ネタバレしますのでご注意を。
崔諒は手はず通り孔明の元へ戻り「夏侯楙を生け捕りにするのは困難だった」と告げる。
「それゆえ我ら合図とともに城門を開きますので丞相じきじきに乗り込まれてはと」
「ふむ」と孔明は「それならば措置と共に我らに降った部下百人を連れて行け」
これは計画とは違う方向となったので崔諒は「丞相はおいでにならぬのでございますか」と問うた。
「いやわしも後で参ろう。その前に我が軍の関興・張苞の二人をそなたの隊に加えてやろう」
これには崔諒、断れば疑われると思い二人を殺してそれから孔明をおびき寄せればと「わかりましてございます」と頭を下げた。
崔諒が退室すると孔明は関興・張苞二人を呼び寄せ策略を講じた。
崔諒は門前から矢文で子細を伝えた。そこには「まずは目付の関興・張苞を殺してから」と書かれている。
楊陵はこれを受け取り夏侯楙に目を通してもらう。夏侯楙は関興張苞を討ちとり城内の一角に火を放ち城門を開けて孔明を通す、それが孔明の最期よ、とほくそ笑む。
楊陵が壁上からお通りなされ、と声をかける。
門が開かれ崔諒・関興・張苞が城内に入ったとたん、張苞が「崔諒」と呼ぶや「貴様の役目は終わった」と胸を一突きした。「こんな小細工読み取れぬ我が丞相と思うか」と関興も驚く楊陵を突き殺した。
共についてきた崔諒の部下たちに張苞は「さあ火をつけよ。我が丞相の恩賞は大きいぞ」孔明は崔諒の家来たちを説き伏せ恩賞を約束していたのだ。
芝居にしてはあまりに大きな火事に南安城の家来たちは怯えながらも「孔明をおびき寄せるにはこのくらいしないといけないのだろう」と納得する。
何も知らない夏侯楙は「孔明は討ちとったか」と家来に問う。家来は「討ちとるどころか楊陵・崔諒も討たれ蜀軍が城内になだれこんできました」と告げた。
「もはや逃げ道は南門しか残っておりませぬ」と夏侯楙は南門から天水城へと逃げることにした。
が前方には王平が待ち構えていた。
抵抗はしたもののあっけなく夏侯楙は捕らえられ縛り上げられて南安城へと戻ることとなった。
その夜、孔明は祝宴を開いた。
「皆の者、今日の働き見事であった。心ゆくまで祝杯をあげてくれ」
酒宴の中で孔明が何故最初から崔諒の降伏は偽りと見破られたのかという話になる。
「直感というのか」と孔明は答え「総じて敵が我らを謀らんとする時は我らも策略を行いやすいものじゃ」
偽使者がもう一方の天水城へ向かった時、城内ではこのようなことが起きていた。
同じように「それがしは夏侯駙馬の腹心。至急太守馬遵殿にお目にかかりたい」と呼びかけ門番は「失礼があってはならない」と慌てて開門した。
偽使者は「今南安城は孔明軍に包囲され苦戦でござる。それゆえ太守は早々に出陣し蜀軍の背後をついていただきたい」とこれも同じように要求し手紙を渡した。
馬遵が出陣を渋ると居丈高に「夏侯楙様は帝族であらせられるぞ」と詰め寄る。これには馬遵もやはり恐れ入って承諾の返事をしてしまうのだった。
馬遵は疑念を持ちながらも諸将を集め出陣の支度にかかるよう言い渡す。ここで「お待ちくだされ」と手をあげた若者がいた。
この若者は姜維という名で十五、六の時にはもう郷土の学者も彼の才識に歯が立たなかったという天才だという。
姜維は「すでに太守は孔明の策に乗せられているということでございます」と進言した。「南安城は蜀軍に包囲されているのにどうやって使者は抜け出してきたのでしょう。孔明はおそらく太守を天水城から誘い出し兵を伏せて撃滅しさらに別動隊を留守の城に回して内外同時に滅ぼす策でございましょう」
馬遵は出陣は取りやめることにした。脅威はさらに続ける。「太守、孔明の策を逆手にとってはいかがでございましょう」
姜維は三千騎の兵を与えてもらって身をひそめ太守も南安城に駆け付けるふりをして城を出るのです。この城を襲う別動隊が現れたらこれを挟み撃ちにするのです。
姜維と馬遵は手はず通り行動する。
趙雲の元へ馬遵が城を出た、の報が入る。趙雲は五千の兵を率いて天水城を奪わんと城前に現れ「太守馬遵は我が謀に落ちた。早々に城を明け渡せ」と呼ばわった。が、城兵は予想外に多く趙雲を嘲笑って返す。「きさまこそ姜維の謀に落ちたのを気づかぬか」
(いきなり姜維と言われましても)
そこへ伏せていた姜維が三千の兵と共に駆け付け趙雲に向かった。
「我こそ天水の姜維。尋常に勝負」
これを趙雲は受けた。が、姜維の槍は驚くほどの力を持っていた。しかも戻ってきた馬遵軍との挟み撃ちとなり完膚なきまでに惨敗を喫したのである。趙雲はからくも血路を開いて逃げ延びたのだった。
趙雲から挟み撃ちにされたと聞いた孔明は驚く。それは孔明の計略を何者かが知ったということだからだ。
「まだ二十歳にもならぬ若者でございました。だが槍をとっても無双の使い手。あれほどの者が天水にいたとは」と趙雲は説明した。
さらに姜維と同郷の者が続ける。「父はすでになく母と子の二人暮らしで評判の親孝行でございます。さらに学を好み武を練りその才識は学者や古老も舌を巻くほどで冀城の麒麟児といわれてございます」
