ガエル記

散策

『三国志』横山光輝 第五十四巻

孔明表紙絵8・5回目。もう他には姜維くらいしかいないからなあ。

 

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

 

陣を張って休息しようとする費耀軍を高みから見下ろす孔明は扇を振って合図した。

銅鑼の音とともに馬岱軍が駆け下りていく。

費耀は「一押ししてから退却せよ」と声をかける。「退却ですか」と訝しむ兵士たちに「これは姜維との打ち合わせの行動じゃ」と答えた。どうやら費耀は姜維の手紙を信じる方へ動いたらしい。「我らは退却しその間に姜維が蜀軍の食糧に火をつける。それが合図で反撃し姜維軍と挟み撃ちにするのだ」

「よしかかれ」と号令し「そろそろよかろう」と引き揚げの声をあげた。

馬岱軍はこれを追う。

が火の手がなかなか上がらず費耀はあと十里後退した。ついに火の手が上がったのが見え費耀は反撃を開始した。

戻ってきた魏軍に馬岱は「いやに勢いづいたな」というと「馬岱様。後方で誰かが反乱を起こしたそうにございます」

馬岱はにやりとして「いかんこのままでは挟み撃ちにされるぞ」と引き揚げを命じた。

どっと逃げていく馬岱軍を見て費耀は喜び進撃していく。

と前方が岩で塞がれているではないか。

費耀は一瞬にして悟った。

「いかん、これは孔明の罠だ。引けっ引けっ」

またもや後退しろという大将の号令に歩兵たちは戸惑い立ちすくんだ。

とその時山の上から銅鑼の音がして岩石が次々と落とされていく。

費耀軍兵士たちはその下敷きとなっていく。

費耀は「急いで駆け抜けろ」と叫び進むと脇道を見つけ入り込む。

そこにいたのは

「よくも謀ったな。その首わしがはねてくれん」と費耀は突っ込んできた。

「そちの腕ではまだまだ私の首はとれぬ」と姜維

姜維・・・優男にしか見えないのだけどなぜそんなに強いのだ?しかもまだ20歳くらいなのにその自信と実力はいったい。

久しぶりのまともな一騎打ち場面。

だが

うーむ。費耀よかっこ悪いぞ。

「さあ潔く降伏せよ」

「黙れ誰が降伏などするものか。いずれその首はもらうわ」と費耀は元の道へと引き返した。

が、またもやその退路まで塞がれてしまっていた。

そこへ馬岱が「もはや退路も断たれた。悪あがきはやめて降伏せよ」と叫んだ。

「黙れ降伏などせぬ」と費耀は一隊に岩を片付けさせ残りは矢で応じさせた。

馬岱は続けて火を放った柴車を落とした。費耀軍はあっという間に炎に包まれた。

さらに大岩が落とされていく。

ついに落馬した費耀は「もはやこれまでか」と剣を抜き自らの首を斬って自害した。

すると崖の上からするすると縄が下ろされる。馬岱が崖下の魏兵たちに「指揮官が死んだ今ここで降伏しても恥ではあるまい。縄につかまれ」と言うと魏兵たちは我先にと縄につかまり崖を登りだす。

しかし縄を伝って命拾いした者は半数にも満たなかった。三万近い魏兵が岩と火の犠牲となった。

 

姜維孔明と対面し「右将軍、申し訳ありません」と謝罪した、「この度の計は曹真を捕えるために私が考え出した大掛かりな計。しかし曹真を討てなかったことでこの計が成功したとはいえませぬ」

これに孔明は「そうだな。惜しむらくは大計を用いすぎた。よく覚えておくが良い。大計を用いるを悪いとは言わぬが少し用いて大なる戦果を上げることが策略の妙味なのじゃ」

「はい、これからは心いたします」

ふうむ。姜維の策だったのか。

しかしこれこの前に孔明があまりに大げさな作戦をやって失敗続けていたので自分だけが巧い策略をやったらいけないとあえて失敗したと言うのは考えすぎだろうかw

姜維まじで若いのにこの頭脳と行動力と同時に武闘派でもあるとかしかも可愛い顔に母親思いで有名って出来すぎだよねえ。

いやまんまと大好きです。

 

曹真の先鋒隊が壊滅したことは風の速さで洛陽に伝わった。

「聞いたか。三万近い兵士が死んだというではないか」「かろうじて生き残った者もすべて降伏したそうな」「五万の兵をいとも簡単に打ち破るとは孔明とは恐ろしい男じゃ」「まったく蜀というより孔明の存在が恐ろしい」

そして曹真の連戦連敗によって長安の不安。曹真と孔明では違いすぎる。となると孔明と戦えるのは仲達しかいない、と人の噂は流れていった。

 

