ガエル記

散策

沼田真佑著『影裏』を読み解いていきます。その1

さてさて沼田真佑著『影裏』読書と分析始めます。

 

冒頭3行は「わたし」が川沿いの小道を歩く場面。

 

勢いよく夏草の茂る川沿いの小道。

 

続く蜘蛛の巣の燦めきの描写からも夏の情景が浮かんできます。

「円網」「燦めいている」という字の選択が作者の感覚を示しています。

 

そして次に登場する「水楢の灰色がかった樹肌」

水楢とはどんな樹木なのでしょうか。

(拾い画像です)

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西洋の小説によく登場する「オーク」というもののようですね。

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(拾い画像です)

どんぐりも立派です。

 

小説の中身を先送りにしてしまいますが、この物語は東北を舞台にしていますね。

私は九州生まれ育ちなので東北のイメージはリアルには判らないのですがこの水楢の感じから少しイメージが持てそうな気がします。

もっとも小説の水楢は雑木林から土手道に対し斜めに倒れこんでいる倒木、と書かれています。

ここから先は、この幹をまたいで乗り越えなければ目的の場所までたどり着けない、となっていますが「わたし」はまたいだのでしょうか。

 

次に出てくるのが「生出川」

これも知らないので作者の創作かと思ったのですが実際にあるのですね。

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これも拾い画像です。小説のままかどうかは私にはわかりませんがとても美しい場所ですね。

と思っていたらそのままずばりの動画を上げられていました。

youtu.be

岩手県盛岡市

岩手県。九州人の私には憧れの場所です。宮沢賢治を生んだ土地ですからね。それもまたイメージを重ねてしまいます。

 

「わたし」は

それこそ暇さえあればここ生出川に釣りをしに出かけることに決めている。

 

しかし次ページに続き昨日は土曜日なのに急な用談が舞い込んで午前は取引先午後は映画館通りをぶらついて駅前の蕎麦屋でかしわ南蛮を啜ったりして夕方になってしまいます。

「夕景の支度がととのっていた」というのは夕ご飯のことじゃなくて単に夕方の景色になっていた、という意味ですよね?

そしてわたしは生出川の草むらに立ち、餌箱から大ぶりのブドウ虫の繭を選り出し引き裂きます。

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小説では繭を選り出しで引き裂くわけですがざっと検索したのでは繭なしのブドウ虫しかでてきませんでした。

そもそも釣り用に繭を作らず大きくなるように養殖されているもののようですが沼田氏は特別な餌を用意されているのでしょうか。それともこれも何かの比喩なのでしょうか。

この後「わたし」の岩手に対する思い入れの記述になります。

 

じつに樹木が豊富な土地だと夏が来て改めて思う。

 

司馬遼太郎氏が日本の東北ほど自然の恵みが豊かな土地は世界を探しても他にないほどだ、という旨を書かれていたのを思い出します。

その豊かな恵みを蔑ろにして米作を強制したのが日本の制度の過ちだったとも書かれてした。時間を戻して豊かな自然を活用できていたら歴史は違っていたのでしょうか。

 

ここから先「ん???」となる描写になります。午後5時の時報が流れる夕暮れの景色の中で「わたし」は川端の草むらで大ぶりのブドウ虫の繭を引き裂いていたはずなのに、岩手の樹木に思いを馳せ林道を釣り歩いて釣りそのものに飽きが来てもコバルトブルーの小鳥や下草から山棟蛇がはい出す姿を目の当たりにし、電信柱のいただきの猛禽と視線がかち合ったりするのですが、そのあとの文章

 

ところがこの日はどういうわけか、ふだんよりずっと陽射しが強く、まだ午前中だというのに気温もだいぶ上昇していた。

 

となるのです。

 

北緯三十九度のこの土地も、八月はやはり八月で暑い。

 

まるでタイムワープしたかのようです。

 

この日の暑さは特別だった。私の半歩後ろをついて歩く友人の日浅は事あるごとに、いいところに来たなあと繰り返しこぼして足をとめていた。

 

レビューで場面がいきなり変わってよく判らなくなる、と書かれていたのはこれですね。

むしろ映画のようなイメージでしょうか。

これは確かになんとなく読んでいたら「あれ?夕方じゃなかったっけ?」となります。

 

「わたし」は夕暮れの景色から岩手の自然に思いが巡りいつの間にか午前中なのに暑いと思いながら友人の男(言葉遣いから)と歩いているのです。

 

 表示5ページめ実質3ページ目でこれです。

前途多難です。
そして気になる文字も。

沢胡桃の喬木

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拾い画像です。こんな感じなのでしょうか。

喬木とは高木の意味なのですね。初めて知りました。

その梢にコバルトブルーの小鳥がいるのです。なんの鳥でしょうか?

 

そしてそんな景色を思い浮かべているうちに「わたし」の半歩後ろをついて歩く「日浅」

何者なのか。

明日に続きます(もしくは今晩少し)