ガエル記

散策

『三国志』横山光輝 第四十六巻

孔明表紙絵3・5回目、増えていきますぞー。

孔明という人がフィクションではなく現実にいた人だと思うと嬉しくなる。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

蜀軍に捕らえられた顎煥は後ろ手に縛られたまま孔明の前に差し出された。

「ほうそちが雲南一と言われる顎煥か」と孔明は「これこれ縄を解いてしんぜよ」と言い顎煥を陣幕の中に招き入れる。

そこには酒や料理が並べられ孔明は「朝から夕方まで戦い続けであったそうな。一献召し上がれ」と酒を勧めた。

「越巂の高定殿はもともと忠義の士じゃ。おそらくは雍闓にそそのかされて謀反に加わったのであろう」と盃を掲げた。

「今までの高定殿の忠義に免じてこの度はそなたも許そうと思う。高定殿にも伝えてくだされ。早く目をお覚ましあれと」

というと席を立ち「では自由に引き返されるがよい」と言って部屋を出ていくのだった。

顎煥は側仕えに「本当に帰っていいのか」と聞くと「はい、馬も用意してございまする」と答える。顎煥は差し出された馬にまたがり帰っていく。陣には兵士たちが食事を楽しんでいて出ていく顎煥を誰も気にしていない。

「なんたるゆとり。なんたる自信」と顎煥は考えた。「そうじゃ我がご主人は雍闓の野心に乗せられたのじゃ。これは早くお諫めした方が良い」

 

陣に戻った顎煥を主人の高定と雍闓が迎えた。敵の捕虜となったと聞いた顎煥が無事戻ってきたのでふたりとも驚く。

顎煥は「孔明は実に仁者。高定は忠義の士であり今までの忠義に免じてこの度は許してとらせると。そして雍闓の野心に踊らされたのであろうと」

雍闓は大笑いし「高定殿。それが奴の詐術というやつよ。我々の中を裂く離間の策というものじゃ」という。「よいか高定殿。敵の手に乗ってはならんぞ。我らの後ろには南蛮王の孟獲がついているのじゃ」と念を押した。

「高定殿明日から連携して孔明と戦おうぞ」と雍闓は去っていった。

 

翌日、孔明の陣に雍闓軍が迫ってきた。

しかし孔明は「放っておくがよい」と笑っている。

雍闓軍は騒々しく陣の際まで来たが蜀の陣内は静まり返って誰も出てこない。

銅鑼や太鼓を叩いても罵声を浴びせても何一つ反応がないので雍闓軍はなすすべなく引き揚げていった。

連日雍闓軍は蜀陣まで迫ってきては騒ぎ立てたが孔明は手出しをさせなかった。

高定軍と雍闓軍が共に動き出すまで十日でも待つとしようと孔明は言うのだけであった。

そして五日目孔明魏延を呼んだ。

「そなたは隊をふたつに分け待ち伏せてもらいたい」

「では丞相は敵がそろそろ動きを変える時だと」

「雍闓には我ら士気無しと見えたであろうからな」

「ではすぐに隊を引き連れ待ち伏せを行いまする」

 

陣に戻った雍闓は高定に向かっていかに蜀軍がいかに臆病なのかを語り明日は両軍で攻め寄せてみようと進言した。

高定もこれに異存はなかった。

翌日雍闓軍と高定軍は意気高らかに出陣した。これを魏延軍は手ぐすね引いて待ち受けていたのだ。

今まで悪口雑言を耐え抜いていた蜀軍兵士たちは思う存分暴れまわった。雍闓・高定は這う這うの体で逃げ帰ったが両軍の兵士の多くが捕虜となった。

 

孔明は捕虜を雍闓の捕虜と高定の捕虜に分けて収容した。そのうえで噂を流した。

「高定はもともと忠義の士であって雍闓におだてられ魔が差しただけ。ゆえに高定の部下は命を助ける。が、雍闓は野心のため謀反を起こした。ゆえに雍闓の部下はすべて断罪だ」

流れた噂を耳にした雍闓の兵士たちは怯え「このままでは殺される。俺たちも高定の部下だと言おう」と決意した。「しかし高定の兵だけ助かるというのは裏取引でもあるのか」「そうだとすれば雍闓様も高定にいつ襲われるかわかならないな」と言い合った。

やがて蜀軍の将に「高定の家来は前に出ろ」と呼ばれ全員が「高定様の家来です」と出ていく。

「嘉向に酒と食事が用意してある。たっぷり食って帰るがよい」

美味しそう。楽しそう。

たっぷりご馳走になり帰っていった。

 

次に高定の兵士たちにも孔明は同じようにふるまった。

が彼らの前には孔明自身が現れて話をする。

良い絵だなあ。

 

「実は今日雍闓の密使がお前らの主と朱褒の首を献上するゆえ領土の安全と恩賞をくれるようにと申して参った」高定の兵士たちはこの言葉にぎょっとする。

「お前たちの主人は雍闓に利用されている、それゆえ今回はお前達を帰す。だがこれでもわからず再び捕虜になったらその時は断罪になると思え」

高定の兵士たちは厚く礼を述べて帰っていった。

 

雍闓は兵士たちによって「高定の兵は無罪放免で雍闓の兵は断罪だと言われた」として「高定の兵だと偽って帰ってきた」と聞く。

以前に顎煥がそして今家来たちが帰された。考えられることは孔明と高定の間に何か裏取引があるのではないかということだ。

 

