ふむふむ。これはさすが面白かったです。
ここんとことても気になっている「家族愛」という題材です。
さてネタバレしますのでご注意を。
デカい体で底抜けに明るい「オタク」の兄貴バーリーと気が弱くてコミュ障の弟イアンは優しく愛情深い母親との三人暮らしです。
平穏な生活ではあるけど二人兄弟は幼い頃に亡くなってしまった父親を恋しく思っていました。
弟イアンが16歳になった日、母親は「お父さんから息子たちに渡してくれと頼まれたの」と言って秘密の品を取り出します。
それは魔法使いの杖でした。
舞台は「科学技術が進んで魔法を忘れた妖精たちの世界」です。
なので母親の現在の恋人はケンタウロスの体をパトカーに押しこんで運転する警官だったりするわけです。
そんな「堕落した妖精たちの世界」でお父さんは魔法の力を蘇らせたいと願って研究していたのでした。
兄バーリーはその意志を受け継いだかのような魔法オタクなのですがそのおかげでお父さんの形見である「魔法の杖」の使い方や様々な魔法世界のルールを熟知しています。
父親の手紙には「死者を24時間だけ復活させることができる魔法」が記されていました。バーリーは早速その呪文を唱えます。
ところが実際に魔法の杖の力を発揮することはできませんでした。
魔法を使えるのはまったく何も知らない弟イアンだったのです。
ひとり部屋に戻ったイアンは偶然魔法の力を引き出してしまい「お父さんの下半身だけを蘇らせ」てしまいます。それを知った兄バーリーは兄弟二人の知恵と力を合わせて「お父さんの上半身も蘇らせたい」と魔法に必要な宝石を求めて飛び出す。
アメリカと日本のコンテンツ題材を比較して考えていくととても面白い。
といっても綺麗にきっぱり分かれてしまうわけではないけど今現在アメリカの作品はとても家族愛について考えるものが多いように思えます。
本作はその顕著なもので魔法力が「世界を救う」大きなものより「家族を救う」小さなものが必要という方へ傾いているようです。そのせいもあって巨大な悪を倒すヒーローものも家族関係をより深く描くことが求められているようです。
本作の真逆の作品が日本の『シン・ゴジラ』でしょう。登場人物からは家族描写が完全に削除されています。
それは庵野監督が『エヴァンゲリオン』で自己と家族にあまりにも焦点を当てていたからの逆張りでもあるのですが、ただし『エヴァンゲリオン』は「家族を描いたもの」ではあったけどそこには本作のような癒しはなかった。家族によっての救済はなかったと思えます。
つい先日完結された『ゴールデンカムイ』は大好きな作品ですが登場人物が孤児ばかりでそれゆえに愛を求めて彷徨う作品だと言えるでしょう。先日挙げた『オルフェンズ』もまたしかりです。
これも大好きな『進撃の巨人』も大きな世界を扱った物語ですが諌山氏は丁寧に細かく家族描写も盛り込んでいます。が、どちらかといえば深い家族愛というよりは「毒親」描写が多くなります。これは戦争というものが毒親に育てられた子どもから引き出されてしまう可能性を意味しているように思えます。
そもそも日本は特に父親不在もしくは権力をふるい子供を抑圧或いは虐待する父親像が多すぎます。
本作は日本でまったく売れず評価もされなかったのですが当然なのかもしれません。
本作では兄弟が記憶にない父親を慕うのですがこの気持ちが日本人の多くに共感し難いのでは、とすら考えてしまいます。
これが母親ならもう少し共感されたのではないでしょうか。
アメリカでは数多く「父と子」の物語が成され評価されますが、日本においての「父と子」のイメージは「毒親に虐げられた子どもの反逆」という形が最も数多いように思えてしまうのです。
なので『スターウォーズ』のダースベイダーは非常に受け入れやすかったのです。
お父さんに会いたいと願い抱きしめられる、そんな物語は日本人の多くには理解できないのかもしれません。