映画好きがどうしても観なければならない作品は、と聞かれたら本作をまず挙げようと決めました。
以下ネタバレしますのでご注意を。
かつて私が若い頃『エレファントマン』という映画が話題となりそれをどう評価するのかを私たちは考えねばなりませんでした。
「見世物」としてまた研究材料とされたエレファントマンの生きざまをリンチ監督は独特の美学ファンタジーとして映像化しました。
本作の主人公はそれとは違い現実の社会の中で一市民として労働し生活している女性として描かれています。彼女はエレファントマンではなく一般社会人として存在しているのです。
社会が変化したのも一因でしょう。
彼女の異常性は表面的には極端に「普通人」と違う容姿のみ、という判断で認識されています。後にそれだけではなくセックスの違い、そしてまったく違う別人種「トロル」であることが説明されていくのですが通常の社会生活で他人がそこに踏み込む必要はありません。
しかし本当に現実にそうであるかと言えばまた違うのでしょう。
映画でも主人公は一般人である白人男性と同居していますが彼の求める性交はできません。とはいえどうやら獣姦を好んでいるらしきこの同居人を「普通」と判断できるかはこれもまた観客の感性次第です。
そしてもし主人公が現実にレイプされてしまう事態になったらどうなるのでしょうか。
襲い掛かった男は単にあきらめるか、それとも彼女によってレイプされてしまうのかもしれません。
主人公は人の善悪を「嗅ぎ分ける」という超能力を持っています。
この能力によって税関職員の凄腕として働いているのですがそこで彼女は自分と同じ容姿であるヴォーレという男性と出会い惹かれ合います。
彼によって主人公は自分の本当の姿「普通の人間とは違うトロルという種族であり特殊な性を持つ」ことを知らされます。
彼らを醜い・異常と反感を持つ人と「自分もそうかもしれない」という共感を持つ人がいるのではないでしょうか。
私は後者でした。
とはいえ普通人に恨みがあり狂暴化してしまったヴォーレよりは普通人の中で生きようと決心する主人公ティーナにより共感します。
ラストはとても素晴らしい。
そしてこの映画はやはり映画好きなら絶対一度は観ねばならないと思います。
自分自身が彼らに反感を持つのか、それとも同じ種族だと思うのか。
私は映画好きならほとんどは「仲間」だと思ってしまうのではないかと考えます。
本作を観てまた日本の映画やアニメなどのメディアへのがっかり感を深めました。小説やマンガには可能だと信じていますが。
日本のアニメや映画はいまだに表面上の美形が必要となっています。それはやや過剰ですらあります。しかし同時にその造形が本当に「美しい」のか?という疑問でもあります。
ファンタジーという世界観もまた。