ガエル記

散策

『ジョーズ』スティーヴン・スピルバーグ

1975年公開映画。

 

TV放送録画で数えきれない再鑑賞。

最初観た時はまだ子どもで「馬鹿々々しいくだらない映画」のように思っていたはずですが現在では世の評価通り素晴らしい名作だと唸りながら観ていました。

その変化の一つは数年前観た「ハリウッド白熱教室」でのドリュー・キャスパー教授の説明からです。

 

 

以下「それら」のネタバレにご注意ください。

 

 

 

キャスパー教授は幾つかの映画を教材として選択されましたがその一つが本作『ジョーズ』でした。

教授が語った「本作の冒頭で夜明けに女性がひとり海に入って泳ぎだします。遠くで鐘の音が小さく聞こえます。これから起こる惨劇の警戒音なのですが彼女はこれに気づきません」(記憶によるものです)という説明は私の『ジョーズ』に対する考え方を大きく変えるものでした。それまでそんなことはまったく考えていなかったからです。

若者たちが浜辺でふざけて酒を飲み酔っ払った男は女を追いかけながらもそのまま眠ってしまう。女は気持ちよく海に泳ぎだすがその足元に鮫が忍び寄っていく、という冒頭エピソードを私はよくあるつまらないものとしか受け止めていなかったのですがなにも判っていませんでした。

今ではこの冒頭から絶対観なくてはいけない、という気持ちで観ていますw

ある意味戦いのゴングでもあるのではないでしょうか。

そして戦いが終わった時再び鐘の音が聞こえます。試合の終わりにもゴングが鳴りますからね。それは鎮魂の鐘でもあるのです。

ここは私の感想ですw

 

 

もうひとつ、劇中鮫との戦いのいわば中休み中にエイハブ船長を彷彿とさせる荒くれ男クイントが署長と学者に昔話をする場面があります。

クイントはかつての大戦中日本に落とすための原爆を輸送する任務についていた。輸送後にそのインディアナポリス号は日本潜水艦によって撃沈され投げ出された乗組員たち千人以上が鮫に襲われ救助された時は三百余人になっていたのだった。

このエピソードは本作の鮫退治と直接関係はしないがクイントの鮫殺戮への異常な執着心はかつて失った戦友たちの復讐なのだと理解できます。

しかもここで我々日本人としては単なるB級映画と思しき作品の中で原爆を運んだ男を目撃するわけです。

さらにその男クイントは異常な復讐心のせいで警察署長の救助要請無線機をぶっ壊し自分で片を付けると表明するわけですがそのせいでクイントは鮫に食われ死んでしまうのです。

その後署長はひとりで鮫を始末し鮫に襲われたかと思われた学者くんと再会して二人帰路につくのですがふたりともクイントに対する憐憫がほとんどないのが見て取れるのはおもしろい。

この「原爆輸送インディアナポリス号の兵士だった男が鮫退治のクイント」という設定は日本人にとってはよりいっそう無視できないものですが悲しいかな子どもの時はなにも判っていなかった。

が、あるアメリカの少年が本作を観てインディアナポリス艦長が受けた不名誉を挽回してほしいという説を発表しこれが当時の政府に届き認められたというエピソードを知って唸りました。

9歳の少年が『ジョーズ』を観て戦時中のインディアナポリス艦長の不名誉に疑問を持つなんて世の中には奇跡があるものです。などと感心するしかありません。

 

 

ジョーズ』映画自体は非常にシンプルなのですがだからこそ様々な考察がされる優秀な教材でもあります。もちろん映画としてとても楽しいもの、とは言い難いほど怖い映画でもあります。