐えられないと愚痴をこぼす。仲間の父つぁんが安兵衛を諫めると「うるせえ、おらあ三郎さんにほれちまったんでえ」といきりたった。
安兵衛の気性を知る父つぁんは仕方なく後ろ姿を見送った。
こうしてヤクザの小頭である安兵衛の三郎(カムイ)の思慕の旅が始まる。
安兵衛は初老と言っていい。盗人稼業から足を洗い三郎さんに尽くしてみたい、というのが安兵衛の願いなのだ。
去っていくカムイを追う安兵衛。年老いたとはいえ自分の身の軽さに自信のあった彼もカムイの天狗の如き足の速さに舌を巻く。
安兵衛は三郎(カムイ)の正体は知らない。ただ人並外れた体力能力そして人柄に惚れ込んでしまったのだ。
裏街道では名の知れた小頭安兵衛でありその人望は厚い。
だが抜け忍カムイの器量はそんな安兵衛にも計ることのできないものだったのだ。
若いカムイを手助けしてあげたいという一念で安兵衛は動いたのだが自身の盗人稼業が頓挫し逆にカムイに助けてもらう羽目になる。
カムイは「今度は私が助ける番です」と言い軽々と安兵衛の抱えた問題をクリアしていく。
安兵衛と盗人仲間は突如現れた若者の底知れない行動力に目を見張るばかりであった。
これもまた時代劇やら歴史ものやらという話ではなくいつの時代にでもありうる。
このテンプレートで主人公の活躍を小気味よく描けるだろう。
あまりに出来すぎるヒーローだがこれまで読者はカムイがどんなに凄いのかを叩きこまれているからむしろこんな現実社会のごたごたなどカムイにとっては朝飯前なのだ。
とはいえカムイに惚れ込んで救けてあげたいと思った安兵衛さんはちと気の毒だ。
安兵衛は最後にカムイを狙う追手を殺ろうと決心する。
その決意に盗人仲間たちも加わった。
とはいえ相手は忍者であり盗人たちが敵う相手ではなかった。ふたりの追忍に盗人集団は全滅してしまう。
駆け付けたカムイに安兵衛は「来ちゃいけねえ」と息も絶え絶えに言うしかなかった。
カムイは飯綱落としと霞斬りでふたりの追忍を片付けた。
安兵衛はその見事さを称え「もう少しおつきあいしてえと思っておりやしたが」とつぶやく。カムイの腕の中で追忍と戦って死んでいった仲間を見やり「盗人の死にざまにしちゃ上出来じゃないですかい。みんな命いっぱいきばったつもりですぜい」と最期の言葉を残していった。
ひたすらカムイの超人的能力を見せつけられるエピソードでありそんなカムイに惚れてしまった老ヤクザの切なさよ。
裏切者の六蔵が人として生まれ変わり死んでいく様も。
こうしたヤクザ話の定番とも言えるのだがカムイという超人が関わることで読み応えある作品になった。