ガエル記

散策

『魔界衆』横山光輝 その3

こ、これはどうなんだろう?この場面の前に兵馬と話していたからうっかり口調が残ってしまったのか。

幸村がわざと口真似したのかとまで思ったけど、そんな感じでもなく。

普通に「そんなことは人間にはできない」でいいはず?佐助が言ったとも思えずw

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

魔界衆の里から五人の若者が代表で外へ出ることとなった。

幸村はこの機に魔界衆の力を利用したいと考える。

 

ここで兵馬は追っ手忍者との戦いで窮地にい陥るが里からついてきた太一によって救われる。

太一はまだ小さな幼児なのだがなんと御神器の一つを持ち出しておりそれで敵忍者を撃ち殺したのだ。

太一、おそろしい子

仲間の一人岩五郎もこの御神器で救われる。

そりゃそうだ

 

魔界衆がしきたりを破って幸村と行動している、という報告が天海僧正にもたらされる。

天海僧正はいっそのこと魔界衆の里を襲わせ皆殺しにしようと手下忍者に命令した。

 

これは確実誤字、かな。

「合わなかった」じゃなく「あぶなかった」

だと思うのだが。

 

多忙だったのかなあ。

 

五人とは違い勝手に里を抜け出してきた太一をどうするか話し合う。しかも御神器を持ち出しているのだ。

幸村はむろん太一も連れていくべきという。

五人はやむなく太一を許すことにした。

 

が同行を許されはしゃいだ太一はこともあろうに御神器を崖から落としてしまう羽目に。

兵馬たちはすぐに御神器を探し始めるが先に追っ手忍者に奪われてしまう。

 

追っ手忍者は御神器を使用したことで崖崩れが起きその男は落石の下になったが御神器も同じく下敷きとなる。兵馬はなんとしても御神器を見つけ出すのだと皆に伝えた。

 

太一は自分がしでかしたことを取り返そうとして追っ手忍者を追いかけ逆に捕らわれてしまう。

 

追っ手忍者は江戸幕府から差し向けられた家老と鉄砲隊に合図し幸村と魔界衆を討ち取ろうとするが兵馬たちはこれを察して身を隠していた。

 

太一を連れた追っ手忍者たちは崖崩れの下になったと思しき仲間忍者の行方を探す。

このあたりの描写の細かさよ。

忍者組織のルールにのっとって下敷きになった忍者の居場所を割り出していく。

しかも匂い袋によってわかるという芸の細かさよ。

ここで追っ手忍者たちは御神器を見つけてしまう。

兵馬たちはすかさず彼らに近づいた。

 

ここからの魔界衆若者たちの攻防の面白さよ。いったいどう読んだらつまらなく思えるのか(しつこく根に持ってる)

ていうかこの面白さ、横山マンガの中でも指折りではないの。

SFと忍者を掛け合わせ適当なやっつけじゃなく丹念に丁寧細やかに展開していく。

そしてテーマ。

人間=地球人の精神の低さを嘆くものになっている。

これは今現在も戦争や人種差別など、様々な悪行を見ていると身に染みてわかる。

完璧はあり得なくともあまりにも下劣ではないか。

そうした人間=地球人が特別な力を持ってしまえば先には滅亡がある。

人間はもっと成長しなければならないのだ。

が、その道はあまりにも遠く険しい。

アーサー・Ⅽ・クラークは『幼年期の終り』で外部からの抑圧によってしか人間は変われない、と描いた。

もしそうだとしたら悲しいことだ。

横山光輝氏は繰り返し人間たちの戦争を描き続けた。どんなに繰り返し戦争を描いても人間が戦争をやめるという気がしなかったのだろう。

 

魔界衆はかつて「ご先祖様」から受け継いだ力としきたりを守ってきたがやはりどこかでそれが破綻する。

天海となった権九郎がそれだ。

そして兵馬たちもまた人間の持つ特性(それはなんだろう。変化を求める気持ち、好奇心とでもいうのか)に抗えずルールを変えてしまう。

結果守り続けてきた魔界衆の里は破壊されてしまうのだ。魔界衆には「力は破壊なり」という言葉があるという。この言葉を検索したらオッペンハイマーが出てきた。そういうことなんだろう。

 

横山光輝作品は悲劇的な終わりが多い。

「どうしようもなかった」というものだ。

本作も結局人々は殺戮をしあう。敵も味方も大勢を失ってしまう。

が、魔界衆の力を望んだ真田幸村の野望が叶わなかったこと、そして兵馬をはじめ魔界衆の生き残りが「空飛ぶ円盤」に乗って別の星へ旅立ったのは珍しく幸福な集結と言いたい。

目次も「大団円」となっているのだ。

望みが断ち切れてこんなに幸せなことはない。

すばらしい終わりだった。

 

余談。

ところで・・・魔界衆一行、女性の姿が・・・・

いやたぶん

これは女性と思いたい。

 

そういえばいつものことだけど本作も思いきり女性の出番なかったよね。赤子のお母さんくらいでw

読んでる間は面白くてそれどころじゃなかったんだけどさあ。

思えば他のマンガ家なら外へ行く五人のうち一人は女性にするよね、と。

か、天海僧正を女性にしてもいいんだけどなあwww

まあこれも横山マンガの味の一つなので。