ガエル記

散策

『三国志』横山光輝 第五十一巻

これは関興くん、かな。表紙絵一回目。

姜維の帰順ーネタバレいいのか。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

姜維は城内に向かって語った。

「この姜維は夏侯駙馬のお命を助けんものと蜀に身を売って命乞いをいたした。おのおのがたもあたら命を無益に捨てずに我らとともに蜀に降れ」

これに夏侯楙は「そちは魏の大恩を受けながらなんで蜀に降参した」と叫び返した。

姜維は「夏侯駙馬がこの城にいるとはどういうことだ。駙馬がわしに書面にて蜀に降れば命が助かると申したから蜀に降ったのではないか」

が夏侯楙は「黙れわしは命乞いの手紙など出した覚えはないわ。お前こそ命が惜しくて蜀に降ったのであろう」とまたも叫んだ。

姜維は「許せん。かかれ」と蜀軍に号令をかけた。

蜀軍と魏軍の戦いとなる。

夏侯楙は中へと入りながら「どうじゃ見たであろう。姜維はすでに蜀に寝返ったのじゃ」馬遵は「はい」というしかなかった。

 

蜀軍はしばらく攻め続けたがさすがに攻めあぐみ、夏侯楙を罵りながら引き揚げていった。

 

さてこの蜀に寝返ったという姜維は実は彼にそっくりな兵士を姜維に仕立てて芝居をさせたという孔明の計略だった。

夏侯楙・馬遵らはすっかり信じ切ってしまったのだ。

孔明はこれから本物の姜維が立てこもる冀城へ向かうのであった。

 

冀城の姜維は天水城の経緯など知る由もなく蜀軍に取り囲まれても「わしが守る限りこの冀城は落とさせぬぞ」と意気込んでいた。

だが食糧が尽きていた。三千の兵を飢えさせるわけにはいかない。

姜維は北道を行く蜀の食糧部隊に気づく。全軍で打って出食糧を奪うしかないと姜維は決意する。

姜維軍に驚いた食糧部隊は荷物を放り出して逃げ出してしまった。姜維たちは喜んで食糧を城へ運ぼうとしたが蜀軍から襲われてしまう。

なんとか逃走し冀城へ戻り開門を叫んだがそこはすでに魏延の旗が翻っていた。

食糧部隊は罠だったのだ。

魏延は冀城壁上から矢を浴びせてきた。

姜維は必死で逃げるしかなかった。

逃げ延びて一人きりになった姜維は天水城へ戻ることにした。

天水城前で姜維は呼ばわった。「それがしは冀城の姜維だ。ここをお開けくだされ」

その声を聞いた馬遵と兵たちは驚きあきれた。

「よくも現れたものだ。裏切者を射殺せ」

何もわからないでいる姜維に矢が浴びせられる。「太守。これはどうしたことにございます」

が馬遵は「昨日は蜀に降り、今日は我が陣営に戻ってきたというのか」と容赦なく姜維を攻め立てた。

聞く耳をもたない馬遵を相手にはできず姜維はやむなく上邽城へと向かった。がここでも同じように「蜀に降ったことは知っているぞ」と矢を浴びせられる。

 

「なぜだ。なぜこうなってしまったのだ」城もなく兵もなくいまや姜維は帰る家を持たぬ身となってしまった。

その姜維の前に現れたのは関興だった。

姜維は駆け出すがそこには孔明の姿があった。そしてその横には

孔明は「姜維。そこまで誠を尽くせば武門にも恥はあるまい。なぜ潔く降参いたさぬ。死ぬことはいつでもできる。それよりもその才能をなぜ国のために役立てようと考えぬ。ご母堂もそちが早死にするよりもその才能を世の中のために役立ててくれることをお望みであろう」

うしろの馬がかわいい。姜維が早めに帰順してくれて(帰順でいいのか降伏じゃないのか)嬉しいけどこういうものか感もあるw

しかし私の感想なんかどうでもよくて

最高に喜んでいるのはこの人、孔明

「平素学びおいた兵法の道を誰かに伝えたいと思うていたがその人を得ず残念であった。しかしこの度そなたに出会うて願いがかのうた。そなたにすべてを伝えたい」

物凄い告白。こんな熱烈な告白他にない。(しかし馬謖は?まさかこのせいで馬謖は、と思ってしまう)

