ガエル記

散策

『三国志』横山光輝 第四十八巻

孔明表紙絵4・5回目。後ろの祝融夫人0・5回目。

横山三国志に稀有な女性登場。前は呂布の娘さんだけだったかなあ。でもあちらはたしか呂布に背負われてちらりとだったけど祝融夫人は全身でしかもセクシースタイルでかっこいい。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

孟獲はまたもや弟・孟優と計略を練っていたがなにも思いつかない。

孟優が「南蛮国の知恵者といえば禿竜洞の朶思王だがなァ」とつぶやく。孟獲はそれだと顔を輝かし孟優を説き伏せに走らせた。

 

朶思王の禿竜洞は西洱河より南数百里の奥地である山岳地帯にあった。

孟優の説明を聞いた朶思王は「お役に立ちますぞ」と答えてくれた。「だが蜀軍と戦うのはこの地でなさるように。他国者がこの地に入れば生きては出られませんわな」

 

孟優の言葉を聞いて孟獲は喜ぶ。

そして孟獲は禿竜洞へと向かった。

だがその道のりは南蛮人でも大変なものだった。

焼けつく暑さと険しい山道を越えついに孟獲は朶思王と出会えた。

まず朶思王は孟獲軍が通ってきた道を岩木で塞いでしまった。

 

朶思王の城に招かれた孟獲は道の遮断の理由について尋ねた。朶思王によれば禿竜洞に繋がる道は先ほど塞いだ安全な道と危険な道のふたつしかない。

危険な道では特定の時刻以外毒ガスが噴き出す場所があり、四つの毒泉がある。四つの毒泉はどれも死に至る毒を含んでいるという。

それを聞いた孟獲はいくら孔明でも通り切れまいと勝利を確信したのだった。

(すぐ勝利を確信するよね)

 

この頃孔明は西洱河地方を治めさらに南を進み始めた。

だが進めど進めど蛮軍に出くわさなかった。

そこに「孟獲・孟優の行方がわかりました」という報が入る。「さらに南の奥の禿竜洞という山岳地帯に兵を集めているようにございます」

孔明は指掌図を見たが記されていない。呂凱に問うても初めて聞くという。

一人の将がそのような道の奥地は危険でありこの辺で国に帰られてはいかがかと言い出す。

「それは孟獲がもっとも希望していることであると考えぬか」と孔明は答えた。そして王平に先鋒として禿竜洞へ向かえと命じた。

 

七日が過ぎたが王平軍から一人の伝令も来ない。孔明は関策に一千の兵を率いての出陣を命じた。

行軍は並大抵ではなかった。

しばらく行くと王平軍の兵士が倒れていた。毒蛇に噛まれた痕がある。近くに毒蛇が集まる巣があり関策は槍で地面を叩きながら前進させた。

さらに行くと草木がすっかり枯れてしまっている。変な地鳴りもしていた。

しかもまたもや王平軍の兵士たちが数人倒れている。それに近づいた関索軍の兵士も倒れてしまった。

とはいえ王平軍が全滅しているわけではない。通過する方法があるはずだ。

見ると木札が立ててありそこに「未申酉以外の時刻には渡るな」と記されていた。関索は伝令を出して丞相に知らせた。そしてその時刻を待って通ることにした。

大丈夫な場所まで来て関索は野営することにした。

 

翌日炎暑に悩まされながらさらに奥地へと進む。

水場を見つけると兵士たちは駆け寄った。

しかし見ると水際にまたも兵士が倒れている。関索の制止も聞かず飲んだ者は苦しみ死んでしまった。関索王平の苦労を思った。

 

伝令を聞いた孔明に周囲の者は引き返すことを進言したが孔明はあくまでも南蛮平定せずして蜀の安泰はないという考えであった。孔明は前進した。

毒泉に到着した孔明は病人の看護をさせ馬車で運ばせる。

孔明軍持参の水も残り少ない。

険しい山岳地帯である。

そこへ一人土地の者が荷を担いで通りかかった。

孔明が問うと家族の者が飲む程度なら井戸水があるという。

大勢が飲めるほどの泉か川がないか?と問うと「ここから二、三十里ほど谷の奥に入ると万安渓という広い谷間がありそこに万安様とおっしゃるお方が住んでございます。その方は四泉の毒にあたった人達を助けてくださいます」

これには孔明も喜び褒美を渡した。

孔明軍はただちに万安渓に向かった。

 

万安渓と思われる場所に到着した孔明たちはひとつの住まいを見つけ訪ねてみる。

童子がでてきて「おじさん、蜀の丞相だな」と言う。

孔明童子の賢さに感心していると中から万安様と呼ばれている男が出てきた。

「ここに水があると聞いて参ったのだが」と尋ねる孔明

「ございますとも。ここの水は四泉の毒の解毒もいたしますので安養泉とも呼ばれておりますのじゃ」と答える。

万安は孔明をその泉に案内し毒見をして証明した。

孔明はすぐに兵士たちに与えよ、と命じる。

万安はさらに病気になった兵士たちの手当てまでしてくれた。

 

