ガエル記

散策

『リチャード・ジュエル』クリント・イーストウッド

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クリント・イーストウッド映画の見本のように面白く楽しめる一作でした。

 

正義とは何かを見つめ人生の価値を考えさせられるのがイーストウッド映画だと思います。その表現は芸術とかマニアックなものではなくて誰が見てもとてもわかりやすく退屈せずに楽しめる作品でもあります。

 

ネタバレですのでご注意を。

 

1996年に実際にあった爆破事件で警備員をしていた実在の人物を描いた作品です。

 

実在の彼は検索すれば簡単に見ることができます。主役を演じたポール・ウォルター・ハウザーはそっくりです。

つまりよくある映画での「美化」はこの場合、絶対に行えないわけです。なぜならその容貌こそがこの物語の肝だからなのですね。

 

映画に出てくる主人公は皆が憧れるかっこいい男性であるのが定番で皆もそれを求めます。

非常事態が起きた時に活躍する男性がブラピのようだったら或いは精悍なマッチョだったら皆それに従ってしまうでしょう。そして疑いをかけられることも大衆がそれに同調することもなかったのかもしれません。

 

が、本事件のヒーローはどうにもさえない背の低い太っちょでした。

女性にも持てず同性の友達もいない感じ。あまりにも人が良くて尊敬されることもなく怖れられることもなく生きてきた男性でした。

大勢を爆弾魔から救った英雄として崇めるには訝しい人物と評価されてしまったわけです。

 

その彼が異常なほどの正義感を持っていて際立った射撃の名手で頭も良い、となってしまうと「こいつは怪しい」となってしまったわけです。

 

現在日本の報道でも全く同じようなことが日々起きていると言っても過言ではないでしょう。

「こいつは叩ける」という人物は徹底的に叩きのめし、視聴者がそれに同調すればさらに叩き続けていきます。

もし反応が鈍ければ報道は収まる、ということです。

 

サム・ロックウェル演じる弁護士ワトソンはイーストウッドの声そのもののように思えます。

「もっと怒れ!奴らに見くびられるな!」

昔かたぎの男の声です。

私も昔人間ですので彼らの戦い方に手に汗握りすっとしましたw

 

主人公ジュエルと弁護士が冴えない見栄えなのと対照的に悪役のFBI捜査官がハンサムである、というのが本作の手法でありますね。

 

ジュエルの行動は彼自身が言っていたように「当たり前のことをやっただけ」なのですが周囲が彼を英雄に祭り上げ、そして次には疑惑で騒ぎ立てる。

こうした現象が起きる時はより落ち着いて考えなければなりませんね。