ガエル記

散策

『武田勝頼』横山光輝/原作:新田次郎 その2 読了

読了しました。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

信玄が作り上げた最強の軍団が短期間で恐ろしいほど崩れ落ちていく。

おおよそ9年の間、勝頼27歳から36歳の死亡で壊滅する。

 

私はほとんど武田家の話を知らないので本作によってのみの感想になるのだけど勝頼の描かれ方が悲しいほど孤独だ。

頼りになるはずの親類衆とは心が通っておらず最も近しいはずの穴山梅雪が最も勝頼を嫌っている。これではうまくいくはずもない。

唯一勝頼を盛り立てようという意志があるのは真田昌幸のみに見える。とはいえ昌幸も勝頼に惚れ込んでというのではなくあくまで武田家への忠義と思える。

信玄の時の山本勘助のような存在は勝頼にはない。事実がどうだったかはわからないが本作を読むとそうした孤独が勝頼の弱さだったと描かれているように思える。

やはり信玄公のいうとおり人が城なのだろう。

勝頼が城を思わせる人材を集めきれなかったこと、というか集めてしまう人望・魅力がなかったから、と言ってしまえばおしまいだが集めるまではなくても誰もいなかったのはあまりにも悲しく見える。

しかも農民たちからも厳しい年貢の取り立てで一揆を起こされたのであればもうどこにも逃げ道はない。

 

勝頼が愚鈍であればそもそも後継者に選ばれずにすんだかもしれないが優秀であり戦にも果敢であったからより虚しい。

 

横山氏はなぜ勝頼の話まで描いたのか。

横山氏は忠義の物語が好きなのだと思う。その忠義がなければどんな最強軍団もこのように哀れに崩壊してしまう。

忠義があっても崩壊してしまう話もまた『三国志』で描かれているが。

むしろ崩壊していく話が好きなのかもしれない。