さてここからなんだかよくわからなくなってしまうのだけど手持ちのマンガ単行本では「スガルの島」が順番できてしまう。だけどwikiを見れば発表順は「はんざき」のほうが先なのでこちらに準拠します。
それから何故かこの表紙の文庫本にはカムイが登場しない「七ッ桶の岩」が収録されているのですがこれが物凄い名作なのでとてもスルー出来ない。
なので正確には『カムイ外伝』ではないのかもしれないが(とはいえ『カムイ伝』の登場人物ではあるからして)ここで感想も書いてみます。
ネタバレしますのでご注意を。
ということで先に収録されている
「七ッ桶の岩」(女星シリーズ)
日置藩の元次席家老の嫡子たる草加竜之進は今はお尋ね者として逃亡し命を狙われる存在であった。
冒頭、別の武士が人違いで襲われる場面から始まる。
その武士は腕が立ち数人の追っ手を斬り捨て去っていく。
一方ほんものの草加竜之進はまとわりつく男児をうとましがりながらも歩き続けていた。
やがて海に出たふたりは潮の香に引き寄せられ漁村の娘サキに出会う。
明るく愛らしいサキには腕利きの漁師である祖父・弥七がいる。
獲れたての魚介を食べさせてもらったふたり。
弥七はふたりに七ッ桶の岩の由来を話して聞かせる。
大蛸を見つけた男がいて足の一本を切り落とすとそれだけで桶がいっぱいになった。
次の日もその次の日も足を一本切り落として桶に入れて帰るのを繰り返した。
こうして8日目に最後の一本を切り落とそうと来た時その男は大蛸に桶もろともひきずりこまれ死んだそうな。
男児はつまらないと不貞腐れたが竜之進は聞き入った。
老漁師・弥七は風の変化を見て再び船を出すという。
驚く竜之進は誘われるままに船に乗り込んだ。他の漁師たちもこれに続く。沖の神様のやることには間違いはないと村人は信じていた。
むろん武士たる竜之進には漁の心得はない。目的の場所に錨一つ落とすのも弥七の教えに従った。
そこは弥七は自分で見つけた「弥七根」だという。海原でどうしてその場所を覚えるかという竜之進の問いに弥七は見える二点の山の形を結ぶ場所だと答えるのだった。
この時代の武士とそれ以外の人々との間にある大きな隔たりは現在の感覚では想像もつかないものだろう。
竜之進は『カムイ伝』では非人にも身をやつした人物だがこの物語では武士として自然体で漁師の弥七やサキに接している。
剣の道では優れた竜之進が弥七の漁師としての卓越した知恵と技術に恐れを抱くさまは読んでいて楽しい。
初めての漁で竜之進は疲れ果て眠ってしまう。
が、老体の弥七はその夜が最高の機会だと孫のサキに告げてひとり海に出でたという。
弥七は今夜を逃しては大鯛を獲れるのは来年になってしまうと心を逸らせたのだ。
海原に一人出た弥七だったが長年の腕は冴え船を操った。
だが一瞬の時を争う操作中梶穴に蛸が入りこんでいたのだ。
間一髪の動作に自信を持っていた弥七はたった一匹の蛸によって死に追われた。
「その道に生きる者はその道に死す」
しょせん武士は武士か、草加竜之進はサキを盾にしようとした追っ手に躊躇なく向かい斬り捨てた。
草加竜之進は自分を慕う男児とサキに冷たい視線を投げて去っていった。
竜之進が父母の仇を狙い剣の道を究めようとするように老・弥七もまた海の道を究めていた。
だがそれを見きわめたとて、と竜之進は考える。
最後の一本で人を引きずり込んだタコとは・・・。
それは自分自身、ではないのだろうか。
「はんざき」
羽生藩の指南役から勝負を挑まれたカムイはやむなくその男を切り捨てる。
がその男の行方を探す騒ぎとなっているのを聞いたカムイは死体が見つかるのを案じてこれもやむなく山中にある無住の炭窯を見つけそこで死体を焼く。
その前でサンショウウオを焼いて食べていたカムイの前に奇妙な父娘が現れた。
父親は娘は気がふれているが気立ては悪くない、という。その娘はカムイの前で裸体をはだけて身をくねらしカムイの局部をつかもうとしたがカムイは娘を強くたたきはらいのけた。
父親はそれを見て「その兄さんは女は嫌いらしい。あきらめろ」と言って笑いながら娘を抱きしめるのだった。
その炭窯はこの男のものだった。男の名は三輪三左。娘はクニという。カムイはその男と組む契約をした。
だがカムイの目的は斬った指南役黒塚隼人の死体を焼くことだった。あえて炭焼きの失敗をしたふりをして炭を灰にし、幻覚を起こすキノコを酒に混ぜて飲ませる薬活化躁の術をもって三輪父娘の目をくらませたのだ。
三左が娘クニと交わるのを見てカムイは出ていこうとする。その姿を見て三左は激しく怒りカムイを殴りつけた。
クニはカムイの前で両腕を広げ泣きながら父をとどめようとする。
今までどんな目に会っても泣いたことのないクニが滂沱と涙するのを見た三左はこぶしを降ろしカムイに謝った。
カムイは「それよりおいらにはおぬしらを非難する資格などない」と答えた。
カムイが自分のうっぷんをはらす手伝いをしてくれたことに三左は気づく。
山に入ってきた食い詰め者たちがおりクニが気のふれているのをいいことに慰み者として弄びついに首を絞めて楽しもうとした。
それに気づいたカムイは男の頭に斧を打ちこみクニを救った。
遅れてきた父・三左もまた怒りで男たちを惨殺した。
三佐もまた家士として禄を食んでいたものを身をやつしたものだったのだ。
ふたりは先にカムイがしたように殺した男たちを炭焼き窯で焼いた。
三左は炭焼きだけでなく焼き物師でもあった。
土をこね器を作るのだ。そこにカムイが持ってきたことで興味をいだいた「はんざき」を描いた。
薬売りが窯を訪ねてきた。
薬売りはかつて三左が作った徳利を持っていた。はんざきの煮汁をふるまう。
はんざきの絵を入れた皿ができあがりついに窯に火を入れる。
一昼夜あるいは二昼夜眠ることは許されず日の加減を見る。
そろそろいいだろうと焚口を閉める。
三左はクニの様子を見て来ると遠のくのを機に窯が爆発し三左はカムイを襲った。カムイにはスキはなかった。三左から血の匂いを嗅ぎつけていたのだ。
クニはすでに三左に殺されていた。
三左はカムイにクニと一緒に埋めてくれ、と頼んだ。
爆破された窯の中で三左の描いたはんざきの大皿だけが見事であった。
がそれもまたカムイの追っ手によって破壊される。
山の中の悲しい父娘とカムイとの交わり。おぞましい世界だがカムイはその世界にも
入り込むのだ。