孔明は万安に深く礼を言った。万安は当然とことと答えてこれから先も毒蛇や蠍にお気をつけなさるがよい。だがそれ以上に恐ろしいのは水でございますと忠告した。

馬鹿な相手には薄ら笑いをするけど良い人には真面目な顔になる孔明

万安は地面を掘って地下水を飲むことを勧めた。

 

孔明はさらに礼を言い、「万安とは仮の名でしょう。なにとぞ本名をお聞かせくだされ」と頼んだ。

万安はふふふと笑う。なんと万安は南蛮王孟獲の兄で猛節というのだ。彼らは三人兄弟であり長兄がどれほど諫めてもふたりの弟は物欲と権栄を好み無道をし続けてきた。それゆえ自分は二十数年前に王城を捨てて谷に隠れたと言うのだった。

 

「さようでございましたか」と孔明は「あなたのような方が南蛮王になってくだされば」と続けると万安は「富や権力を求めるくらいならここに住みませぬ」と手を振り「それでは私は病人の様子を見て参ります」と立ち上がった。

 

病人たちは万安=猛節の薬湯でめきめきと回復し蜀軍は再び洞界を目指して前進した。

うわなにこの凄い絵

すばらしい

そしてついに禿竜洞の地に入った。孔明は兵を休ませたが関索王平魏延などにひそかに隣接地方へ進撃させ次々と酋長や部族の者を生け捕ってこさせたのだった。

 

朶思王と孟獲のもとに「蜀軍が来た」の報が入る。良い水の出る場所に陣取っているというのだ。

朶思王は偵察を馬鹿者と罵って自ら確かめることにした。

確かに蜀軍の陣があった。

孔明とは神か悪魔か」

朶思王は「あの大軍で攻め寄せられてはひとたまりもない」と策を練るために城へ戻った。

横山先生はこの影絵がすごくきれいで効果的なのですがちょっと笑いも入っていて楽しい。

 

さて城に戻った朶思王はもうすでに戦意がなくなっている。「こうなれば降伏するか、全滅するかしかない」と言い出す。

孟獲は「我らには勝利の道は充分ある。戦わずして降伏することは自尊心が許さない」と言い切った。

尚も渋る朶思王に孟獲は兵士たちを集めさせ「蜀軍が持っている贅沢な装備軍需品を奪えば全部お前達の取り放題にする」と言って兵たちの意気をあげた。

そこへ隣の銀冶洞の酋長・楊鋒が三万の兵を連れて味方しに参りました、と告げられる。

朶思王・孟獲は喜んで迎えた。

楊鋒はたくましい五人の息子たちも連れ加勢に来たと言う。

孟獲は「戦勝の前祝だ」と酒宴を催した。(あはは)

酒宴もたけなわ。楊鋒は「我が軍には女軍もいる。なかなかの美人ぞろいでな。余興に踊らせよう」と言い出す。

孟獲は「それは面白そうだ」と答えた。

 

女兵士たちが登場する。

 

孟獲達は大喜び。やんやと掛け声をかけた。

 

とその時楊鋒が杯を落とした瞬間踊っていた女兵士たちが突然剣を突き出し孟獲・孟優の首にあてたのだ。

さらに息子たちが二人を縛り上げ、他の酋長たちも取り囲んだ。

「酋長たち、静まれ。下手に騒ぐと女兵の剣が一突きにするぞ」

 

「仲間を裏切るのか」と騒ぐ孟獲に楊鋒は「この禿竜洞の隣接地方の洞主は皆孔明に捕らえられてしまったのよ」と言う。

「だが孔明は皆を許してくれた。その恩に報いるためにこの一役をかって出たのだ。この五人の息子というのもみな孔明の家来だ」

孟獲は縛られたまま足を踏み鳴らして「くそっ。またもや計ったか」と叫ぶ。

駄々っ子。

 

ここで孔明登場。孔明は家来たちが逃げ出したのを伝え再び捕らえられたら降伏すると申したであろう、と告げる。

しかし孟獲はまたも「これは部下の裏切りで捕らえられただけだ。わしの銀坑山は三江の要害に造られている。そこで戦って負けたならお前の偉さを認めてやる。こんな捕らえられ方では死んでも降伏せぬ」と喚いた。

「そうかこれでもまだ懲りぬか」

よろしい、ならば汝の望む条件でもう一度戦おう。

だが今度は汝の九族まで滅ぼすかもしれんぞ。

孔明孟獲・孟優・朶思に馬を与えて放した。

 

蛮都に戻った孟獲は打開策を考えたが良い案は浮かばない。

そんな中でひとりが「八納洞長の木鹿王に力を借りては」と言い出した者がいた。

孟獲は「木鹿王とは対立しているのだ」と反論したが「木鹿王の力は侮りがたい」として莫大な礼物を差し出し蛮界の危機を訴えることになった。

さらに孟獲は朶思王に前衛の総大将を命じた。三江城に毒矢をそろえて蜀軍を待ち受けたのだ。

 

いやもうなんといっていいのか。

ここまでしぶといのは曹操以上と言ってもいい。あくまで冷静に対処していく孔明

しかしなんといっても一番すごいのはこのめんどくさい話を丹念に描かれている横山先生なんだよなあ。

普通途中で嫌になって簡素化しそうだけど進むほど念入りに描かれている気がする。恐れ入りました。