ガエル記

散策

『マーズ』横山光輝 ①

『マーズ』再読します。再読の再読です。

この作品も私には凄く難しくてすぐにピンとこなかったのですが気になってしょうがないので再挑戦します。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

『マーズ』をとりあえず完読すればやはり『バビル2世』との類似点と相違点を考えてしまう。

似ているのは主人公が特別な能力を持った少年であること、その能力が宇宙由来のものであること、特殊能力を持つグループではなく個体の戦いだが補佐役がいること、戦う相手が同等の特殊能力者だということ、などだろうか。

違いは『バビル2世』がほぼバビル2世の視点であるが『マーズ』はむしろ社会に視点が置かれている。バビル2世も孤独感があったがマーズは心を感じさせないのでより一層孤立感が強い。

私は「現在の感覚では『バビル2世』は孤立しすぎて悲しく思える。伊賀野氏が登場してからのわちゃわちゃ感が現在人の好みなのではないか」と書いたがそれは少なくとも当時の横山氏が求めていたモノではなかっただろう。

たぶん横山氏はより孤立した主人公を描きたかったのではないかと思う。カムイ外伝におけるカムイのような。

その志向は時代から少しずつズレていったのではないか、とも思えるのだが。時代は少しずつ「仲間」を求めはじめていくのではないだろうか。

 

『バビル2世』ではヨミ側に強い結束力と情が描かれたが『マーズ』においての敵である「六神体」とその操縦者たちにはただ使命があるだけだ。

 

始まりにもその違いがはっきりと表れている。

普通の中学生だった浩一が自分の中の異変を感じることからバビル2世への覚醒に導かれたのに対して『マーズ』では日本のある新聞社の取材飛行機に乗った記者が海底火山の噴火で出現した隆起島に立つ少年マーズを見つけるところから始まる。

全裸の少年が長い髪をなびかせて立っている姿が美しく描かれている。

 

一方で、と迅速に状況が説明される。

アメリカニューヨークのある高層ビルの一室に6人の男が集まる。

そこで男たちは「マーズが予定より百年早く目覚めた」ことについて論議を始めるのだ。

 

そしてまたマーズは診察をした医師の家で暮らすことになる。マーズは健康体だがなぜかレントゲンに頭だけ写らずしゃべることができないのだ。

だが医師が帰宅し娘の春美に会わせると途端に「よろしく」と話したのだ。

医師はあっけにとられるのだがそれまでマーズの周辺の人間は彼に対し好奇心を持ってなにかを聞き出そうとするばかりだったのが邪念のない少女に会ってその優しさに反応した、と思える。

 

またすぐにニューヨークにいた男のひとりがマーズに会い彼が持つ超能力を引き出し教える。

さらにマーズが登場した島に渡り海中に潜って彼の仲間である「タイタン」に会わせる。

男は「お前が目覚めればタイタンも目覚め偵察をしてデータをガイアーに送る。そのデータが安全と出ればガイアーは海底に眠り続け危険と出れば動き始める。呼応して世界に散らばる六体の神像が動き出し地球は滅ぶ」と告げるのだ。

 

つまり『マーズ』では主人公自身が時限爆弾になっている。

今マーズは目覚めているが目覚めていない状態だ。彼が目覚めた時世界は滅ぶことになる。

 

ここでタイタンが動き始める。

するとそれを「怪ロボット」と判断した武装艦が攻撃を始める。

六神体の男はこれを見て嘲笑する。そしてマーズに自分たちの使命を伝えるのだ。

 

「地球人類の歴史は戦争の歴史だ。彼らは残忍で好戦的だ。たちが悪いことに殺傷兵器を次々と進歩させていく。同じ地球の人間を皆殺しにしても何とも思わぬ感覚。恐ろしいと思わんか。この感覚で宇宙を飛び回り始めたら。我々はそれを監視するために遠い昔からこの地球にいる。六神体と我々は世界中に散らされ最終的におまえがセットされた。我々は一国だが、ガイアーは地球全体を吹っ飛ばせる。我々はそれは百年後と計算していたが火山の噴火のせいかお前が目覚めたのだ」

 

「しかし早く目覚めてよかったかもしれん。百年後では遅すぎたかもしれん。人間こそ恐ろしい怪物だ」

 

タイタンは武装艦を破壊しさらに陸へと進んだ。

自衛隊がタイタンを攻撃するがびくともしない。

嘲笑し続ける六神体の男から離れマーズはタイタンに「引き返せ」と命じた。

男は驚きマーズを連れ去り「なぜタイタンの邪魔をした」と問う。

マーズは「あんたが恐れるほど地球人は残忍で好戦的とは思えないんだ」と答える。

男は「「マーズおまえは一体どこが狂っちまったんだ」と地球人の怖ろしい惨殺の歴史を伝える。

 

そして引き返していくタイタンに更なる攻撃が加えられタイタンは破壊された。そのためついに「ガイアー」が登場するのだ。

 

それでもまだ迷うマーズに男は業を煮やし告げる。

「マーズ、お前が迷うなんてことは許されないのだ。言っておく。お前が死ねばガイアーは自動的に爆発するってことをな」

それでもマーズは迷い続け男に「せめて十日だけ待ってくれ」と頼み承知させた。

 

マーズは医師の家に戻り地球の歴史書を読み始めた。

そして岩倉記者と春美に自分の秘密を伝える。

そして約束の日にあと二時間となった。