ガエル記

散策

『タンポポ』伊丹十三

これも再鑑賞でした。

とはいえ私は九州人なので昔観た時は醬油ラーメンが美味しそうに思えなかった、というところで引っかかってしまったという記憶があります。

その後も食べたラーメンはほとんど豚骨ばかりですが今回観ていて醤油ラーメンが美味そうで美味そうで。

そもそも我々は(日本人は?)ラーメンを食べているシーンに物凄く弱い。ラーメンを啜っている場面を見せられると異常なほど食べたくなってしまう、という反射神経を持っています。この映画を観ていて(昔の私のように好みで作用されるかもしれませんが)生唾ごくりにならない人はそういない気がします。

悲しいのは若い頃には許されたスープ飲み干しが今はせいぜい二口くらいで我慢するしかないということでしょう。塩分をまったく気にせず食事ができるのは若さの特権ですね。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

本作は伊丹監督自ら「ラーメンウェスタン」と称されていて今でいえば『ゴールデンカムイ』を思わせもします。そういえば『ゴールデンカムイ』も「グルメマンガ」の異名も取っていましたがウェスタンをやるとお腹がすくのでしょうか。

(ラーメンだけでなく途中登場するオムライスも他の色々も美味そうです)

馬ならぬ大型トラックで駆けてきたゴローとガンは車中でラーメン本を読んでしまったため我慢ならず通りがかったしょぼいラーメン屋に飛び込む。

そのラーメン屋は小柄な中年女性が一人で切り盛りしていたが沸騰していない湯に麺を放り込むのを見てふたりは嫌な予感がする。案の定そのラーメンはまずかった。

しかも女店主はヤクザもどきの男に「こんな店やめちまえ」と脅されていた。その男は実は女店主の幼馴染で親身になっていたのだったが。

行きがかり上ゴローはビスケンと呼ばれるその男一味とケンカしてボコボコにされてしまう。手当てをされ朝食をごちそうになったゴローとガンは女店主タンポポに懇願され彼女の腕前を鍛え売れるラーメン屋にするため尽力していく。

 

こういった設定は目新しいわけではありません。他でもよくあるといってもいいのですが本作が面白いのはその簡単な設定とあらすじに伊丹十三監督の豊富な知識がこれでもかと盛り込まれているからです。

そうした知識とセンスは氏が書かれていた本に書かれていますが映画では物語のすべて画面の端々にまで行きわたっているのです。この知識とセンスは他の日本映画ではほとんど観ることがないものと言えます。そうした教養がこの映画に深みのある面白さを生み出しています。(これも『ゴールデンカムイ』にも共通して言えることですがウェスタンものってそういう意味?)

 

と絶賛しますが一方、ラーメン作りの本筋ではないパートは現在観ると「いかがなものか」と少々首を傾げざるを得ません。

変な言い方、というか当然とも言えますが伊丹監督さすがに自分の妻である宮本信子パートはほんのりとした色気しか演出しないのですがそれで充分だと思います。

なのに伊丹監督は本来濃厚なエロ場面を入れないと気が済まないタチなのでしょう。それを「我が妻」に演じさせるのは気がひける、のでしょうか。

他作品にも共通していますが宮本氏が登場するパートは清純でそれ以外は濃厚エロという極端な演出になってしまうのです。

が、それでいえばヒロインを妻にしたために現在でも観れる映画になったのではないか、とも思えてしまいます。監督と宮本氏は反論されるかもですが。

 

本作は日本でより海外で評価が高い、というのも面白かったです。

シンプルで男気のあるストーリーというのは確かに海外のほうが受けそうです。

私自身以前観た時よりも今のほうがこの映画の良さが解るように思えました。

「へぼな中年女を美味いラーメン屋に仕立てる」というしょぼめの題材でもこんなに面白い映画が作れるのは監督と脚本の腕の見せ所です。もちろん脚本も伊丹十三氏によるものですね。