ガエル記

散策

『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』イーブス・バーノー

トルーマン・カポーティ、日本ではどれほど知られているのだろう。

と言ってもあの村上春樹氏が特別にお気に入りで新翻訳本まで出しているほどだからハルキストなら知っているはずではある。読んでいるかはわからないが。

(春樹氏は同時にフィッツジェラルドも好んでいるがこれも何かしらの奇妙な反感を覚えてしまう)

などと書くと私自身はカポーティを熟読しているかのようですが実はあまりというかほとんど読んでいません。いくつか読んで非常に上手いと思ったにもかかわらず夢中になれなかったのは村上春樹しかりフィッツジェラルドしかりまたカポーティも私が住みたいもしくは覗きたい世界ではなかったに違いありません。

 

そう書きながら春樹氏にしろカポーティにしろ何かにつけ気になってしまっている自分もいます。

 

本作ドキュメンタリーをアマプラで見つけた時もやはりそうでした。

若くして文壇に登場しずば抜けた才能と繊細な少年のような容姿で話題となりやがて新境地となるノンフィクション『冷血』を発表し名声を高めたがその後死ぬまで長編を書き上げることはなく映画やTVそして社交界で活躍し暴露小説を書いたことで失墜していく。

似たような経歴の作家はかなり存在するのではないかとは思います。

もしかしたら村上春樹氏はこうしたカポーティに憧れていたのかもしれません。しかし春樹氏はスタートでほとんど話題になりませんでした。むしろじっくりと人気を高めていった気がします。しかし彼が(春樹氏が)デタッチメント作家として人気を高めていったのにオウム真理教に関わるノンフィクションを手掛けたのはどこかでカポーティの選択を意識していたのはないのでしょうか。

とはいえ春樹氏は映画TV社交界で時間を費やすことはまったく無いのでカポーティのような悲惨な末路を歩むことはせずにすみそうです。

 

というのはもちろん悪い冗談です。

村上春樹氏はどうしたってカポーティになれるわけもなく。

カポーティの苦しみはやはりあの時代のアメリカで同性愛者であったことと両親から見捨てられ「誰からも愛されない」とあきらめてしまったことにあるのです。

上流社会に憧れ自分を捨てた母親がその夢を果たせないまま自殺し自分の腕の中で息絶えた(と彼は語る)ことで上流社会を母の仇として恨み暴露本を書くことで復讐しようとするも中断してしまう、と書いていると重なってしまうのは突然関係ないのですが先日の元首相を殺害した山上徹也だったりもします。

 

毒親”に関わってしまった子どもたちは幸福になるのが難しい。

山上徹也容疑者は子供時代に母親の心を旧・統一教会に奪われ破産に追い込まれた。あのカルト団体さえなければという思いがそこと深く関わる安倍氏への殺害に繋がってしまった。

山上容疑者にしても過去を切り離して自分の道を改めて歩みだせば良かったのに、ということは容易いですがどうしてもそれができなかったのでしょう。

カポーティもまたそうできれば幸福になれたのかもしれないのに母親を死に追い込んだ上流社会への復讐から逃れることができなかった。

そしてあの時代に同性愛者であることを公表し奇妙奇天烈なキャラクターを演じ続けた。そのストレスがどれほどなのか想像はできません。

麻薬に溺れながら上流社会社交界の暴露本を書いて発表しそれで自殺者まで出たとしてもそれで彼が復讐を果たしたと満足できるわけもありません。それは復讐できる存在ではないのですから。

 

トルーマン・カポーティ毒親に人生を破壊された「かわいそうな子ども」です。

復讐したくてもその相手は存在するとは言い難い不気味ななにかです。

多くの毒親の子どもたちと同じなのです。

彼らを救うことはできるのでしょうか。そうした教育はとても必要だと思います。