ガエル記

散策

『単行本未収録傑作集 死神 』横山光輝 その1

タイトル通り横山光輝傑作短編集です。

最後の一作品を除いた八作品が青年向けマンガであり1960年後期に描かれたものです。最後の一作品だけは70年代前半のものです。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

八作品の特徴は青年向けを意識したもので好青年ではない「悪男」と「悪女」の攻防でありシニカルどんでん返し人生の悲劇といったものが強く出ています。

なぜそんな表現が多いのかは巻末の中野晴行氏による解説を読むとよくわかる(おっと中野晴行氏というのは昨日書いた『さいごの山嵐』収録本の監修の方ではないか)

氏の解説によると「1960年代というのはマンガの読者が12歳以下の子供だけではなく中・高生大学生さらには社会人までと伸びていく過程だった」ということだ。

尚且つ「子供向けマンガを描くマンガ家は30歳を過ぎると人気が無くなり40歳ではもうダメ」という40歳定年が唱えられていたという。

子供により近い感性を持っていないと子供が望むものがもう解らない、ということだろう。

そんな中でマンガ家たちも自分たちの進む道を選択しなければならなかった。

ある者は商売やデザイン関係などに転職していったが青年誌という舞台ができれば壮年になったマンガ家もまた新しいマンガの分野が描けるわけだ。

ただ大人には大人向けの描き方が必要だ。

当時の青年コミック誌には「サスペンス・スピード・セックス」という「3S」が必要とされたという。

どおりで本作品集にはそのイメージが色濃く出ている。横山氏はその「3S」を忠実に守りながら作品作りをしていったのだろう。

これ以降、横山氏は『水滸伝』『バビル2世』『三国志』といった大作連載時期に突入していく。

鉄人28号』『伊賀の影丸』からの過渡期作品群なのではないか、というのが中野晴行氏の見立てである。

 

さて本作品集はそんな横山氏の思考錯誤のためか私には横山氏の良さが若干消されてしまっているように思える。

そしてそんな苦しみをまぎらすかのように主人公男性がやたらと美男子であるw

というか颯爽としたイケメンこそ青年マンガに必要と考えたのだろうか。横山流ゴルゴ13なのかもしれない。

 

1.『殺しの稼業』

まさにゴルゴ13のようだが

 

ちなみに『ゴルゴ13』は1968年11月開始。本作『殺しの稼業』は同年68年の1号春の号となっているのでまずこちらの方が先ですがw(別にはりあってるわけではない)(あの頃の流行りよねきっと)

エレガントな感じ

絶対女より男のほうが細やかに描かれてるっ超絶ハンサムだし

 

とにかくかっこいいポーズの連続。

だけど・・・という話。

 

2.『なぞのフォート』

謎がひらがななのも独特だし。

この頃は「フォト」ではなく「フォート」だったのか。

一番目の主人公に比べると目がパッチリでややコミカルだなあw中身もやっぱりやや軽めだ。

この「よみさしの本はさかさにさしこむ」というのは『闇の顔』(1969)でも使われていた。本作は1968年作だからこちらが先、というか横山氏がよく使う演出なのか、その頃多い表現だったのか?

主人公が若干くせっ毛

 

3.『チャンピオン』

かなり重そうなボクサーだ。

横山氏他にもボクシング漫画あると知ってはいるけど未読。

ボクシング試合をやりながらむしろ戦ってる相手は美女という奇妙な味わいの作品。

これを読むとかなり女性嫌悪が強い気がするなあ。

 

 

軽く簡単にまとめるつもりだったのが一つ一つ追ってしまった。

まあ適当に流すって横山作品難しい。読んでいると見ごたえあるので。

なので明日も続く。