さて問題の九巻である。読み返しをしているわけだがここで『バビル2世』が突如変わってしまうのだ、と私は感じてしまう。
ネタバレしますのでご注意を。
というのは本作はSFというジャンルを借りた忍者ものと言っていいと思うのだ。横山氏はたぶん白土三平『カムイ外伝』のようなクールな一匹狼的キャラクターの作品を生み出したくてバビル2世を描いたのだ。
それは以前自分で描いた忍者ものが組織に属したものであったため「抜け忍」のようなハードな戦いを強いられる主人公を作ってみたかったのではないか。
それはバベルの塔というコンピューターそして人間ではない三つのしもべという形にして大成功した。カムイも鳥や犬や熊を味方にしているのからも連想できる。wikiでは「孫悟空を参考にした」と書かれているが私は「カムイと鷹と忍犬と熊」のイメージからだと思えてならない。
ところが物語になっていくと横山氏は孤独な人物より集団を描くのが得意なのだろう。バビル2世よりヨミとその組織の方が圧倒的に魅力的なのだ。
バビル2世がコンピューターおよびしもべたちに友情を感じていないのも寂しい気がする。それに比べるとヨミとその部下たちはお互いに信頼し合っていて楽しいのだ。
ヨミは部下たちのために世界征服をしようとするのがいじましい。対してバビル2世がコンピューターやしもべたちと心をつないでいない(なにしろすぐヨミに従ってしまうし)ためクールというより冷たい人間に見えてくる。
当時マンガ読者がそのあたりどう思っていたのか。「クールなバビル2世ステキ」とそのまま敬愛していたのか。どうしてもヨミに共感してしまう私にはバビル2世は外見的にかっこよくても愛情が持てない。
そういう思いが強かったのだがそれがこの九巻からがらりと変わってしまうのだ。
それは「伊賀野さん」と呼ばれる男の出現によってなのだがまずは筋を追っていこう。
ヨミからの攻撃でバベルの塔は今までにない大きな損傷を負う。幾つものコンピューターが破壊され停止し爆発が爆発を呼び防御に疲労していたバビル2世もまた大きな傷を負ってしまったのだ。
バベルの塔はバビル2世と自分自身の治療を始めた。
ヨミにとっては千載一遇の機会であった。だが
この表情はもう敵の顔じゃない。作者が共感していると思える。
ヨミは部下の一人を塔に差し向け様子を見るが必要以上に怯えここで退却してしまう。曹操が深読みしすぎてしまっている、と孔明が思う場面があったがそれを彷彿とさせる。
このヨミの深読みしすぎの退却によってバビル2世は事なきを得る。
意外にもあっさりと治療と休息をして国家保安庁局長に会いに行く。
なんだろう。こういう雰囲気が横山氏の魅力だと思う。
局長によるとF市という小さな町がここ2日間電信電話が不通で調査に向かわせるところだという。
保安庁敏腕調査員の伊賀野氏初登場。ここではなんとなく趙雲を思わせる頼もしい雰囲気を醸し出しているのだが。
ところでバビル2世って大人といると急に可愛くなるのなぜ。
まだ甘えたい年ごろなんだよなあ。
嫌がる伊賀野氏だが局長に叱り飛ばされ渋々同行する。
しかし初っ端でタバコをどこにしまったか忘れて
完全に敗けている。
行先のF市の手前は大きな崖崩れが発生してバスも手前で引き返す有様だった。
そしてふたりもまたそこで崖崩れに会い
と伊賀野氏はバビル2世に助けられて
といった心温まるほっこりエピソードが連なるのだ。
緊張感あふれる戦いの合間の癒しタイムなのだろう(その相手が美少女ではなくいかつい男というのが横山マンガ)
しかしこのやりとりが抜群にうまいし今まできつい顔ばかりしていたバビル2世が小柄で可愛い少年になってしまうのがなんとも魅力的なのだ。
しつこくカムイに当てはめてみればカムイも戦いばかりではなくお爺さんなどから慕われる人情物語が挿入されていた。あの感じに近いのだ。(ちがうだろう)
この伊賀野さん、ほんとバビル2世の引き立て役として素晴らしい。
やたら自信満々でクールな男であるのを表現するがこの後すぐに宇宙ビールスにやられてバビル2世に助けられる。
おかしいwww
この後も何度も襲われてはバビル2世に助けられる伊賀野氏。
しかも朝起きて
www
幸せな人だ。
翌日調査を始めた二人だがすぐにトラックに襲われまたもバビル2世は伊賀野を助けそのままトラックに乗りこみヨミの手下であるビールスによる超能力者と戦うことになる。
集団で戦うことで威力を増すビールス超能力者たちを相手にバビル2世も苦戦する。衝撃波は次第に弱まってしまうからだ。
しかしビールス対策のニンニク注射でバビル2世はあわやという場面を乗り切る。
F市の異変はヨミの仕業であった。
崖崩れと電信電話不通でF市は孤立した状況となっていてそこへ宇宙ビールスを持った超能力者が送り込まれたことで市内はビールスに侵されてしまったのだ。
トラックの事故でバビル2世と離れ離れになった伊賀野はビールス超能力者たちに襲われる。
長年訓練を積んだ敏腕調査員だろお。
もちろんバビル2世がトラックで駆け付け伊賀野氏を助け出す。
が、ふたりは大勢のビールス超能力者たちに取り囲まれた。
バビル2世が戦いその間に伊賀野氏が無線で救助を求めたがまたもや二人は取り囲まれる。
うん。こういう関係性がこれまでの『バビル2世』に足りなかったものだと言える。
ビールス超能力者たちはビルごと破壊してふたりを殺そうとするが突然それを止め別の場所へ集まりだした。
伊賀野氏が送った無線を誰かが傍受しヘリコプター二機が飛んできたのだ。
が、喜んだのも束の間ヘリコプターの一機がビールス超能力者によって破壊されてしまう。もう一機に逃げろと呼びかけた伊賀野はビールス超能力者に襲われまたもバビル2世の衝撃波で助けられるがバビル2世が力尽きて走れなくなる。
屋上に逃げた二人は追い詰められ危機一髪という間際にロプロスの到着で救われた。
伊賀野氏の無線は保安局に伝えられ自衛隊が調査に向かった。
しかしその救助隊もビールス超能力者たちによって次々と攻撃を受けてしまう。
やはり横山マンガの集団攻撃はおもしろい。
バビル2世と伊賀野氏はロプロスによって安全な隣町に降ろされていた。バビル2世は休息をとることで復活していた。
が、ビールス超能力者たちはその隣町にも進出しビールスをばらまき仲間を増やしていく。
バビル2世は残ったニンニクエキスを伊賀野氏に託しこの町から離れ大量生産するように頼む。
ひとり残ったバビル2世はロプロスの力を使って大人数になったビールス超能力者をやっつけていくが次から次とキリがなくバビル2世も追い詰められていく。
そこにあのV号が轟音と共に飛んできた。
ううむ。やっぱり伊賀野氏が加わってバビル2世の魅力が際立ってきた、と私は思う。
横山マンガの面白さはそこにあるんじゃないかなあ。