ガエル記

散策

江戸川乱歩妖美劇画館 3巻(『白髪鬼』『闇の顔』)横山光輝 その1「白髪鬼」

横山沼にはまりebookでのデジタル作品を購入読み続けてきたのですがさすがに食指が動くものが少なくなってきたと思い涙ぐんでいました。

年末には「まだまだ続く」と書いたばかりなのにとしょげていたら「いやまだたくさんある」ことに気づきました。

世界はすべてデジタル化されているわけではなかったのです。

いやいや今までもいくつか(『長征』とか『狼の星座』とか)読んできたのにうっかりしてました。

横山世界はまだまだ広かった。

とにかく嬉しい(私がうっかり屋なだけですが)さらに沼を潜水していきましょう。

 

偶然ネットで画像を見て「横山作品こういうのもあったのか」と驚きました。私は横山先生をまだ全然わかっていなかった。

大好きな乱歩を横山光輝作画で読めるとは。

実際はイギリスのマリー・コレリ『ヴェンデッタ(復讐)』を黒岩涙香が翻訳しそれを下敷きに江戸川乱歩が『白髪鬼』として書いたものを横山氏が漫画化したというべきかもしれません。

 

和田慎二『銀色の髪の亜里沙』は『巌窟王』を下敷きにしたと書かれているが白髪になるという部分も含めてこちらの方が近い気がする。(大好きな作品です)

 

 

では以下ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

『白髪鬼』1970年。少年画報社・週刊少年キング16-20号

舞台は九州西岸のS市(ってどこなんだろう)主人公の名前は大牟田敏清。大名の家系で17歳にして家督を受け継ぐ。忠実な執事に家を任せ自分は東京の大学に入る。

そこで三つ年下の川村義男と出会って無二の親友となる。

大学卒業後、故郷に帰るがこの時川村義男もいっしょだった。

若い画学生が生活をするのは大変だと思った大牟田は故郷にアトリエを建ててやり生活の面倒をみながら絵の勉強をさせたのだ。

 

ううむ。さすがお金持ち。しかし無二の親友とはいえそこまでするものかと思い江戸川原作を読んでみた。(読んだかどうか記憶はない)

読んで理解した。やはり江戸川乱歩は生易しいものではなかった。

主人公大牟田敏清と川村義男は先に書いた通り東京の大学で出会うのだが

わしには一人の賢い美しい男友達が出来た。わしは大学の哲学科に、彼は美術学校の洋画科に通っていたが、寄寓きぐうしている場所が近かったので、ふとしたことから友達になり、遂にはお互に離れられぬ、恋人同志の様な親友になってしまった。

と書かれている。

 

つまりはそういう関係だった大牟田と川村の間にルリ子という女性が入ってくるのだ。

しかしルリ子に夢中になっても大牟田は川村との友情も続くことに喜びを感じていた。

横山氏のマンガもそういう形を描いている。

そして大牟田は美しいルリ子を娶り川村とも交友し幸福な日々を送るのだがある日地獄岩と呼ばれる崖から落ちはっと気づいた時は暗闇の中だった。

どうやら死んだと思われた大牟田は先祖代々の墓地となっている蔵に入れられてしまったのだ。

そこで大牟田は死の恐怖を味わい出てきた時には白髪となり顔も老人となっていたのだ。

それでも急いで屋敷に戻った大牟田は自分の死は川村が企んだもので妻のルリ子も今はすっかり川村と恋仲になってしまっているのを知ってしまう。

今まで何も知らずにいた大牟田はふたりに復讐を誓う。

伍子胥のように。

 

ここからの復讐譚も丁寧に描かれていて読みごたえがある。

 

乱歩の小説では牢獄に入れられた大牟田が打ち明け話をするという形式で描かれていくが横山版での大牟田は復讐を終えるとさようならと言って去っていく。

横山氏の好悪がはっきりとわかる。

 

さてこの本にはもうひとつ「闇の顔」というのが収録されているのだけど面白いことにこの作品は「白髪鬼」の一年前に横山氏が偶然、乱歩『白髪鬼』を下敷きに描かれていたというものだという。

こちらについては明日書こうと思う。

 

 

ところで乱歩の小説の前書きで

首領の名は、朱凌谿しゅりょうけいと云って、関羽かんうひげを生やした雲つくばかりの大男であった。

というのがあってちょっと笑っていた。いやただそれだけ。