ガエル記

散策

『バビル2世』横山光輝 もういちど その3

『バビル2世』の解析をせんとしてじっくり読んでいこうとしているのだけど面白すぎてどんどん読んでしまう。バビル2世自身はシリアスだけどヨミチームがおっかしいんですよ。ひゃっひゃ笑って読んで(だからあんまり分析する気にさせないに違いない)「あー楽しかった」で満足しそうだけど少し自制して書き進めてみましょう。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

2巻冒頭。『バビル2世』で唯一といっていい女子が登場する。浩一の同級生である由美子だ。浩一自身「由美ちゃん」と「子」を抜いて親し気に話しかけていることから(芸が細かい)ある程度の親密さがあったのだろうと思われるが「浩一くん」と何度も名を呼んで心配する由美子と違い由美子への名残惜しさがまったく感じられない。

可愛い女子がすぐそばで身を寄せ話しかけてくるのにロデムからのテレパシー受信が大切で一片の躊躇いもなく「すぐ行かなかればならない」と去っていく。

いわばバビル2世は教祖に洗脳された敬虔な宗教者のような存在なのではないか。

このことを由美子の父親が「もはや両親も友人も近づけない別の世界の人間なのかもしれないな」と分析している。それを端的に示すためにもっとも魅力的な少女である由美子でさえまったく引き留めることができなかった、と表現していることがわかる。

 

バビル2世はヨミが支配する工場へと入り込む。ここでヨミは秘密裏に人体改造を行っていたのだ。

考えたらこの工場は山奥だとか離党だとかではなく由美子ちゃんの家からそう遠くない町の中にあるわけだ。それが怖いな。

横山先生が描くこういう人たちが楽しすぎる。

こういう場面って主人公が存在しないダレてしまう箇所だと思うんだけど横山マンガでは逆に一番楽しい場面になる。一番は言い過ぎかもだけどこのダレ箇所を見せ場にできるのがすごい。バビル2世が出てこないページが6枚もあるがこの部隊自体に魅力があるのだ。

がんばれ!

しかしヨミ様の判断で「バビル2世に見られてしまったこの工場は人体改造室とともに働いていたこいつらも抹消されてしまう。

 

何度見てもこの時のヨミ様の表情が理解できない。

どーゆーこと?テレパシーで読み取るのが大変だった?あんまりすごい怪鳥だったので驚いた?

働いてるう。でもあんまりブラック企業じゃなさそうな気がする。福祉は充実してるかな。

 

バビル2世、ワンオペ主婦を思わせる。一人だと大変なのよ。

砂漠のシーンが続いた後にこれ。

こういうのが気持ちいいのだ。それにしても横山氏はほんとうに巨大ロボット描くのが天才。

みんな大好き「プクン」

 

そしてバビル2世とヨミ様。岡田斗司夫氏言うところの「チェスのような戦い」が繰り広げられていく。

ここはもう心ゆくまで楽しもう。

そして物語はソドム大佐(訳ありな名前だなあ)の記憶喪失からヨミの過去を探る重要な展開となる。

 

ここでもう一度山岸凉子日出処の天子』を召喚する。

やはり山岸・厩戸皇子=ヨミ様説をもう一度。

似てるかな。いやそっくり。

ヨミはバベルの塔のコンピューターから「バビル2世と同じくバビルからの血を受け継いでいる」と言われ「父親が同じだったとはな」と単純な感想をもらす。

父親・・・と言ってよいのか。

翻って山岸凉子日出処の天子』では厩戸皇子は毛人の心を引き寄せるために「私たちは双子だったのだ」という意味の言葉を伝える。「そなたが先に生まれ私がそなたを追ってこの世に生まれた。そして今もそなたを追っている」と。

二人は別の女性から生まれているのだがもともと双子だったと言い張る厩戸皇子と「父親が同じだったとは」というヨミ様の思考回路に相似点を感じてしまう。

 

そもそも、前回で書いた

ヨミがバビル2世に対し「良き友とならぬか」と言われ「まよっています」と答えてから階段を降りるまでにバビル2世は何を考えていたのか。

その時のバビル2世の思考をヨミは読み取ることができなかったのだが振りむいたその目にヨミは敵意を感じ取った。

だが逆に能力の高いバビル2世はヨミの思考を読み取ったはずだ。

ヨミの思考にバビル2世は嫌悪を感じて冷たい視線を送ったのだ。

山岸凉子氏はその数秒のバビル2世の感情の変化を『日出処の天子』という名作に落とし込んだと私は考えている。

毛人もまた厩戸皇子に好意を持ち交友を求めながら、ここはバビル2世がヒマラヤへヨミを訪ねていった箇所だと思う、つまりバビル2世は自分からヨミへと近づきながら実際に会い言葉を交わし「友にならぬか」と誘われたのに拒絶している。

先に接近したのはバビル2世のほうなのだ。断られたヨミ様の立場がないではないか。

ここも毛人の方が厩戸皇子に興味を持って近づいてきたのに後に(女性を好きになって)拒絶したのと重なる。

 

ヨミ様は主人公ではなく敵方なのにもかかわらず読者はヨミ様に感情移入してしまう。どうしても足掻き苦しむヨミ様に同情してしまうのだ。

日出処の天子』では主人公の厩戸皇子がその立場なのでやっぱり彼に共感する。

一方の毛人の身勝手さに憤怒する。

「その気持ち受け取ってやれよお」

バビル2世と毛人、モテる奴は冷酷だ。