すでに絶版になっているようで古本で手に入れましたが今やそれも期待できないようです。
単なる復刻版ではなく長い時間をかけて原画を蘇生する、という労力が注がれた復活本となっています。(と説明がされています)
すばらしい作品群なので是非また販売されることを願うばかりです。
(デジタル化されているのかは不明です)
ネタバレしますのでご注意を。
みなもと太郎氏による解説が懇切丁寧で重要です。
まず巻頭に「イラストポエム」というのが2pあります。1970年10月号の高1コースに掲載されたもの。
可愛い、というより知的でちょっと勝気そうな綺麗な少女の顔のアップとその少女を想う少年が描かれ恋心が謳われています。
「オレとおまえ」1970年中一時代で連載。
この主人公真吾と由美ちゃんがなんとなく前のイラストポエムのふたりに似ている。
この感じが横山氏の好きなカップル感なのでしょうか。
みなもと太郎氏も解説で驚いていますが中学一年生対象に描かれたマンガにしてはとても重い真剣な内容です。
由美がバイクに乗った不良男たちに襲われたのを真吾が助けるところから始まる。
その後、由美と真吾が同級生でこの二、三日真吾が学校に行っていないことがわかる。由美によると真吾は以前はそんな感じじゃなかったのにこの一か月で変わってしまったという。
こうした謎をかける手順で読者をひきつけるのがうまい。
すぐにまた不良たちがボスを連れて戻ってくる。
エンゼル隊と名乗るボスは真吾に勝負をもちかける。
走ってくるトラックに真正面から突っ込んでどのくらい近寄るのを耐えきれるかという命懸けの勝負だ(やられるトラックがいい迷惑です)
由美は止めるが真吾はこれを受け先ほど由美を襲ったふたりと戦う。勝負は完全に真吾の勝ち。真吾はトラックの真正面寸前まで近寄ったのだった。
これにエンゼル隊のボスは感心し真吾を仲間に誘うが真吾は考えさせてくれと返す。
「明日は考えない」と言うボスの言葉が真吾に響いたのだ。
実は真吾は被爆二世で病状が進行しもう長くないと宣告されていたのだ。
真吾はオートレースで優勝しようとひとりもくもくと練習をしていたのだがその最中でも体調が悪くなることが頻発する。
エンゼル隊のボスもこのレースに出場し真吾と争う。
いったんはボスを抜いて先頭を走った真吾だったがまたも病状が出てしまう。
次々と追い抜かれたが真吾は最期まで走り切って倒れた。
心配して覗き込むエンゼル隊のボスに「おれの病気が出なかったら優勝できなかったな」と強がりを言う真吾。
父親と由美に付き添われて病院へ行く真吾をボスは見送った。
一か月後に真吾の命の灯は消えた。
タイトルの「オレとおまえ」
これは真吾とボスのことなのだろうな。真吾とボスの交流はそんなに多く描かれてはいないけどボスは真吾の生き様に強く打たれただろうと考えてしまいます。
確かに中学一年でこの話を読んだら忘れられない気がします。過剰に泣かせようとしないのが横山流なのでしょうがより登場人物たちの気持ちを考えてしまいます。
私などはお父さんの気持ちが切ない。懸命に生きようとする我が子を応援するお父さん。
由美ちゃん、ほんとに真吾君を忘れられないと思うよね。
なおあとがきに「放射線影響研究所によれば被爆二世がこのような急性症状は見られない、ということで本作品は不適切ではありますが」という表現もあります。が、解説のみなもと太郎氏は「必ずしもそう言い切れない」と書かれていて私もそう思います。
しかしそういうこともあって単行本収録され難かったのかもしれません。
少年の生き様を描いた作品ですが横山氏の心には戦争や原爆がこのような悲劇を生むという怒りと悲しみはあったはずです。露骨に表現しないのが横山氏ですが。