ガエル記

散策

『バビル2世』横山光輝 もういちど その4

さて3巻ですが今のところ色々と思考の小さな断片が舞うばかりで何もまとまってはいません。

なにかにたどり着くことはできるのでしょうか。

できるといいなあ。

 

 

ネタバレですのでご注意を。

 

 

3巻193ページ、残り後少しで第一部が終わる。というかもともと横山氏の構想ではここで完結するつもりだったと書かれている。

もし本当にそうならばこの長編SFはそこまで複雑に構成されていたわけではないのかもしれない。

だとしてもここでの考察に問題があるわけじゃない。解析しようとしているのは『バビル2世』における横山氏の構想ではなく『バビル2世』において横山氏自身の思考を読み取ってみたいというものだからだ。

この一年横山氏の作品を読み続けてどうにか少しはそれが考えられるかもしれない。

 

『バビル2世』は横山作品の前半期の集大成のように思える。(計算は合わないが作品数としてはもっと合わないのではないか)横山先生の好きなものがここに集結しているからだ。

ロボット・飛行機などのメカデザイン、宇宙人、超能力、活躍する少年、主君(ヨミ様)のために忠誠を尽くして働く男たち、女性を出さないこと(これはどうしてなのかイマイチよくわからない)そして歴史ミステリー。

 

なにしろ『バビル2世』のバビルはあの伝説の「バベルの塔」からの間違いで「バビル」になったと言われている。(なんだかよくわからないな)

あの山田五郎先生がブリューゲルの絵画「バベルの塔」をYouTube解説したら物凄いアクセスがあって「これはたぶん『バビル2世』のファンが間違えて見に来たんだと思う」と言われていたwわからないけど本当かもしれない。

私は普通に観ていたんだけどもちろん『バビル2世』を思い出したし山田先生が歌まで歌ってくださったwww山田先生はアニメファンじゃないけどお姉さんが見てた(だったかな?)ので自然と覚えたそうである。絵画のことだけでなく「バベルの塔」について知りたい方は是非「山田五郎 おとなの教養講座」バベルの塔回をご覧ください。

 

つまり『バビル2世』の背後には物凄い歴史と文化があるのである。

 

そして「バベルの塔」といえばメソポタミア文明なのだ。

横山氏の冒険譚は小栗虫太郎原作の『大暗黒』などからもわかるようにアフリカ(チュニス・エジプトなど)から本作のイラク方面での砂漠地帯に興味が向けられている。

その横山氏が砂漠の中に在るバベルの塔を題材にしたのは当然なのだけど実在したか不明の「バベルの塔」にコンピューターをぶっこんで物語にしてしまう発想は思いつく人はいたかもしれないが堂々と描き切った根性が素晴らしい。

ほんとうに男の子の夢をマンガ作品にしてしまうクリエイターだったのだと思う。

 

 

メソポタミアをうろついていたらついつい「ギルガメシュ」に到達。

(ゲームや石ノ森氏の「ギルガメッシュ」はスルーさせていただいて)

この「ギルガメシュ」昔その名は知ったもののさほど興味を持たなかったのに今読むとあまりにも面白くてついはまりこんでしまった。

メソポタミアバベルの塔、と興味を持ったはずの横山氏も「ギルガメシュ」には目を向けなかった、ということはないのではないだろうか。

周知のことかもしれないが私は知らずにいたのでここに簡単に記してみたい。

ギルガメシュは神と人間の間に生まれ美貌と優れた才能を持ち合わせる王だったが権力を思うがままに操る暴君だった。

民は嘆き神に祈ると神はこれに対抗するエンキドゥという男を造り上げる。

これまで誰も対等の力を持つ男と出会わなかったギルガメシュはエンキドゥと激しく戦いその力に驚く。

ギルガメシュとエンキドゥは死力を尽くした戦いの後互いの力を認め合い強く抱き合い無二の親友となる。それからはエンキドゥと行動の全てを共にし、ギルガメシュの王政も穏やかになり民から愛される王となる。 (wikiより抜粋)」

最後の「無二の親友となる」のを除けばヨミとバビル2世のようにも思える。

もちろんこの叙事詩で大切な部分は「ギルガメシュとエンキドゥが無二の親友になり素晴らしい王になる」ところなのだろうけど横山氏は強い力を持つふたりの男が無二の親友になる、と思えなかった、のかもしれないし仲良しになる前までを繰り返し描きたかったのかもしれない。

 

この第一部の最後ではギルガメシュ叙事詩と違い(たぶん)エンキドゥにあたるバビル2世がギルガメシュ=ヨミを殺してしまう、ことで終わる。

ところでこのギルガメシュ叙事詩では後に親友エンキドゥが病死しそれに衝撃を受けたギルガメシュが不老不死の薬を探し求めることになる。

 

バビル2世は死なないけどヨミ自身が死にそして彼はその後何度も繰り返し蘇ることになっていく。

そうだった。横山氏の「好きなもの」には「不死身」もあるのだ。

横山氏作品には「天野邪鬼」など「死んでも死なす生き返る」という「不死身の男」が登場する。

実はギルガメシュは不死身の草を手に入れるが水浴びをしている間に蛇に食われてしまい不死をあきらめるのだ。

これもヨミが最期にはあきらめてしまうことと重なる。

 

先ほどギルガメシュとエンキドゥは互いの力を認め合い無二の親友になったのだがヨミとバビル2世はそうならなかったと書いた。

しかし読者はなぜかヨミとバビル2世の戦いを「仲良しケンカ」だと見破ってしまう。ふたりの関係は恋人同士だ、とさえ言われている。

なぜなのか。

もしかしたら本当に横山光輝氏はこの「ギルガメシュ叙事詩」をもとにして『バビル2世』を創作したからなのではないだろうか。

というのは無二の親友となったギルガメシュとエンキドゥの関係は当時の風習(あのバビロニア文化だ)もあるのだろうか、寝床も共にする性的な関係でもあったらしいのだ。そしてエンキドゥの死後ギルガメシュは彼の遺体に花嫁のようなベールをかけ彼が腐ってしまうまで側にいたとされる。

エンキドゥは最初野人として現れるが実は女性のような美しさを持っていたとされる。

ヨミが美貌でない理由はよくわからないが(以前はハンサムだったかも)バビル2世がかわいい少年であるのを思えば「女性のような美しさ」というのはうなずける。

 

これまで「ギルガメシュ」に通じるなどとは考えてこなかったのだけど「バベルの塔」「メソポタミア」とつなげていけば「ギルガメシュ」にたどり着くのは当然だったのかもしれない。

 

さらに『バビル2世』を読み進めていくけど良き辞書が与えられた気がする。