ガエル記

散策

『項羽と劉邦』横山光輝 その2

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

張良見たさに読み始め充分堪能させてもらっていますが途中からやはり韓信物語になていきます。横山氏は戦闘エピソードが好きなので(選択題材でわかりますが)どうしても韓信の方に重点が置かれるのは当然ですね。

とはいえその韓信の才能を見極め劉邦軍に引き入れようと手引きしたのは張良なのだから嬉しくなります。

そして劉邦自身はなかなか韓信の実力に気づかないのですが側近たちの必死の説得でやっと韓信大元帥に任じる運びになるのですがいやはや劉邦ひとりではとても全国統一などできなかったのが解ります。

 

張良韓信を引き入れる場面。

 

ところでこうして読んでいくと『項羽と劉邦』は『三国志』を彷彿とさせる人物とその関係性が浮かび上がっていきます。

血筋なので当然といえば当然ですが劉邦劉備玄徳、張良孔明、そして韓信はというと関羽張飛ではなく曹操が浮かびます。

上の場面もなんとなく曹操っぽい。

いわば曹操劉備の下で働いていたら、というとんでもないたらればものですが曹操が誰かの下で働き続けることなどできないだろうというのが韓信というわけですね。

曹操がそんなことありえないように韓信もまたそうであったのです。

 

謎なのは「韓信の股くぐり」を誰もが皆知っていることです。無名時代の一度の出来事をなぜこうも皆知っているのか。SNSもない時代に誰が噂を広めたのか。韓信は無益な争いを避けるために一度の屈辱をあえて受けたのですがここまで皆からしつこく言われるのなら(しかも歴史として残っているという)やはりああいうことはしない方が良いのでは、と思わされます。

 

そして項羽と劉邦。おもしろいのは両方とも碌な奴じゃないことです。

項羽は粗暴で無慈悲。劉邦は才能もなく色好み。

どちらも王者になる品格などないのですがなぜ結局は劉邦が勝利したかと言えば人の意見を聞いたから、という一点なのですね。なので劉邦が人の意見を聞かなくなると途端に落ちていくわけです。

主人公ふたりがふたりともあまりにも愚か、という奇妙な物語なのが面白いです。