しかも姜維も「それがしに兵法のすべてを」と告白を素直に受け止める。

「それを国のために役立ててくれい」

「私のような者に身に余るお言葉」

姜維としてみれば今出会ったばかりなのにこんなに自分を思っていてくれる人がいたのかと驚いてしまうよな。

しかし孔明の方は姜維を手に入れられなければここで北伐など叶わなくなってしまう、という思いと姜維を手に入れたら自分のすべてを彼に注ぎ込むことができるという期待でここ数日悶々としていたに違いない。ほんとうによかったね孔明

しかし重ねて馬謖の立場は?とは思うよね。馬謖にはこんな場面なかった。孔明姜維を見てすべてを与えたいと思ったのだ。なぜなのだろうか。

 

さて陣に戻り孔明姜維に「天水・上邽城に弱点はあるか」と問う。

「弱点はございませぬが」と姜維。「だが矢が一本あれば天水はとれるでございましょう」

これには孔明も「?」となる。ふふふ。

「天水城中の尹賞・梁虔はそれがしと昵懇の仲。密書をしたため矢文として射ち込めば内通しようとしまいと戦わずしておのずと浮足立ちまする」

「なるほどそちからの手紙とあれば夏侯楙も馬遵もそのふたりを疑うであろうな。よろしいやってみたまえ」

アンバランスなほどの手の大きさが姜維の美しさをひきたてているように思えます。横山光輝氏がこの時姜維を素晴らしい若武者として描いてるのが伝わります。かつての馬超に通じますね。

ふつくしい

城兵はこの矢文を太守に届ける。

馬遵と夏侯楙がこの手紙を読むがあいさつ程度のことしか書かれていない。馬遵は「このふたりは姜維と親しかった。これは何かの合図かもしれませぬぞ」と疑念を抱く。

すぐにふたりを呼び出し首を打てと話し合った。

これを聞いていた一人がすぐさま尹賞に告げた。釈明に行く、という尹賞に「それより先に殺されます」と助言する。(この人誰なのだ)

尹賞は急ぎ馬に乗って梁虔の元へ駆けつけ事の次第を報告した。

それを聞いた梁虔は「どうやら姜維の策に乗せられたな」と言い出す。尹賞も「わしも姜維は城中を混乱させるためにやったと見ている」と答えた。

「そして駙馬も太守も簡単に乗ってしまったということか」と梁虔「家来を信じられなくなったらこの天水も長くない」

「この城よりもさしせまって我らの命が危ない」

そこでふたりはこの城を蜀に差し出して蜀に降り重く取り立てられたほうがましではないかと話し合い実行することになった。

このふたりさすが姜維の親友だけあって頭良い。

ふたりは軍勢を集め門兵を脅して城門を開かせた。

城外で待つ蜀軍に対し白旗が降られる。

待機していた孔明姜維

姜維。一本の矢、見事に決まったのう」孔明姜維の頭脳にむふむふしてる。

蜀軍が動き出したのを見て尹賞・梁虔は駙馬と太守を捕えに行く。

この時駙馬と太守はふたりがまだ来ないと待っていた。

と「尹賞・梁虔が蜀軍を城内に入れこちらに攻め寄せて参ります」との報が入る。

駙馬と太守は蜀軍も入ってきたのでは太刀打ちできないと西門から逃げ出しそのまま羌族の地へ落ちて行った。

 

まもなく天水城に蜀の旗がたなびいた。

孔明尹賞・梁虔を呼び寄せ「確かに城は受け取ったぞ」

残る上邽城の太守は梁虔の弟ということで説き伏せて降伏となった。孔明は宴を張って三人を厚くねぎらいそれぞれの城の太守に任じたのだった。

孔明は夏侯楙は追わなかった。追う価値がなかったのだ。

「それよりこの度姜維を得たことは鳳凰を得たも同然じゃ。あの軍勢の配置兵法はまさに麒麟児。昔から言うであろう〝千兵は得易く一将は求め難し”まさにこのことじゃ。その方がわしにはうれしい」

孔明姜維を語るたびに激愛すぎる。

聞いていた関興張苞はどんな思いだったのかねえ。あっこれちょうどふたりの父親たちと玄徳の関係と同じじゃないか。

関羽張飛は物凄く嫉妬深かったのに。まあふたりと玄徳は付き合いが深かったからしかたない。

 

孔明は「さあここの三城を手に入れたからにはいよいよ魏の都に攻め入るぞ」と明るく関興張苞に告げるのであった。

 

