ガエル記

散策

『嘆きのピエタ』キム・ギドク 『どろろ』

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もともとクギ作『キリング・ストーキング』の批評として選んだ『嘆きのピエタ』(未見だったにも関わらず)でしたがこちらのほうだけもう少し。

 

 

以下ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

 

 

 

お前を捨てた母親だと言ってイ・ガンドの前に現れた女性ミソンでしたが実はそれは嘘でイ・ガンドを騙して復讐を果たすためでした。ガンドにご飯を作り一緒に街で遊ぶ。そんな他愛ない生活を知ってガンドは生まれて初めて母親から愛される幸福を知ってしまうのです。

しかし共に過ごしている間にミソン自身もガンドに対して母親の愛情を持ってしまい復讐を果たそうとした時激しく動揺してしまう、という展開を観て思い出したのが手塚治虫どろろ』3巻の白面不動の巻に登場する化け物です。

人間の顔を欲しがる白面不動の手下で女の姿をしたその化け物はどろろ(小さな子供です)を世話しているうちにすっかり母親のような心を持ってしまい、主人である白面不動の命令に反抗してどろろを逃がしてしまう、という話です。

 

キム・ギドク監督が果たして手塚治虫の『どろろ』を知っていたかどうか想像もつきませんし筋立てもまったく同じではありませんが騙して酷い目にあわせるつもりだったのにいつしか本当の母親のように可愛く思うようになってしまった、という切ない物語であるのは同じです。

 

この『白面不動』の話でどろろに母親のような愛情を持ってしまう、という個所は確か新しいアニメでは削除されていたように記憶しています。

昔のアニメと原作マンガではその部分がとても印象的だったのでなぜ新しいアニメではそこが改変されてしまったのか、とても不思議でした。

どろろ』リメイクアニメはとても素晴らしい出来栄えだったと評価していますがその箇所だけはどうしても腑に落ちません。

 

そういう落胆があったところまさかキム・ギドク作品でかつての『どろろ』「白面不動の巻」の名場面が観れるとは思いもよらないことでした。

 

ちょっと道草的な話ですが私としてはとても感激だったのです。