ガエル記

散策

『TENET』クリストファー・ノーラン

難解でとても理解できない映画、という評判を聞いていたので躊躇ってしまい今になってしまったのですが何故か私には観ていてとても居心地の良い楽しい映画でした。どうしてなんだろう。

 

複雑な時間のトリックの説明はできはしないし素晴らしい考察が他にあるのでそこを見てもらえばいいのですが私はそれ以外のノーラン監督の持つ味わいに満足したのだと思っています。

 

まずは主人公の男性。小柄な黒人でそれほどずば抜けた超人ではなさそうですが誠実のいう一点で主人公になっています。

と書くとつい先日まで観ていた『ロード・オブ・ザリング』のフロドの設定と同じではないですか。

誠実=Honestyな男が主人公、というだけで物語を観ていけるのです。

その男には頼もしい友人がいてそのことも大きな魅力になっています。『ロード』においてのアラゴルンですね。

 

ヴィランという呼称になるセイターは単純にサウロンとなるわけで『ロード』が面白いのなら本作も面白くないわけがない。

 

本作の主人公〝名もなき男”の誠実さに打たれます。

ヒロイン・キャットは主人公のあまりに尊大で可愛らしさに欠けるし本作ではあくまでも母親という立ち位置で登場しており甘い恋人役ではないのだがその女性を命懸けで救おうとするのです。

 

トリックの面白さ以上(それ自体確かに愉快でしたが)にこの作品の味わいと名もなき主人公とその友人の物語に浸りました。

 

そもそも自分が時間軸を複雑に動かしている映画がとても好きということもあるのですが多くのレビューにある「理解不能でつまらない」「理解したとしても映画としてつまらない」という感想は私にはとても謎です。

むしろ『インターステラー』で感じたお涙頂戴SFの真骨頂でもあります。