そして高定は戻ってきた兵士から雍闓の野望を聞く。高定の首と引き換えに領土の安全と恩賞を求めたという孔明の言葉である。

高定は雍闓の陣に間者を放って真偽を確かめさせた。

 

戻ってきた患者は雍闓が高定を売ったかどうかはわからなかったが家来たちがしきりと孔明を褒めたたえていたのを伝える。

高定は次に孔明を探らせた。が、間者は蜀の陣の前で捕まってしまう。

すると孔明は高定が放ったその間者に「そのほうはいつぞや雍闓の使いで参ったものではないか」と勘違いしている発言をする。

「お前の総大将は高定・朱褒の首を献上すると約束しておきながらなにゆえ日限に遅れたか」

孔明は雍闓宛の手紙を書き高定の間者に渡したのであった。

 

間者は高定にその手紙を渡した。

「高定・朱褒の首を取って降伏を誓うならば約束通り重き恩賞を」と書かれている。こうなれば高定は雍闓の容疑は確実としか思えなくなった。

高定は顎煥にもその手紙を見せ「だがこれも孔明の策かもしれぬ」と迷った。

「では酒宴を設けて雍闓を招いてください。公明正大なら平気でやってまいりましょう。来ぬ時は邪心があるのです」

 

酒宴の招きに雍闓は「軍議が忙しい」と言って断った。無論雍闓としては高定と孔明の策略ではないかと疑っているからだ。

 

こうして孔明の策によって雍闓と高定両方が互いを信用しない形となった。

高定は雍闓を夜襲することにした。

 

夜襲に気づいた雍闓の側近は兵士たちに防御を命じるが兵士たちは「孔明様に逆らっても勝ち目はねえ」と雍闓の側近に対して槍を向けた。

「高定様まで孔明様についている。おらたちも降伏するだ」と雍闓の側近を串刺しにした。

さらに捕虜になった兵士たちは雍闓の陣に火をつけて回ったのだ。

もはや誰が味方で敵か見分けがつかない。雍闓は馬に乗り逃げ出すしかなかった。

そこへ駆けつけてきたのは顎煥だった。

(雍闓と顎煥が似てて見分けがつかんw)

雍闓

顎煥「雍闓」と言ってる顎煥

こうして雍闓は顎煥に討ちとられた。

 

高定は雍闓の首を持って孔明の前に現れ反乱に与したことを謝罪し降伏を願った。

が、孔明は雍闓の首をみるや「この曲者を斬りすてよ」と命じた。

高定は驚き「丞相はそれがしを忠義の士と呼んでくだされたとのこと。恩に感じいま降伏を誓って参ったのに即座に斬れとは」

孔明は「そちの降伏は偽りじゃ」と言って朱褒から届いたという手紙を見せた。「高定と雍闓は生死を誓った仲、油断なきように」としたためてある。

その首は雍闓と示し合わせた偽首であろう、と言い朱褒は降伏を乞うてきたのは再三ではない。ただ朱褒は功がないため焦っているのだ、という。

 

高定は「はじめ雍闓の謀反に加われといったのは朱褒だった。それが我らをすでに売っていたとは。それがし死んでも死に切れませぬ。朱褒を討てばどんな処分も受けまする。それまで数日命をおあずけください」

孔明は「よろしい」とした。

 

高定はすっかり逆上していた。

ただちに手勢を引き連れ朱褒の陣へ向かった。

 

「なにかあったのかな」と訝しむ朱褒(なにもしらないからね)は「やあ高定殿、いかがいたした?」と出迎える。

高定は「きさま何故孔明に書簡を送り反間の計を用いてわしを陥れようとした」となじった。

何もわからずにいる朱褒に顎煥が槍を突き刺し殺害した。

「すでに雍闓も死んだ。ここでわしに従わぬ者は斬り捨てる」

驚く朱褒の家来たちはその場で降伏をした。

 

高定は朱褒の首を持って再び孔明の前に現れた。「これで思い残すことはございませぬ。好きなように処分なされませ」

「いや前の首も雍闓の首とわかっていた」

驚く高定に孔明

「どれほどの覚悟か知っておきたかった。また大きな手柄を立てておれば納得される。それゆえあのように申した」

打ち首覚悟の高定はいきなり益州三郡の太守を命じられたのだ。

こうして益州の乱は平定したのであった。

 

孔明は永昌へと向かった。ここは益州三郡の反乱に加わらず最後まで城を守り通そうとした永昌太守・王伉の労を慰めるためであった。

孔明に感謝された王伉は「呂凱の力です」と言う。

孔明呂凱に会った。

呂凱孔明がこれから南蛮征伐に行くと聞き「南蛮指掌図」という地図を渡した。

南蛮を平定することが蜀の安泰と考え内々に作ったという。陣屋を作るべき場所会戦の場となるべきところをすべて記しているというのだ。

さらに孔明呂凱に行軍教授として同行を望んだ。

呂凱はこれを快諾した。

 

それからまもなく孔明は不毛の地疫病の国と言われる南蛮の地深く進軍を開始したのである。

 

地道な孔明の行動である。

これまでの華やかな三国志戦闘とは違う綿密な地味さ。

煌めくスター武将が登場することもない。

しかしだからこそ孔明の真面目さ高潔さが伝わってくる。

 

お体大切に、と言いたくなる孔明の実直なる進軍です。