『ゴールデンカムイ』を一言で説明するとしたら「孤児たちの物語」と私は記したい。主人公杉元はじめほとんどのキャラクターが親との縁が薄い。いたとしても絡みは極端に少ない。兄弟関係も薄い。
以下ネタバレしていきます。
そうした孤児たちの群れが一致団結というよりそれぞれの利害関係でなんとはなしにくっついたり離れたりしながら「アイヌのための金塊」といういわばマクガフィンによって行動していく物語だと思っています。
本作の孤児たちにはなぜか恋人・結婚という関係も希薄です。一番の恋人たちは坂本慶一郎とお銀だが彼らの結末を見ると本作の恋人観が解るというもの。
かろうじて谷垣とインカラマッがその関係となる希望を見せてくれます。
そもそも主人公杉元に寄り添うヒロイン役のアシㇼパが幼女だという設定にも恋人関係を忌避しているのがわかるのです。
むろん読者はゆくゆくはふたりはきっと、などというロマンスを感じてはいたでしょうがそれがこれまでの凡庸な設定でないことに共感しているはずです。
杉元の幼いアシㇼパへの態度は庇護者などではなくむしろ彼女の深い知識と並々ならぬ気性の強さに敬意を表し対等な相棒へのものなのです。
幼いアシㇼパ自身もすでに両親から保護されてはおらず行方不明の父親を捜す形になっていますがそのアシㇼパの父親への憧憬も今まで見てきた悲哀の感情ではないのが際立っています。
登場人物たちの思い出がそれぞれに語られる形式になっている本作ですが一様に肉親への愛情が希薄であり恋人との縁が細いのが特徴なのです。
しかしそのためにこそこうした冒険にむかっているのだという説明になっている、と私は思っていたわけです。
さて『ゴールデンカムイ』の特徴Ⅱとしては思いきり「ヘンタイ」であり尚且つヤングマガジンという男性誌ながら思いきり「BL風味」であることがあげられます。風味というより思いきりやっていますが。マッチョたちの思い切り男臭いBLです。とはいえイケメンぞろいですが。
上にあげた特色に反論があってもこちらに反論される方はほぼいないでしょう。
そのために私は本作はほぼ腐女子さんたち向けの反響になるのか、と思っていました。ところが実際は物凄いほどの人気で男性連からも絶大な人気を得ています。
これは結構私としては「そうなんだ?」という驚きがありました。
本作には売れ線に必要とされる「少女の萌え」もなく(胸毛男の萌えはあるけど)高校生の話でもなくお涙頂戴もない。
これまでの売れ線の既成概念のない『ゴールデンカムイ』が、肉親の愛情表現もラブロマンスもないこのマンガが尚且つ変態BLマンガがこれほど爆発的な人気になってしまうとはねえ、と奇妙な感慨を抱きました。
「時代が変わったのかもしれない」という思いもあったのですが先日はっとする答えを聞いた気がしました。
それがタイトルにも書いた「岡田斗司夫の頭が良くなる教育論」でした。
半ばほどで岡田が語った言葉に私はぎょっとしたのでした。
(概略)「若い人たちは親や恋人よりも同じ好みの仲間を大切にする。仲間とのつながりを守るためになら恋人とも別れる」
この動画は2014/11/03の講演の録画です。奇しくも『ゴールデンカムイ』の連載が始まった年なのですね。
作者である野田サトル氏がまさかこの講演を聞いたとはとても考えられませんw
野田氏が『ゴールデンカムイ』で描いた親兄弟・恋人との縁の薄さと仲間意識はまさに今の人々の感性にぴたりとあてはまった、ということなのではないでしょうか。
ところで岡田斗司夫さんご自身はどうも『ゴールデンカムイ』には興味がないようですwちょい前「読みたくないのにお勧めされる」と語っておられたので。
確かに。
岡田さんは「若い人たちの間でこの感覚が広がっているけど自分は違う」とは言われています。あくまで自分自身のことではなく未来予測なのです。
書く時間がなくなってwちょっと端折ってしまいますがこれまでこの数年間が恋人関係に重きを置いていた感覚から仲間意識へと移っていく期間だったとも思えます。
岡田氏の講演からつなげて言えば、『ゴールデンカムイ』は戦争の話はもう嫌で仲間たちとのつながりに重点が移ったとも言えます。
『ゴールデンカムイ』が非常な支持を得たのは当然だったのです。