ガエル記

散策

『殷周伝説』太公望伝奇 その12 横山光輝

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

拝将台が短期間で建設された。

武王が即位してから十三年、三月十五日、太公望を東征大将軍に任命する儀式が執り行われた。

 

武王が太公望を迎えに赴き拝将台を一層ずつ上がりながら祝文が読み上げられる。そして三層にて武王から司令官旗と黄金の斧が手渡されるのだ。

太公望は武王に殷を破ることを誓い皆にもこれを宣誓した。

その後、太公望は十七か条の厳しい軍律を作成し総勢六十万の軍勢による大訓練を行う。

 

孟津で四大諸侯が集い同盟を結んで朝歌に攻め入る、という報が朝廷にもたらされた。

紂王は決まらずにいた次の西岐討伐軍を急かす。

重臣は三山関の孔宣の名をあげた。この者は西方で修業しており戦術武芸がまるで違うというのだ。紂王はそれを認めた。

 

東征軍は発進した。

燕山を越え金鶏嶺にさしかかったところで魏賁という男が参加した。

その頃孔宣の征西軍十万も金鶏嶺に近づいていた。

ここで黄天化が将を討ちとる。太公望は戦功の一番に黄天化の名を記そうと名簿と硯を出させた。

ところがその名を書き記そうとした途端筆の頭がポトリと落ちてしまったのだ。

太公望は言い知れぬ予感があった。

 

続いて現れた将は武吉が三番目には魏賁がさらには哪吒がいずれも勝ち戦であった。

次には総司令官孔宣自身が出陣してきた。

洪錦、金吒、木吒、哪吒と次々に対戦したがこの男が息を吐くと生臭い臭いがして皆気を失って倒れてしまうのだった。

続こうとするのを太公望は押し留め孔宣も引き揚げた。なにかの術であるのは確かだった。

太公望は夜襲を命じた。

 

しかし孔宣は先にその気配を感じ不思議な術をもって崖崩れを起こし西岐兵を阻止した。

その気配に気づいた高継能は対戦する黄天化にスズメバチで襲わせた。

駆け付けた武吉が馬から降りて身を伏せろと叫んだときはすでに遅く黄天化の体にはスズメバチの毒がまわってそのまま倒れ落ちたのだ。

高継能は動けない黄天化の胸を槍で貫いた。黄天化は首を討ちとられた。

スズメバチ相手ではどうにもならない。武吉はそのまま退却するしかなかった。

 

他の部隊も崖崩れで多くの兵を失い夜襲は大失敗で引き返した。

 

 

黄天化の死が報じられた。

太公望は驚き黄飛虎は涙を抑えきれない。

しかも武芸ではなくスズメバチに襲われ命を落としたのだ。

太公望はどうすればいいのかと思案にくれた。

 

ひとりになった太公望は武吉がとっさに地面に伏せたと言ったのを思い出し再び呼び寄せた。

武吉も話すうちにスズメバチを思い出す。

ある種の鷹はスズメバチが好物で翼で叩き落として食べてしまうという。

(検索してみたらハチクマという鷹がそうらしい)

しかもその鷹の匂いがスズメバチは苦手なのだというのだ。

太公望は武吉に昔の山に行って仲間を集めその鷹を出来るだけ多くとらえてきてくれと頼む。

 

黄飛虎は息子を失い太公望に出陣を嘆願した。

すでに武吉が鷹を持ち帰っており太公望はその願いを聞き入れた。

黄飛虎は熱い思いで高継能と対戦し武吉の鷹でスズメバチを防御して黄天化の仇を取った。

が続く孔宣はまたも生臭い吐息で相手の気を失わせた。

孔宣は「まだ戦いを挑むなら今まで捕らえた人質を殺す」と言い放った。

 

太公望は追い詰められた。

やはり黄飛虎の嘆願を聞き入れるべきではなかったと悔やむ。

さらに武王からも「被害が大きい。三日で解決できぬ時は撤兵いたす」と言い出されてしまう。

 

そこへやってきたのが西方の準提道人という老人であった。

太公望は恭しく老人を招き入れ御用を聞いた。

準提道人は「ある魔物を追って彷徨っております」と答える。太公望は魔物という言葉に驚く。

道人は「その魔物がこの金鶏嶺におります」と言って話し出した。

 

西方のある村でかつて赤子や用事がさらわれ食べられてしまう、という事件が頻発した。それは獣ではなく人間によって行われたのだ。村人がその男を殺そうとすると男は異様な術を使って村人を殺害した。

その男はそれからも各地で幼児赤子を食い続けた。人々は聖地の修験者たちに助けを求め修験者たちは神の矢で男を射たが口から黒い塊のような物が飛び出し修験者の一人の口に入ってしまった。その修験者は「このままでは畜生道に落ちる。早く殺してくれ」と願った。

またもその口から黒い塊が飛び出しどこか遠い空へ飛んで行ってしまったのだ。

それからも修験者たちは人食いを探して回った。

ある人物から人食い人間を見つけた時に額にはめていた金の輪が反射しその男がひるむのを見たというのだ。また聖地や霊山には現れないという。

天外道人はその魔物は神を恐れていると考え神鏡と神の矢を持って魔物を追い詰め壺の中に封じ込めた。壺の中は身をひそめられる闇があるからだ。

天外道人は壺に封印をして地下深く埋めた。

ところが十年後墓荒らしがその壺を掘り出し開けてしまったというのだ。

どうやら宝物でも入っていると考えたらしい。

天外道人はすでに百歳を越える。そこで準提道人が代わりに魔物探しの旅に出て孔宣将軍に乗り移っているということをつきとめた。

そうしてこの金鶏嶺までたどり着いたという話だった。

 

恐ろしい敵・孔宣将軍には魔物が取りついていたと聞き太公望は準提道人と共に明日出陣すると約束した。

しかしそうなると今捕虜となっている味方の命が危うい。

太公望はすぐに楊戩と土行孫を呼んだ。

 

翌朝未明太公望は準提道人と共に出陣した。

金鶏嶺の険しい山道を登りゆくと孔宣将軍は捕虜たちをすぐ処刑せんばかりに並べ捕縛していた。太公望軍を見るや孔宣は処刑を命じた。

だがすでに土行孫と楊戩が処刑場に忍び寄っており処刑人を殺し次々と味方の縛を解いた。

解き放たれた哪吒たちは暴れまわった。

 

太公望に立ち向かった孔宣には準提道人が立ちふさがった。

神鏡を向けると孔宣は苦しみ始めた。そこで準提道人は壺を差し出し静かに安眠したければこの青銅の壺に入れ、と言うと孔宣将軍の口から黒い塊が飛び出して壺に入る。道人は封印をした。

そして朝歌の宮殿や鹿台からは妖気が上がっていると告げ去っていった。

 

やっと孔宣将軍を倒せたが黄天化を失う、という大きな痛手を被った。

 

が孟津までの道は困難を極めた。