しかし魏帝曹叡にとって曹真は我が一族であり名誉を汚れさせたくない、がはたして守り切れるのだろうかと心配が尽きない。

これに仲達は「それほど心配あそばされますな」と声をかける。

「蜀軍の欠陥は兵糧にあります」

そのために以前は街亭、今度は陳倉の道を選んだ。しかし仲達が陳倉に堅固な城を築かせ郝昭に守らせたために孔明は陳倉を落とせずやむなく祁山に出たのだ。

しかし他の路からでは雪も多く山嶮で兵糧輸送は難しい。おそらく蜀軍の兵糧はあと一か月くらいというのが仲達の胸算用だった。

孔明としては兵糧のある間に短期決戦を望むはず。ならばこちらは長期戦を狙う。

そして蜀軍の兵糧が尽きた時が勝負どころです。

 

曹叡は仲達がこれほど先見の明があるのになぜ自分で戦って手柄にしないのかと尋ねると仲達は呉の動きがつかめないからだと答える。

呉は蜀の動静を睨みながら動く。油断ができない。

 

曹叡はよくわかったと言って曹真に使いを出すよう韓曁を呼んだ。

 

韓曁が魏帝の命を受けて出る時に司馬懿は待ち構えていた。

司馬懿は今度の作戦が成功した場合手柄をすべて曹真殿のものにしたいと考えている、と前置きしなのでこの話はわしからではなく天子の詔として伝えて欲しいと言う。

「蜀軍が退却する時短気な人間に追わせてはならぬ。軽々しく追えば必ず孔明の計に陥る。細心の注意が必要じゃと」

韓曁は「わかりました」と旅立った。

 

韓曁は勅使として曹真に会う。

「陛下は蜀軍の挑発に乗らずひたすら守りを固めよとのお言葉にございます」と言って書状を渡す。そして仲達の指示を陛下の言葉として伝えた。

 

だが郭淮は曹真に「これは陛下の考えではなく仲達の考えでございましょう」と伝える。「蜀軍の欠陥をよく知り孔明の戦術を深く知っている者の作戦です」

 

郭淮の説明を聞いて曹真は落ち込む。洛陽にいる仲達がこれほど戦局を見通しているのにわしは現場にいて何もできずにいたと思うと、と言うのを郭淮は「それを見事に仕上げるのも重大な役目です」と励ました。(良い家来だな郭淮

曹真は「そうじゃのう」と気を取り直し王双に命を出し郭淮に蓑谷と街亭の要害を固めてくれと命じた。

それから一か月曹真の命令は守られた。いよいよ蜀軍の兵糧が尽きる頃だ。

「蜀軍が退却を始めるな」と言う曹真に孫礼が進言した「それがし祁山の路を柴に硫黄や煙硝を混ぜた車を兵糧とみせかけて運送しとうございます。蜀軍は涎のでるように欲しい兵糧を必ずや襲ってまいります。そこに火を放ち伏兵をもってかかれば大勝利では」

これを聞いた曹真は「ここまで連戦連敗。その作戦が上手くいけば孔明を捕えることもできる」と喜んだ。

 

蜀陣では孔明が諸将を集めて談義していた。

この一か月曹真は守りを固め何もしない。我が軍の兵糧が尽きるのを見越している。誰か良い案はないか。しかしさすがに誰も答えきれない。

そこに「魏軍が祁山の西へ数千台の車で食糧を運んでまいります」との報告がはいる。

ざわめく諸将の中で孔明は落ち着いて「その輸送隊の指揮をとっているのは誰か」と問うた。

「孫礼と申すものが総大将とか」

誰もその名を知らないので降伏した魏の兵が呼ばれた。

「右将軍、それだけの食糧が入れば充分に戦えますぞ」と騒ぐ諸将に応えず孔明は入ってきた元魏兵に「孫礼と申す者を知っておるか」と尋ねる。

「はい大変な豪傑にございます」とその元魏兵は答える。「かつて魏王が狩猟をされた時大きな虎が魏王に襲い掛かりましたが孫礼が馬を飛び降り様剣を抜いて斬り倒したのでございます」

孔明は元魏兵を下がらせ「これは罠じゃ」と言った。「兵糧の輸送にそれほどの豪傑をつけはしまい。わしは火攻めは得意じゃ。そのわしを火攻めにかけようとは愚かな奴よ。敵は我らが兵糧の車を襲いに出た後、この本陣を襲う気と見た」

孔明は敵の裏をかいてみせようと命じていく。

もうすっかり孔明の側にはいつも姜維がいるようになってるね。

「そなたは三千の兵を率いて魏の兵糧置き場に生き風上より火を放て決して敵の陣には入るな」

良いお返事。

馬忠張嶷。敵は車両に魏はついたなら我らが罠にかかったとみてこの陣を包囲に来るであろう。その報たちは外から敵を取り囲め。内外より挟み撃ちにすれば勝利は我らのもの」

関興張苞、その報たちは敵本陣近くにひそんでおれ。火の手が上がれば敵は陣から飛び出しここに押し寄せてくる。その間に陣を奪ってしまえ」

呉懿呉班、そち達も陣外にひそみ敵が来たならばその退路を断て」

そして「よいか、功を焦らずしっかりと役目を果たすのじゃ。ならば我が軍大勝利間違いない」

うわあ、功を焦らずに~~~

 