魏の皇帝たる曹叡に「孔明軍来る」の報が入る。遠近の州都は孔明を恐れ続々と降伏しているというのだ。

このままでは蜀軍は怒涛のように都に押し寄せてくる、と聞き曹叡は怯え「蜀軍を撃退してくれる者はおらぬか」と問う。

これに「それは曹真大将軍より他にございますまい」という答えが上がる。

曹叡は「そちに二十万の軍勢を授ける。蜀の軍勢を追い払って参れ」と命じた。

しかし曹真はこの任は重すぎると断ろうとした。が、重臣の「先帝のご逝去あそばされる前に後を託すると言われたのはこのような時のこと」という言葉に辞退もできずこの命を受け取った。

曹真は蜀と決戦すべく祁山へと向かった。

それから間もなく両軍は祁山の前でにらみあった。

孔明は曹真の陣形にはさすがと褒めたたえる。

といってにらみあっていてもしかたない。今夜夜襲をかけてみよう。

関興張苞は「敵は夜襲にも備えていると思われまするが」と助言したが孔明は「おそらくそうであろうな」というだけだった。

 

さてここから結構ややこしいですw

いつもだけど孔明の計略ややこしいので私は絶対間違えそうで無理ですw

趙雲魏延はまたもや夜襲をやるぞと見せかけ敵を誘い出し山裾の裏道を通り離れて陣を構え待ち受けるが策にはまって逃げ出した敵をいったん見過ごしてから追撃する。

関興張苞は祁山の要所に兵を伏せ敵をやりすごしてから敵の陣に斬りこむ。

馬岱王平張翼張嶷は陣の外にひそみ敵が襲ってきたら四方より攻撃せよ。

他の物は陣内に柴草を積み重ね敵が攻めてきたら火を放って合図を送れ。

さてわかったかなあ。

 

魏軍ではこの様子を伺った曹真と郭淮が奇襲を予想した。

軍勢を四手に分け二手は間道を伝って左右より敵の本陣に近づき隙を見て襲う。残る二手は陣の外で夜襲を待ち構える。敵が押し寄せてきたら左右から一気にたたきつぶす。

曹遵・朱讃は蜀の本陣を伺わせ、曹真と郭淮は陣外で挟み撃ちにする作戦を立てた。

(よし少し飲み込めたw)

 

夜、曹遵は蜀軍が陣を出るのを見て「我が陣に夜襲をかけるつもりだ」と蜀軍が手薄になったと逆に夜襲をかけた。

が蜀陣内は人の姿がない、と見ているうちに火の手があがった。

と襲ってきた軍勢を見て応戦したが相手が朱讃であると気づく。なんと同士討ちをしていたのだ。曹遵と朱讃は「やめろ味方同士だ」と叫ぶ。

この時銅鑼の音が響き四方から王平馬岱張嶷張翼の兵が殺到した。あっという間に曹遵・朱讃軍は包囲され魏兵は次々と討たれていった。

曹遵・朱讃は這う這うの体で逃げ出した。

だがこの血路もすでに趙雲が待ち受けていた。

「よしやりすごしてから追撃するのだ」(ちゃんと言いつけ守って偉い)

追撃され逃げ惑う曹遵・朱讃の前に今度は魏延軍が。

これもまたやり過ごしての追撃。

曹遵・朱讃はやむなくそのまま魏陣へと逃げ込んだ。

 

魏陣では凄まじい勢いで駆けてくる軍勢を見て「蜀軍の夜襲だ」と合図の火をつける。

曹真・郭淮は両側から挟み撃ちにする。

しかしそれは曹遵・朱讃の軍である。「待て早まるな我らは味方だ」「朱讃じゃ、わからぬか」と叫んでも怒号にかき消され届かなかった。またしても暗闇の中で同士討ちが始まった。

この大混乱の中に中央より魏延が左寄り関興、右寄り張苞の軍が斬りこんだのである。

魏軍の混乱は極限に達した。

 

「引けっ引くのじゃ」曹真・郭淮は血路を開きかろうじて逃げ出した。

夜明けと共にその惨状が見えてきた。地上は魏兵の死体で埋まり辺りは血の海と化していた。

祁山の序戦は孔明の裏の裏をかく作戦で蜀軍の大勝利に終わったのである。

 

難しい~!よかったこの作戦に加わらずにすんでw

しかし孔明恐ろしい子

まさに悪魔の所業よ。

味方同士で殺し合いをさせるなどと酷い。酷すぎる。お友達だっていたのによ。親兄弟だっていたかもなのによ。

敵にしたくない男・孔明。味方にしたい男・孔明

でもほんとは良い人なんよ・孔明