孔明は天水をとることはいともたやすいと思っていたのにそのような麒麟児が片田舎にいたのかと考え込んだ。
「よし明日はわしが陣頭に立って天水へ迫ろう」
馬遵は姜維の策に感心し賛辞を送った。
姜維は「趙雲が敗れたうえは必ずや孔明が自ら乗り出して参りましょう」と進言する。
「討ちとるのはこの時です。孔明は我が軍が城内に立てこもっていると思っているはず。それゆえ軍勢を四つに分け一手は城を守り三手は城外に身を伏せて背後より夜襲を行えばよろしいかと」
さらに「気づかれぬよう旗刺し物を数多く並べ籠城しているように見せます」
孔明は陣頭に立った。
天水の城には旗刺し物がおびただしい。士気盛んは我が軍も劣らぬと孔明は出撃を命じた。
城内に残った兵たちは数が多いように見せかけるため位置を変えて矢を射かけ石を投げ込んできた。
孔明は天水城の頑強さを感じて兵を下げた。
夜になり陣内で孔明はここで時間を費やしてしまう焦りを感じていた。(何の意味もないような田舎城だろうしなあ)
そこに大声があがり「背後より夜襲」の報が入る。
孔明が外へ出ると蜀陣内が火に包まれ敵軍が駆け込んでくるのが見えた。しかも別方向からも。
孔明は馬に乗り身を隠すしかなかった。
山道を行くと平地に数多くの灯が見える。
「まだこれほどの大軍がひそんでいるとは」と張苞。
孔明は「大軍がいるように見せかけた陣形であろうが見事じゃ」
そこに「あれは姜維の陣です」との報がはいった。
と、灯が動き始めた。「我々に気づいたようです」
孔明は後方へと急がせた。
孔明にとっては生まれて初めての敗戦であった。
なんとそれを10代の若者である姜維が成してしまったのだ。無名の将に対する孔明の油断でもあったのだろうけどあちらも少数の軍勢。孔明にとっては辛い敗戦だ。
蜀軍の被害は予想外に大きかった。
「わしとしたことがなんたること。姜維ひとりにてこずってるようでは魏を破るなど思いもよらぬわ」
いいねえ。
悪いこと思いついた顔。
孔明は魏延に冀県を攻めさせ姜維が現れたらそのまま見過ごして城に入らせよと命じた。
「見過ごして?」と魏延は問い返したが「そうじゃ」との答えにうなずいた。
趙雲には天水の要地である上邽を攻めさせた。
この報が天水城に入る。
姜維は冀城に残している母親の身を案じ馬遵に平伏して母の元へ行くことを申し出た。
馬遵は母親思いの姜維の胸中を察して許した。
姜維に気づいた魏延は「適当に戦ってそのまま姜維を入城させるよう」指示した。(魏延軍こういうのばっかw)
魏延は負けたふりをして逃げ出した。
姜維は一気に冀城へと駆けこんだ。
さて孔明は捕縛した夏侯楙と会う。
「そちは命が惜しいか」「お助けくださるならば」と夏侯楙は跪く。
孔明は「先日冀城を守る姜維から手紙がきた。駙馬のお命をお許しくださるならば降伏つかまつる所存と。それゆえお主の命は許してつかわすが姜維に降伏をすすめて参るだろうな」
「それはもう」と夏侯楙。
「ではすぐ冀城に向かいたまえ」
馬に乗り冀城へ向かう夏侯楙。
ところが向こうから百姓の群れがやってきた。荷物を抱えどこかに避難している途中のようだ。
「お前たちはどこの民だ」と夏侯楙が聞くと「冀県の者」と答える。「冀県の者がなぜ避難している」
百姓は「冀城を守っていた姜維が蜀に降伏してしまい蜀の魏延兵が村々に火を放って掠奪を始めだしたのです」
姜維がもう降伏してしまったと聞き夏侯楙はそれではもう冀城へ行っても仕方がない、と天水城へ行くことにした。
途中でまたも冀県から逃れてきた百姓たちと出会った。やはり蜀兵の放火と掠奪から避難してきた者たちだった。
天水城についた夏侯楙は名乗り上げて開門を要求した。
すぐに門は開けられ馬遵が迎え出る。
夏侯楙は茶を飲みながら事の次第を話す。南安城がすでに落城し姜維が夏侯楙様の命を助けてくれるなら降伏するという手紙を孔明に送ったゆえに放たれて冀城へ向かうところだったという。
これには馬遵が驚いた。
「ところがわしが冀城へ着く前にもう姜維は蜀に降伏してしまっていたのじゃ」
あの姜維が降伏するなど信じられないと言い返す馬遵に夏侯楙は「信じられぬなら城の外へ出てみよ。難民であふれとるわ」
「それならば夏侯楙様を助けようと偽りの降伏をしたのでしょう」
しかし夏侯楙は「そのようなことはない。やつはすでに敵についたのじゃ」と言い切った。
そこへ「蜀軍の夜襲」との報がはいる。
夏侯楙・馬遵たちが城外を見るとずらりと灯を持った蜀兵の列が並んでいた。
なんかよくわからんけど(いや知ってるけど)めちゃくちゃかっこいい絵です。
灯に浮かび上がる騎乗の美少年という。
なにこれなにこれー。
姜維、孔明に見込まれてしまったためにここから悲劇が始まっていくのね。
馬謖から心が移ってしまったのか、駒は多く持っていたかったのか。
単に早く解決したかっただけなのか。