ガエル記

散策

『闇の土鬼』横山光輝

突然の『闇の土鬼』です。横山作品どれから読もうかな、と探していてあまりのかっこよさに表紙買いしてしまったのですが中身は予想以上にかっこよかった。

戦国ハードボイルドとでもいうのでしょうか。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

タイトルと言い冒頭の「貧困ゆえに間引きされる運命の子」という設定からも過酷で恐ろしい内容か、とやや怯えていたのですが読み始めるとかなり笑いをこらえる内容でした。(すみません)おかしいのだけどめちゃくちゃかっこいいのです。というかカッコよすぎるのは現在おかしいことなのだと思われますw

 

というか冒頭もですよ。

この時代に食うや食わずにしては箪笥が立派すぎて。いらんでしょ。布団や服も綺麗。これはちょっと・・・w

 

とにかく他に三人の子を抱えたこの夫婦。父親は「もうこれ以上育てる余裕はない」ということで赤ん坊を土に埋めます。が赤ん坊は土の中で泣き始め仕方なく父親はもっと深く埋めなおしますがそれでも赤ん坊はまたもや泣きだすのです。

困った父親はその場所を鍬で叩きますがその様子を見た不思議な僧侶が「その子はわしがもらおう」と言って掘り出しました。

まあ普通の僧侶は木の枝には現れない。

鍬が当たったとみえ赤ん坊の片目はつぶれてしまってましたが僧侶はその生命力に感心し手当てをしようとした矢先鳥が騒ぎ出し僧侶は「死神が近づいてくる」と言って手当てを父親に託し追ってきた者たちと激しい戦いを繰り広げるのでした。この戦いもかっこいいのですが敵が「あいもかわらずのすごうで」と言って倒れるとかお腹痛くなる。

 

演出がおかしいはおかしいんですがのっけから主人公が背負った悲しい運命と突如その子を救う人物の登場、そして不気味な連中との人間離れした空中戦、と最初から物凄く引き付けられていきます。そして

こうして主人公・土鬼(ドキ)は第二の人生を歩み出したのでした。赤ちゃんかわいいし抱き方がやさしいw

 

一話ごとにタイトルがつくのですが

これで笑ってしまうのを許してくださいw

いやいいな。

とにかく物語は十数年がたつ。

ものすごく立派な構えの町道場。

すごく威厳ある先生。

満足気に帰る門弟たち。

そこから土鬼の修行が始まるのでした。

七節棍?

思っていた修行と違った!

ふたりは闇の中で激しい修行を続けるのだが突然土鬼の動きが止まる「また左手がきかなくなってきました」

どうやら土鬼は時々左手が動かなくなってしまう、という持病があるらしい。

「おしいものじゃ」と師匠はつぶやく。

厳しいのだけど「今宵はもうやすむがよい」とか優しいのがw

 

さてこの道場の門弟たちが酒場で噂話をしていた。

草履、きれいに並びすぎるwみなさん礼儀正しいさすが。

噂話を聞いていた一人の虚無僧が道場を探りに行くが土鬼と師匠にあっさりと殺され埋められる。

 

戻ってこない仲間を案じる虚無僧たち。

シュールすぎる。

いやもう笑い死ぬ。

 

道場では師匠が「いい天気だから花見がてらに散歩でもするか」と土鬼を誘う。

なんかもう仲良しでいいね。

しかもこの後茶店でお茶しようとするのだが幼子が犬に襲われそうになったのを見て土鬼は助けてしまう。犬が突然倒れ死んでしまったのだ。

師匠はそのまま土鬼をつれ道場へ帰る。

シュールという言葉しか思いつかない。

 

はい、『闇の土鬼』このような感じで進んでいきます。

過酷でありそうでいて独特の甘さもあってでも登場人物はいずれも大真面目で。笑っていいのかいけないのか。

ここまで読んできて横山マンガはどれもシリアスと笑いを併せ持っているのですがこの作品は特にその両極端に振り切って内包していると思えます。

 

土鬼は師匠を「父上」と親しみつつ尊敬しています。師匠の言動からも土鬼に対して深い愛情を感じます。

しかしある日を境に師匠は道場を閉め眠ることなく何かを案じ始めました。そんな様子を見た土鬼は心配し「酒でも買ってきて召し上がっていただこう」と外出する。

土鬼がいなくなったのを見て虚無僧たちが姿を現し師匠に襲い掛かる。

 

戻った土鬼は死んでいる虚無僧たちの中で倒れた師匠の姿を見る。師匠は死に際につけ髭を外し「ここに倒れている虚無僧たちは血風党と言い徳川幕府の秘密部隊だ」と教える。戦国時代に作られた暗殺部隊だった血風党。そして自分もまたその一員だったのだが太平の時代になってただの殺戮集団になった党に嫌気がさし脱党した。そして追われる身となったのだ。師匠は土鬼に「実の父子ではない」と教える。

上で一緒に散歩していた爺様は実はこんなにかっこよかった。

 

土鬼は育ててくれたことに感謝し父上の夢の裏の武芸を会得し完成することで恩返ししますと誓う。

 

こうして土鬼の第三の人生が始まるのだった。

 

私は白土三平カムイ伝』『カムイ外伝』がとても好きなのですが似ているようで土鬼と本作品はテイストがまったく違う。

いわば白土マンガが「本物」であるのに対し本作はいかにも「娯楽」なのだけどそれがまた良い。

 

主人公・土鬼のまったく揺らがない精神は横山ヒーローの醍醐味でありますね。

 

ううむ。読んでいてむしょうに『ジャイアントロボ』を観返したくなったw