amazon検索してたら出てきた。が、すでに古本のみ、での購入となる。とはいえ見つけられて嬉しい。
うーむやはりなんとなく出会うのを待つだけでなく自力で探す努力も必要なのだと改めて思う。
デジタルになってはいないようだ。
しかもこの作品本2006年発行の裏表紙に
「週刊少年マガジン1000号記念」新連載作品。1978年1月1日号~8月27日号を忠実に復刻した初めての単行本、完成!!
と書かれている。
つまりお蔵入りとなっていたわけだな。ファンの方々、さぞや待ち長かったであろう。私なんかファンになってすぐに手に入ってしまい申し訳ない。
(まあその逆は数えきれないほどあるだろうけど)
とはいえこんな長編マンガなのに何故単行本化されていなかったのだろうか。講談社という大きな出版社でもあるのに。横山氏らしい忍者ものでもあるのに不思議だ。
ネタバレしますのでご注意を。
というわけで大きな期待を持って読んだ本作だ。隠されていた宝物を見つけた気分だった。
横山氏らしい忍者もの、と書いたが舞台は幕末で主人公が早い段階で「新選組」と出会い深く関わっていく。
この設定に驚いた。私は「横山光輝は新選組は描かないだろうな」と思っていたからだ。
とはいえ本作は原作付きマンガである。原作がある面白さは作家が考えつかない設定を与えられるところにあるだろう。
横山光輝氏の原作付きと言えば辻真先氏原作『戦国獅子伝』が思い浮かぶが横山氏だけでは描かないような女性描写が多数あった。特に主人公文竜が玉燕を深く愛していく様は他では見られない濃厚な男女愛(といちいち書かなければならないのが)である。
そういう意味でも本作『少年忍者 風よ』は(私の勝手な憶測だったにすぎないが)横山氏のみでは描かなかったであろう幕末と新選組を題材にしただけでも大きな意義があるのだ。
しかしその内容となると今のところ良い作品といえるのかどうかわからない気がする。それが単行本化されなかった理由なのかもしれない。
本作は先に書いた「幕末と新選組」という設定を除けばほとんどこれまでの横山作品の焼き直しのように思える。
主人公風太は幼い時に父母と死に別れ修行をして強い忍者となっていく。この設定は父母が殺されたというのを除けば『闇の土鬼』と同じだ。しかも『闇の土鬼』では後に育ての父が殺される。
さらに新選組土方歳三が風太に執拗なこだわりを見せていくのも横山作品でよくみられる設定だ。
成人男性がなぜか少年に粘着し付きまとうのは『バビル2世』のヨミとバビル2世、『鉄人28号』の村雨健次と金田正太郎、など多々ある。
本作は特に『伊賀の影丸』の天野邪鬼と影丸の関係に酷似していて土方は風太を守ろうとし続けその理由を「お前の身になにかあると俺の手で殺せぬからよ」と言うのだ。
横山作品ではそういう関係性もあっさりと描かれるが本作での土方の風太への執着は奇妙な異常性さえ感じる。
誰もが口に出してはっきりと「土方は風太のこととなるとおかしくなる」「土方さんは風太が好きなのかな」と土方の風太への思いを表現してしまう。
そして少年が大人男性をうとましく思い離れたがるのも横山氏の通常運転だ。友達になり違ったヨミ、追い掛け回し続ける天野邪鬼と同じように土方歳三(って本当の土方ではなく)も「おれと同等に成長した時お前を斬る」と言っていたが三年経って少し背が伸びた風太は明らかに土方を飛び越えてしまっており「あんたとたたかう気はないんだ」とあっさり土方の袖に斬り目を入れることのみでふたりの関係性は突如終わるのだ。
ある意味面白くもあるのだけど土方と風太の関係を観ていたかった勢としては肩透かしだろうしいつも通りといえばいつも通りなのだ。
そして辻真崎原作『戦国獅子伝』で見られたような恋愛ものはない。
これも横山作品としていつも通りだ。
本作には「知恵」という名の美少女が登場する。知恵の師匠の名は牙波羅(ゲバラ)である。どう考えたって「チェ・ゲバラ」からの連想だ。
ということは知恵は独立した女性ではなくゲバラの分身として女体化してるにすぎないのだろう。
そもそも男言葉しか使わず男同等の忍術使いでもあり男装して裸を見せることもないから女性の役割はなにもない人物でもある。
そしてチエとゲバラが率いる「鈴鹿衆」は新選組ではなく敵対する勤皇派・桂小五郎と組んでいる。
したがって風太は土方歳三「新選組」と敵対することになるのだ。
明らかにこの構図は土方歳三「新選組」=右派、桂小五郎=鈴鹿衆=左派となっている。
鈴鹿衆は「武士も町民もない世界」を理想としたという。いわば差別のない平等な社会を作りたかった集団であったために迫害され続けてきたのだった。
優秀な能力を持って生まれた風太はゲバラに両親を殺されその復讐を望む強い意志が彼を成長させるだろうという両親の願いで作り上げられたのだ。
ということは私が「横山光輝は新選組を描かないだろう」と思ったのはまんざら間違いではなかったのだ。
だけど、この物語は果たしてうまくいったのか。
お蔵入りになっていた、と言う事実が証明しているように思えてならない。
とはいえ世界を描くことは並大抵の技ではできない。
どう考えても土方は悪役だ。顔が孫策だしなあ。