ガエル記

散策

『カムイ外伝』白土三平 第二部/スガルの島

2009年崔洋一監督、松山ケンイチ主演で『カムイ外伝』として映画化された本筋はこのスガル編からきているのもあり翻訳化された単行本もこの編であるので『カムイ外伝』で最も有名なパートかもしれません。

確かに非人として生まれ忍者の修行をして抜け忍となったカムイがもうひとりの女抜け忍と出会い人間社会で生活する道を見る重要なエピソードなのです。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

第二部に入った時点で書くべきだったのに忘れていた。

カムイ外伝』第二部から描写がいわゆるマンガ調から劇画へと変化している。実を言えば私はマンガ調の絵の方が好きなのではあるけれど『カムイ外伝』第一部が抜け忍としてのアクションが主体だったものが第二部になって人間社会との関りが主に描かれていくのには劇画の生々しさが必要なのかもしれない。

 

「スガルの島」では先に描かれた『七ッ桶の岩』が必要な下書きだったと思える。

草加竜之進が弥七に海の掟を教えられたようにカムイもまた半兵衛に島の民の生き方を教えられここに骨を埋めてもいいと思えるようになる。

 

カムイは偶然乗った渡し船で時化に会い溺死するところを半兵衛に助けられる。そしてその半兵衛の妻が抜け忍スガルだったのだ。

スガルはカムイを追忍だと思い込んでいる。かつてカムイが疑心暗鬼になったのと同じようにスガルもまた疑念から逃れられなかった。

 

しかしここで面白いのはスガルの娘サヤカがあまりにも純粋にカムイに恋心を抱き慕っていることだ。

カムイ自身は常通り女性に極端な反応をしないがサヤカには、というより海の民に好意を持ちその一族に入りたいと望みそれが叶うなら将来サヤカと夫婦になることも拒むことではなかったのかもしれない。

 

余談だが映画『カムイ外伝』でカムイ役の松山ケンイチがスガル役の小雪と夫婦になった(娘役とではなく)事実が奇妙に物語とリンクしてしまって(小雪氏のほうが松山氏よりかなり年上だったこともマンガと合っているわけで)実際カムイが好意を抱いたのはスガルだった気がしてならない。

 

カムイが惹かれたのは海の男半兵衛であり互い助け合うことで生きられるのだという海の民そのものでありそのためにスガルの疑心を解き家族となりたかったのだ。

しかしスガルは何度もカムイに生死をかけた勝負を挑む。カムイはスガルの幸福のためなら死んでいいと思いスガルの武器である長針を首に受ける、が偶然にも亀がスガルの足をすくい急所をそれてしまう。

 

幾つもの偶然が運命として描かれカムイとスガルの糸を手繰り寄せる。

 

そして半兵衛が優れた漁師になるために罪を犯し手に入れた領主が乗る馬の脚は「一白(いちじろ)」と呼ぶ貴重な釣り針となる。

その罪で半兵衛は捕らえられ磔となるがあわやという寸前でカムイとスガルが手を組み半兵衛を救け出す。

珍しい艶やかなアクションシーンである。

 

そしてカムイは半兵衛一家が逃げられるよう領主と追忍を引き受ける覚悟をするのだがスガルは「私のために夫や子供たちが犠牲になる」と弱気を見せる。

カムイは叱ってスガルを追い払おうとするが間に合わず追忍に囲まれてしまう。

だがここで謎の男たちがカムイとスガルを救った。半兵衛はスガルの正体を知っておりこの男たちにふたりの無事を頼んでいたのだった。

男たちは渡衆だと名乗る。頭の名は不動。彼らと半兵衛は同じく山窩の仲間だった。彼らは島民を怯えさせている鮫を退治に来たのだ。

 

スガルのカムイが追忍だという疑心は消えた。それでもカムイ自身が抜け忍であり自分と同じくいつまでも追手から狙われる運命にあることで娘サヤカの恋心を見逃すわけにいかないのだった。

サヤカは月日貝をカムイに渡し自分の恋心を純真に示す。カムイもまたサヤカの好意を嬉しく思いながらもスガルの心を察して去る決意をする。

 

が、ここでカムイは渡衆の不動が追忍と知っていくことになる。

 

渡衆は抜け忍たちだった。まず彼らはカムイに技を見るためとして投網をかけ腕前を確かめた。彼らはカムイに謝り仲間だと打ち明ける。

しかし頭の不動は冷たい目でそれを見ていた。不動こそが追忍だったのだ。

不動はカムイを鮫に食わせようとするがカムイは危険を逃れる。

その間に不動はスガル一家の水瓶に毒を入れて皆殺しにし仲間(と信じている皆)を引き連れ島を離れていた。

さらに不動は彼を頭と信じていた渡衆(抜け忍)たちすべてを鮫に食わせて殺戮し尽くす。

役目を果たした不動の前にカムイは現れた。不動の手足を斬り捨てまだ生きている不動を捕えて鮫の餌食にしたのだ。

スガル・サヤカ・半兵衛たち抜け忍たちが受けた苦しみを味わって死ね、とカムイは船をこぐ。

「スガル、半兵衛、サヤカ、聞くがいい。ヤツの悲鳴を」

 

おれも去っていこう、遠く、遠くへ

 

チェンソーマン』を思い出させる。そういえばチェンソーマンのことを鮫男が慕っていたな。やはりここからきているのかもしれない。