ガエル記

散策

『片目猿』横山光輝

タイトル『片目猿』でこの表紙は謎すぎる。のでもうひとつのカットを置いておこう。

ちょっと小首傾げて可愛いが凄腕の忍者猿彦。

人呼んで片目猿である。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

紹介文を読まずに読み始めたのでいったい何が始まったのかと思った。

片目の忍者(これはタイトルでわかるが)が傷を負い逃げ込んだ家にいたのが庄五郎だった。庄五郎は昔覚えた塗り薬を作り重傷の忍者の手当てをする。しかしその忍者が持っていた文書を見て驚く。そこには各地の大名の兵力食糧などが詳しく記されていたのだ。庄五郎は忍者が眠り込んでいる間にその文書を写し取り「長井の殿様」に渡して自らが武士になりたいと願い出たのだった。

 

傷を負った忍者の文書で油売りから武士になろうとする庄五郎。横山主人公としてはちょっと悪そうな顔立ちである。イケメンではあるがイケメンで狡賢いときては横山主人公らしくない。どんなダークヒーローかな、と思っていたのだが、そう美濃の油売りは斉藤道三であった。しかしよく考えたら場所が美濃で油売りをしている男ならすぐわかって良さそうなものだった。

悪そうなイケメンでしょ。すでに妻帯者。可愛いのにほとんど活躍せず。ま、いつものことだけどお。

どうしても横山主人公は玄徳的な善人顔だというイメージでこの顔だと悪だくみしてる気がするんだよな。

 

とはいえタイトルが『片目猿』なんだから本作の主人公は猿彦なんだろう。

うむ。確かに猿彦の方が正統的な主人公顔だ。

猿彦はいったん自分の手柄を横取りした庄五郎を殺そうとするが庄五郎から「わしはお前の命の恩人だぞ」と言われさらに庄五郎から「あの文書はおれが買う」と続けた。「わしは武士になって手柄を立て出世してみせる。その手柄をおまえにも分ける」というのである。

 

おもしろい。夢中で読み通してしまった。

斉藤道三の出世物語に片目猿がいたとは。

しかも斉藤道三というとおっかないおっさんのイメージしかなかったがこうして油売りから武士へとなっていったのか。

いやまさかこの物語が真実ではなかろうが戦国時代にはこんなとんでもないことを起こす人間がいたのだろうう。

 

「この男なら」と目をつけてその人物を出世させていく、というと呂不韋を思い出すが本作は呂不韋とは違い武力で庄五郎を押し上げていく。

 

庄五郎は西村勘九郎と名乗り長井越中守の家老となる。

勘九郎は常に猿彦と共に動きついに斉藤利政を名乗るまでになっていく。

だが大軍の織田と戦う際に猿彦は自分の御館様の力を借りる。その時に猿彦は里の掟を守り利政と離れ里の後継者となる決意をする。

 

猿彦の策略が功を成し織田家と斉藤家は和睦し織田信秀の息子信長と利政の娘濃姫との結婚が行われる。斉藤利政の地位は確実なものとなった。

 

片目猿は利政に別れを告げる。

 

「ボーイズライフ」にて1963年から64年にかけて連載。横山光輝初の歴史ものとされている。

斉藤道三の出世物語だが何とも言えない哀愁のある終わりだ。

ひたすら猿彦がかっこいい。