ガエル記

散策

『レベッカ』のレベッカと『ツイン・ピークス』のローラ

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人生にはいろいろなきっかけがあるものです。

先日ヒッチコックを紹介する番組の中で初期の作品『レベッカ』が出てきました。これは監督の渡米第一作作品で1940年の製作となっています。

実はこれ私、何度か見ようとしたのですがもともと原作小説が大好きで読み込んでいたために却って反発を感じて見損ねてしまっていました。

デュ・モーリアの原作小説ではヒロインが貧しくて「ぱっとしない容姿でウェーブをかけない断髪にしている」と書いてあるのにヒッチ映画でのヒロインは美人なうえに髪に綺麗なウェーブが見事にかかっています。

ヒッチは女性の美貌にこだわりがあるし、当時の映画の作法としてパッツンヘアはいただけなかったのかもしれませんがどうしてもあの髪型を見てしまうと小説世界に入っていけなくなってしまって断念しました。

それにどうしてもあの女優さんでは「みっともなくもじもじした内気で地味な娘」に見えないではありませんか。そうした見栄えのしない小娘が貴族の館に入ることになるのが醍醐味なのですが女優さんが綺麗すぎては台無しではありませんか。

とはいえ、当時ヒッチはこれで唯一のアカデミー賞作品賞を取っているわけですから自分としては謎すぎです。

いや、その点を除けば確かに見ごたえのある映画なのですが、昔の映画は素晴らしいのですがあの人工的な美の追求には抵抗があります。

 

前置きが長くなりすぎているのですが、このヒッチ映画からデュ・モーリアの小説『レベッカ』を思い出しているうちにはっとしたわけです。

「あれ?この物語の謎の筋立てって、『ツイン・ピークス』のローラ・パーマーと同じだ」

そうなのです。

ただしこの共通項はヒッチ映画『レベッカ』では見出しにくいと思います。なぜならヒッチ、もしくはプロデューサーのせいか、それが無くなっているからです。

小説『レベッカ』ではこの共通項が非常に細かく描かれていて、この部分こそ『レベッカ』の魅力であったのですが映画ではこの部分はさほど興味を持てなかったのか、省略されてしまっているのです。

ツイン・ピークス』のローラと『レベッカ』を重ね合わせたいと思われたらまずは是非小説『レベッカ』をお読みください。

 

さてその共通項とはなんでしょうか。

それは物語が始まる時、すでにそのヒロインが死んでいるのですが、物語は彼女の死を追っていくことで進むのです。

そして彼女の周囲の人間たちは皆口をそろえて

「あんなステキな女性はいなかった」というのでした。

ツイン・ピークス』のローラの場合は女の子、というべきでしょうが私はその部分がとても面白いと思っていました。

明るい美少女でしたから男子が「可愛かった好きだった」というのはわかるのですが、女友達も仕事先でも誰からも好かれている。食事を運ぶボランティアをしていたりとてもいい子だったというのがローラ・パーマーだったのです。

レベッカ』のレベッカも同じで物凄い美人というだけでなく誰からも愛されている。老婦人ももちろん男性たちも彼女の魅力にぞっこんだった、という言葉が繰り返し言われ取り柄のないヒロインを苦しめていきます。

 

もちろん『ツイン・ピークス』はその部分はごく一部のことでありそれ以外の膨大なパーツからなる作品なので単純に『レベッカ』を真似したとはとても言えないわけですが死んでしまった美しい女性、への賛美の方法に非常に似通った共通項を見つけてしまった、のでした。

またこの美しい女性が水の中で死んでいた、というのも同じです。

大きな違いは『ツイン・ピークス』ではその溺死体が美しいという大きなコンセプトであったのに『レベッカ』ではそうした演出はないということですね。

 

 

繰り返しますがヒッチ映画ではあまり感じられないのでデュ・モーリアの小説をおススメします。

 

 

 

 

もう少し書きたくなりました。

 

 

 

 

若い頃、デュ・モーリア著『レベッカ』を何度も読み返しました。ゴーストは出てこないけどゴースト風味のあるミステリーで謎が謎を呼ぶサスペンスが面白かったのですが、夢中になったのはやはり舞台がイギリスの田舎にあるマンダレイという豪奢な屋敷での優美な生活となっていたからに違いありません。

レベッカ』のヒロインは貧しい身の上で裕福ではあるけど意地悪なホッパー婦人のコンパニオンとして勤めています。

(イギリス小説は様々なことを教えてくれますが金持ちの婦人にはこういう同性の付き人「コンパニオン」がいるというのもこの小説で知りました)

さてむかつくような下品で意地悪なホッパー夫人ですがこの夫人が上流階級であったために素晴らしいマンダレイの屋敷の主人であるマキシム・デ・ウィンターに声をかけることができ、貧しくとりえのないヒロインは、でなければ知り合うこともなかったであろうマックスと恋に落ちることになるわけです。

ですからホッパー夫人には感謝せねばなりません。

どういうわけか雲の上の住人のようなマックス・デ・ウィンターはみすぼらしい(と思える)ヒロインを気に入りあっという間に結婚を申し込むという事になります。

 

さてこのパッとしないおどおどしたヒロインはどんな恐怖へと導かれていくのでしょうか。

 

続く