ちょっとズルをして12巻まで読みました。
伊賀野さんとバビル2世のいちゃいちゃににやけながら読んでいたのですが進むにつれマジ顔になってしまいました。
ネタバレしますのでご注意を。
一度ぱらりと読んだだけなのでちょっとあまりの衝撃にぼーぜんとしています。
(衝撃波を受けたが如く)バビル2世とヨミの戦いがこのようにあっけなく終わってしまうとは。
なんなのだろう。この寂寞感は。
ウィキペディアによると『バビル2世』はもともとすぐ終わる予定だったのが開始とともに人気があったため長編となったと書かれています。しかもアニメ化のためさらに人気があがりより長くなっていったというわけです。
そして
また、バビルがヨミを倒した後の人生がどうなったかを質問され、「きっと孤独な、寂しい人生を送ったんだと思いますよ」と答えている。(Wikipediaより抜粋)
と書かれていてさらに涙を誘いました。
これは横山氏の人生そのものを表しているのではないかと思ってはっとしたのです。
横山光輝氏は69歳という若さで亡くなられています。日本男性の平均寿命が80歳を越えているのと比較すればとんでもない若さです。
とはいえこの時代のマンガ家諸氏はかなり短命であるのを考えればやはりその過酷な仕事量が生命を削ったものだと思えてしまいます。
横山氏の場合は家の火事による火傷で重体となったためではあるのですがその原因の寝たばこであるとか足の骨折による後遺症などと重ねてもついつい仕事からの疲労を思ってしまいます。
横山光輝氏はこの『バビル2世』を必ず「もっとも好きな作品」として挙げていたようですがそれは本作が自分そのものだったからなのではないでしょうか。
プロフィールを見ると氏は20歳で漫画家となっていますがあの手塚治虫をして
手塚はそのデビュー当時を「かれほど『彗星のように』という形容のあてはまる男はいない」と評している
という艶やかさです。
いかに横山氏が素晴らしい才能と魅力を持っていたかが伺えます。
それはまさにバビル2世の尋常ではない超能力と重なります。
しかしその超能力は寿命と引き換えなのだと本作で描かれています。
若い力で溢れたバビル2世の眼前でヨミは老い衰え死んでいきます。しかしその姿はゆくゆく自分の姿でもあるとバビル2世は思うのです。
果たしてヨミは誰だったのか、もしかしたら横山氏がアシスタントもやったという手塚治虫氏でしょうか。
手塚氏は横山氏より6歳年上ですがたった60歳というもっととんでもない若さで亡くなっています。手塚氏の仕事量がどんなに苛烈だったかを考えずにはいられません。
とはいえもちろん本作が描かれている時期は横山氏も若く手塚氏もご存命どころか大活躍中でそんな未来は予測もできないのです。
なのになぜ本作はそうしたイメージと重なってしまうのでしょうか。横山氏の優れた才能=超能力はそうした予知をさせたのではないかと私は感じ震えました。
横山氏も晩年大病されたとも書かれています。
氏や手塚氏の人並外れた才能と仕事量は超能力と言って過言ではないでしょう。
その衝撃波と言える魅力あるマンガを描くために横山氏や手塚氏は生命を引き換えにしたのだと考えてしまうのです。
超能力の先輩であるヨミと若きバビル2世は激しく戦います。幾度もやられやり返しもがき続ける姿は横山氏自身(バビル2世)と先輩漫画家=たぶん手塚治虫(ヨミ)なのです。
そしてバビル2世(横山光輝)が早く死んでいくヨミ(手塚治虫)に同情し「やがて自分も」と思ったのは当然です。
人気爆発のため急いで描いたであろう『バビル2世』には横山光輝氏の心の奥が現れ出てさらに予知までさせてしまったのかもしれません。
ゆえに本作『バビル2世』は不思議な悲しみが漂っています。彼には3つのしもべがいますが同等の友人がいません。
伊賀野さんはバビル2世の力に驚愕し彼を助けようとしてくれますが親友にはなれなかった。バビル2世の孤独埋めてくれるのはヨミだけだった。そういえばヨミはバビル2世に「友達になろう」と誘っていたのではなかったっけ。あの時ヨミと友達になっていれば孤独にならずにすんだのかもしれない。
バビル2世はとんでもない超能力少年なのにもうすでに未来は断たれているのです。
「きっと孤独な、寂しい人生を送ったんだと思いますよ」
横山氏はどうしてバビル2世の未来をこう考えたんでしょうか。
こんなにみんなの幸福のために戦った少年が孤独な寂しい人生を送ったと何故。
横山氏の晩年もまたそうだったのだろうか、と悲しくもなります。
ともあれ横山光輝氏が命を削って描いてくれたマンガ作品、おろそかには読まんぞ、と改めて誓います。