突然の本宮ひろ志。と言ってももちろん『項羽と劉邦』だからである。しかも張良がかなり気になるキャラデザだったので読まずにはおれなかった。
私は横山光輝マンガはまったく読んでこなかったのですが本宮ひろ志は幾つかは読んでいて大好きだったりします。(大好きだけど読んではいなかったという)
さて調べてみると本作は1986年から1987年まで週刊少年ジャンプで掲載、のち追加執筆、という形で創作されている。確かに少年ジャンプでこの内容はムリすじな気がする。
対して横山『項羽と劉邦』は1987年から、と入れ替わるように執筆され1992年で完了と横山光輝氏の堅実さが表れている、とここで横山氏を持ち上げるのもなんですが。
とにかく本宮漫画は勢いが魅力。堅実実直の横山マンガからしばし離れて楽しみます。
ネタバレしますのでご注意を。
さて。とはいえそもそも目的が横山『項羽と劉邦』と比較してみたいというものなのでずっと比較していきます。
やはりというべきか読んですぐの印象は極めて冷静で端正な横山マンガとは桁違いの迫力があります。
横山版で「陳勝・呉広の乱」が何故駄目だったのかなと思えたのが本宮版だと「あーこれはムリだわ」とすぐに納得できる。百姓一揆の猥雑さが描かれています。
その猥雑さは劉邦とその仲間たちにも描かれ横山版劉邦のあまりの身ぎれいさに比べ本宮版の劉邦は「こーゆー感じよね」と思わされます。ただし少年誌に掲載のためもあって若く描かれているのは前にも書いた「項羽=青年貴族vs劉邦=百姓おっさん」の対比からややずれてしまうのは惜しい。なかなか難しいものです。
そして項羽。
項羽という人物がこれほど難しいとは思いませんでした。そもそも私は『項羽と劉邦』関連の作品としては(エピソードは「四面楚歌」で読んだことはあったけど)『覇王別姫』なのです。つまり京劇の中の覇王=項羽とその恋人虞の悲恋から入ったのでむしろ項羽に思い入れがあったのですが横山版項羽を見てその思い入れが打ち砕かれてしまyったのです。
横山氏は自分の好みが(誰しもでしょうが)そのままキャラデザインになってしまうのです。気持ちが込められた劉邦一派に比べ項羽側は手抜きとしか思えません。しっかり描かれているのは范増ただひとり。項羽はちょび髭をつけた大男でしかなく悲恋の覇王別姫の面影は消えてしまいました。
それで行くと本宮=項羽はかっこいい。まだ冒頭しか読んでいませんが覇王の夢が復活しそうです。
しかしなあ、と思うところもあります。
本宮ひろ志氏も「かっこいい」のデザインがわりと一つ、なので項羽と劉邦と韓信が非常に似てる。
確かに感心も貧しい出自なのでこのキャラになるのもわかるのですが劉邦と韓信の区別がつきにくいのは問題なのではないでしょうか。
が!とまた変わる。
反乱軍から沛の町を守るため蕭何が沼沢に隠れる劉邦を呼ぶ場面は良いなあ。この乱雑さ、良いなあ。
劉邦にどつかれて暴れまわる樊噲良いねえ。
そして泣き顔で劉邦を迎える蕭何が良い。
そしてそもそもそもそも『項羽と劉邦』を読む原動力となった張良です。
本宮版張良は原作(?)の女性のような優男という記述をしっかり描写してくれています。
私としては横山版張良の端正な佇まいがなんとも言えず好きなのでどちらが良いかこれは唸ってしまいます。
「女性のような」という記述をどうとらえるかですね。
本宮版では可愛い女の子のような顔立ちでいて
その志は熱く高い男なのであります。
なぜか張良において横山版、本宮版、甲乙つけがたし。
横山版張良
がまたここで問題が。
虞美人であります。
なんと本宮版では虞美人が最初劉邦の妻になるのです。
なんだってーーーー!???
えええええ????
いやいやいや。
覇王別姫なんなのよ。
覇王と相愛の虞美人は「二夫にまみえず」と言って自害するんでなかったのか。まみえとるやんか。
うーん。
つまり虞美人をして項羽と劉邦のつながりを持たせたということなのでしょうか。そうとしか言えません。が、物語の根底を覆しましたねえ。
しかも虞美人は始皇帝の後宮に入る運命だったのを拒否して逃げ助けられて劉邦の妻になる、という筋書き。
が追っ手に見つかり再び後宮へと連れて行かれる。抵抗すれば劉邦一族は皆殺しと言われ劉邦はなにもできなかった。
その後荒くれた劉邦は暴れまわるとなっていくわけです。
うーむ上手いというべきなのか。
女性を単に飾り物としているよりも物語の中に組み込んでいく本宮版のほうが良いのかもしれない。
なぜか劉邦を高く評価する蕭何。
というかなぜか皆から慕われる劉邦、という描写も本宮版のほうが納得しやすい。
というか本宮漫画ってそういうのばかっり描いているのではないでしょうか。
でもって
横山版趙高
この差はすごい。
これは・・・うむどちらでもいいかな。
ただし宦官としての不気味さは本宮版のほうが強烈だ。
というような感じで読んでいます。