ガエル記

散策

『殷周伝説』太公望伝奇 その10 横山光輝

返す返すも『封神演義』の世界を現実的に描くという逆アレンジした本作品の魅力に感嘆してしまいます。

『武王伐紂平話』をベースに創作された、ということなのですがこの面白さは独特の味わいがあります。

封神演義』ほどファンタジーではないけど哪吒たちのような子どもが山で修業して戦場で活躍する、というのはさすがにファンタジーでしかありえない、と思いながらも現実にも少年兵というのは存在するし日本での忍者を思い返すとこうした特殊能力を持つ少年たちもありうるのかなとも思えます。

ファンタジーではなく現実に寄せてきたからこそ特殊能力に凄みが増すとも思えます。

太公望も老人と思えない若々しさを持ってはいますがそれ以外は軍師として地道に活躍しているのも面白い。

太公望のマンガと言えばまず藤崎竜封神演義』主人公ですが諸星大二郎太公望伝』の太公望もまたリアル描写での太公望で読み応えあります。

本作の始まりは『封神演義』より先ですが諸星『太公望伝』よりはかなり後なのでもしかしたら横山光輝氏、諸星作品のリアル太公望にインスピレーションを受けたのでは、と思ったりもします。物語自体は諸星版は太公望が文王に出会うまでをじっくり描いたもの、であるのに横山版はむしろその後をたっぷり描いているので印象は違いますね。そしてその後を描いているので『封神演義』の世界により近くなったことでその違いの面白さが際立っています。

 

 

 

さてネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

殷軍は兵糧乏しく飢えていた。聞仲太師は汜水関の韓栄に激怒していた。

使者の言葉に韓栄はやむなく周囲の村々から食料を奪って集めた。ただでさえ重い年貢に苦しんでいる上にことごとく食糧を奪われ村民らは恨めしく殷軍を見送った。

 

が今回も(必死に集めた)兵糧を吒三兄弟にあっさり奪われてしまう。(なんかむごい)

しかし殷軍にも機転を利かす兵がいて(っていうのも悪いけど)三兄弟が兵糧をどこへもっていくかを見定めた。

兵糧が山の中の隠し砦に収められているのを目撃した兵はそれを軍に報告する。

 

殷陣では再び武吉・楊戩に夜襲をかけられ聞仲太師は怒る。そして兵糧が隠し砦に運ばれていたという報告を受けて攻撃を開始した。

太公望もこれに対抗する。

三十万の殷軍に対し西岐軍は五万しだいに押され南宮适将軍は「十六法の陣へ逃げ込め」と命じた。

聞仲太師は喜色満面で西岐軍を追いかけ山間の十六法の陣内の兵糧を奪い返すがいいと命じた。

が、十六法の陣内は迷路になっている。殷軍は複雑に分かれている陣内を進むために分裂して進み続けそこへ崖上から岩石を落とされ矢を浴びせられ退くこともできず死んでいった。また落とし穴に落ちて死ぬ部隊もあった。

十六法の陣の迷路で殷軍は四方から攻められどこへ逃げていいかもわからず逃げ惑い殺されていった。

 

殷軍の惨敗を聞仲太師は知りやむなく残った五千の兵と黄花山の山賊たちとともに逃げ延びることにした。

 

ところが宿を借りることにした屋敷では聞仲太師が「朝歌の偉い人」と名乗ると嫌がられ辛環が「冗談だよ。黄花山の親分だ」と言い直すとそれなら泊まっても良いと答えられた。

聞仲太師は「朝廷よりも山賊の方が民に支持されているとは」と打ちのめされる。

 

 

辛環はそこで手下たちを山に返したが自分は最後まで聞仲太師に恩を返すと供をした。

しかし太公望はすでに聞仲太師の退路に兵を配置していた。

聞仲が青竜関に逃げ込む前に西岐軍は襲い掛かる。

「年老いてもまだ負けんぞ」と聞仲太師は鋭い反撃を向けたが矢を浴びせられ四方から槍で突かれついに馬から落ちた。先帝に詫びながら最期を遂げたのだった。

山賊の辛環もまた針鼠のように矢を浴び最期を遂げた。

 

朝歌に聞仲太師の討死が報じられた。

殷軍三十万は壊滅。

この報に紂王は「我が父と同然だった」と嘆き悲しんだ。しかし妲己は「聞仲太師に疑惑を持っていました。西岐と内通していたか殷を見限っていたか、聞仲一族を厳しく尋問しなければなりません」と言い出す。

紂王の命令で聞仲一族は捕らえられ激しい拷問をかけられ内通を白状せよと迫られた。

が内通などしないの一点張りで妲己は偽の告白者を仕立て上げた。これによって聞仲一族はことごとく処刑されたのだ。

 

紂王は次なる西岐討伐に鄧九公を任じた。

 

ここから鄧九公の娘で勇敢な女戦士鄧蝉玉と土行孫の恋物語が始まる。

と言っても鄧蝉玉の投石は恐るべきもので哪吒・黄天化がそろってやられてしまう。

が、楊戩の攻撃でその鄧蝉玉に傷を負わせる。

ここから土行孫が鄧蝉玉の傷の手当をして近しくなり始める。

鄧蝉玉は強いだけでなく美しい娘だが土行孫は鈍重な体格でぱっとしない見た目なのだが医学だけでなく不思議な術を体得していた。

細い紐のようなものを投げつけるのだがそれに棘があって哪吒や黄天化さえも動きを止められ捕らえられてしまったのだ。

 

楊戩は影になってその様子を観察した。

報告を受けた太公望は次は自ら土行孫の相手をすると言い出す。

戦いの中でまたも土行孫は紐を投げ太公望の体に巻き付いた。と太公望は体のしびれを感じ動かなくなる。土行孫は「それ、太公望を捕えろ」と命じたが「そうはさせん」と黄飛虎が飛び出してきた。

さらに武吉が太公望の乗った馬に走り寄ってそのまま連れ去る。

追いかけてきた土行孫を金吒木吒が阻止した。

が金吒木吒の攻撃を受けた途端土行孫は衣服だけを残して消え去ったのだ。

金吒木吒は唖然と周囲を見回したが土行孫の姿はなかった。

 

カッコ悪いが不気味な能力を持つ土行孫。

哪吒と黄天化がやられてしまうとは。