ガエル記

散策

『さいごの山嵐』横山光輝

『別冊少年ジャンプ』1970ん10月号 収録本『バビル2世』8巻、潮出版社

と書かれていますが、私にはこの収録本がわかりませんでした。

追記:Xでベアハグさんから情報いただきました。

どおりで見つからないわけです。

ベアハグさん、ありがとうございます。

こちらの拾い画像では『最後の山嵐』とタイトルされていますが私が読んだ(上の)本の表紙にはひらがなで『さいごの山嵐』と描かれています。

小さなところでややこしい。

 

その私が読んだ本作はこの本に掲載されていたものです。

金の星社/監修:中野晴行

ちなみに図書館で借りましたw

表紙でわかるとおり他の漫画家さんとの同時収録の上、税抜き3200円なのでちょっとこの本を買う余裕はない・・・。

いつか横山短編集のようなものに収録されることを願います。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

冒頭、会社でベトナム戦争の写真が載った本を見ている桂木に若い社員が声をかける。

「どうです。帰りにちょっと一ぱいやりましょうよ」

浮かない顔をしている桂木に若い社員が問うと彼は「昔を思い出したのさ」と答える。

「どんな理由があるにしろ戦争はいかん。才能のある若者が花も咲かせずに散っていくんだからなあ」

 

「そういえば桂木さんはサイパン島の生き残りでしたね」

居酒屋で話し始める。

「太平洋戦争が終わってもう二十五年が経っている。しかし私にはまだきのうのできごとのようにひとつひとつが鮮明に頭に残っている。とくにあの若者のことがな」

 

その若者の名は竜道寺達也といった。

 

そこから場面は当時へと飛ぶ。

陸軍に新しく配属された竜道寺達也はまだ少年兵のような若さだが去年柔道の試合において自分があみ出した必殺技「山嵐」で相手を即死させてしまったという男だった。

軍隊でも柔道試合は行われており竜道寺の力は期待された。だが彼はもう「柔道をやめました」と言って絶対に上官に従わなかったのだ。

 

この竜道寺くん、横山氏の主人公らしい男らしい風貌の実直な若者である。

どうしても竜道寺に柔道をやらせたい上官たちはいきなり「けいこをつけてもらうぞ」と彼を投げ飛ばすのですが竜道寺くん、まるで猫のようにくるりとまわってすっと地面に着地するばかりでまったく張り合いがないのだ。おもしろい。

 

しかしこの態度が上官のサド心を刺激しそれから徹底的に扱かれていく。

走り込みをさせられ倒れたところを竹刀で滅多打ちである。

桂木はそんな彼を寝かせ水に浸したタオルを絞って冷やしてやるのだった。それを見つけた上官は「そこのふたり、消灯の時間だというのになにをしとる」と言ってまた怒るのだがなんだかなあ嫉妬ですか。

 

それからの軍曹の竜道寺に対する扱き方はますます激しさを加えていった。

なんなの、素直に好きといいなよな?

 

そして数か月後桂木と竜道寺に呼び出しがかかる。

上官たちがにやにやしながら「おまえたちふたりはサイパン島に転属になった」と命じたのだ。

ううん、もうね。

戦争ものなんで変なこと言ったら無礼千万なんですがいやなんだかもうずっとふたり一緒なんですよ?

ふたりならんで寝ころんで未来を語ったり。うーん。三島由紀夫になってしまいそう。

やはり戦争という極限の中で男たちは深い関係になってしまうんですよ?きっとね。

いやこれ美化しすぎですよね。こんな話けしからんですよ。

こんな美しいものじゃないと思うんですが桂木がどんな気持ちで竜道寺を見ていたのかと思うとね。

そして最後、桂木は傷を負い意識が薄れる中で竜道寺が絶対にもうやらないと誓った「山嵐」を敵兵に対して行った、桂木はそれを見届けそして竜道寺が殺されるのを見て気を失う。

 

「戦争はいやなんだ」と言いながらこんな物語を描いてしまわせるのは何故なんだろう。

戦争は嫌に決まっているけどそこから心惹かれるものを描く人が多すぎる。

横山光輝はその最たる人ではないかな。

 

そして腐女子もまたそこに惹かれてしまいすぎる。究極なんだよね。

 

 

こういうの、心揺り動かされてダメなんだよお