ネタバレしますのでご注意を。
大変面白く読んでいるのですがここで少し苦言と言うか不満と言うか愚痴を書いてみます。
青年貴族・項羽
女と酒好き中年男・劉邦
出自の卑しい中年男と貴族の若者、という対比がこの物語の基礎だという前知識がありました。
ところが本作ではほとんどこの差が見えません。
女好きで酒好きで教育のない男・劉邦、と言うイメージも最初こそ描かれていたのですがそもそも横山氏がそういう男を描かないために劉邦は殆ど小綺麗な品の良い男になっていて卑しさが見えません。
逆に項羽は鈍重で粗暴で若々しさがないためほぼ劉邦と同じ年に見えます。
前知識がなければ別に気にしなくてもいいのですが死へと突き進む青年貴族と口八丁で逃げ惑う中年男という対比は本作では味わえません。気にはならないのですが。
向かって右が張良、左が陳平
本来の目的だった張良が思った以上にステキで夢はかなったので大満足で文句はないんですがもう一人の知恵者・陳平がその割を食ったのか冴えない見た目ですw
いや冴えないというのは言い過ぎかもですが『史記』でも張良と陳平が見分けがつかないほど(張良の目立つ帽子でわかるけど)だったので予想もついたのですが本作では張良に重きが置かれたのでしょう。私としては嬉しいもののちょっと残念でもありました。(美形の感じが似てるんだよな)
逆に感心したのは韓信です。
韓信にこの造形をしたのはすごい。前にも書きましたが韓信は本作での曹操だと思うのですがやはり曹操にはなり得なかったのは股くぐりをしてしまったからではないかと思うのです。(この話が作られてものだとしても)
なにか卑しさと言うか悲しさが感じられてしまいます。
それが韓信の造形にも表れているようで横山『三国志』の曹操のような豪快さがない。
礼儀正しい男だけど情が薄い感じが韓信に表現されているように思えました。
それにしても気の毒なのは范増です。
范増は最初から「仕える主君を間違えた」と思いながらもどうにか運命を変えられぬものかと項羽が天下を握れるように頑張り続けたのですがどうしても項羽を導くことができませんでした。
最期は項羽から「裏切者」と謗られその悔しさで大きな腫れものが出来てしまうほど苦しみ死んでいきます。
そして范増を失ってから項羽はその言葉の重要さに気づくのです。