孫礼は偽兵糧隊を率いてほくそ笑んでいた。

と「蜀軍があわただしく動き始めました」との報告が入る。

孫礼は蜀軍が罠にかかったと曹真様にお伝えせよと命令した。「蜀軍がまもなくここを襲ってくる。我らは西の山に身を隠し蜀軍を待ち受ける。敵がこの車両を運び出そうと陣に入った時火を放つのじゃ」

 

曹真はこの報を受けて張虎・楽綝を呼んだ。「蜀軍が動き出した。祁山の西に火の手が上がった時蜀軍が我が火計にかかった時じゃ。祁山の本陣は空になっている、そこを急襲して奪い取れ」

 

馬岱は祁山の西に行き陣の風上から火を放った。

無論兵糧にはまだ誰も近づいてはいない。「車両に火がついた」の報がされ孫礼は驚く。「そんな馬鹿な」が、偽兵糧車にはすでに火が燃え広がっている。「いかん、何かの手違いじゃ。皆の者続け」しかし燃え上がる偽兵糧車を目の前にして何もできない。

その時銅鑼の音が響き渡り蜀軍がどっと押し寄せてきた。「それっ火の中に追い込め。敵は火を背にして逃げ場を失ったぞ」

孫礼は「すると火をつけたのは蜀軍か」と喚く。そこに馬岱軍も「馬忠張嶷勢にばかり手柄をさせることはないぞ」と突っ込んできた。

孫礼は「こちらからも。そうか孔明はすでにこの火計を看破していたか。引けっ血路を開いて逃げるのじゃ」

 

一方張虎楽綝には「西の山に火の手が上がりました」との報告が入る。

「よし出撃じゃ」と勇ましく陣を出た。

蜀陣に近づくとひっそりとしている「おお、曹真様の言う通り敵陣は誰もいない。それっ一気に奪い取れ」と突っ込もうとした時背後から銅鑼の音が響き蜀兵が襲い掛かってきた。

「いかん、謀られた。このままでは退路を断たれて全滅だ。引けっ」と逃げ出した。

魏陣に到着し「門を開け」と叫ぶと矢が浴びせられた。

そこには関興張苞がいて「お前たちが出陣した隙にここは我らがいただいた」

張虎楽綝は蜀陣を奪いに行って奪えず逆に自分たちの陣を奪われてしまったのだ。

「いかん本陣へ逃げよ」魏軍はすっかり大混乱となった。この作戦の失敗で魏軍の死者数は計り知れないものであった。

 

勝利を信じて本陣で待っていた曹真はずたずたになって帰ってきた各将を迎えるはめになった。

「残念ながらこの火計、孔明に見破られておりました。孔明はあちこちに兵を伏せ我らは見事裏をかかれました」

それ以後曹真は二度と打って出ようとはせずひたすら守りを固めた。

孔明は陳倉道でがんばっている魏延にあてて引き揚げる方法を書いた書状を届けさせた。それを見た側近が「なぜ魏延に引き揚げを命じるのですか」と尋ねる。

孔明は「魏延だけでなく我らも漢中に引き揚げる」と答えた。

「なぜでございます。蜀は勝いよいよ士気旺盛たろうとしている時ではございませぬか」

「さればこそ今が引き時」

(こ、こんなことできるう???)

「曹真は二度の大敗に懲りてもはや打ってでようとはすまい。そうなると我らが望む短期戦はできぬ。そのうちこちらの食糧が欠乏するのは目に見えている」

なおももうしばらくは頑張れるだろうという側近に

だが今度の大敗を洛陽が聞けば必ずや曹真を助けようと大軍を寄こすだろう。そうなれば敵は運輸の路を持つ新手の大軍。それに比べ我が軍は食糧の欠乏。いつまで勝てると思う。曹真はまさかわしが退却するとは思うまい。ゆえに退却がやりやすいのじゃ」

「しかし諸将は不満をもうしませぬか」

「勝って去るのである。退くとは戦いの中のこと。去るとは作戦の行動に他ならない。そちが不満を口にする将には説いて聞かせよ」

側近は承知した。

 

その頃曹真のもとへ陛下の命を受けて張郃が援軍として現れた。司馬懿仲達の計らいで来たと言う。

「洛陽では当地の敗戦を心痛いたしております」という張郃に曹真はうなだれる。「陛下に対し面目ない」

張郃は「ところで孫礼将軍の計略は失敗したとのこと。曹真様は敵の様子を探られましたか」と聞いてくる。

曹真は「いやこの度の敗戦依頼守りを固めひとりも外へは出しておらぬ」

仲達様が申されるには「我が軍が勝てば敵はやすやす退却せぬであろうがもし我が軍が敗れた時は敵はすぐにも退却するに違いない。これこそ兵法の極意である」と。

 

曹真は「勝てば退却する」と驚く。

張郃は「すぐに間者を放ってお調べになったほうがよかろうと」

曹真は間者を放つ。

返事は「蜀陣には誰もいない」だった。

張郃は「大都督、それがしに追撃のお許しを。今を逃して勝利はありませぬ」

曹真は力なく「おお」というばかり。張郃は脱兎のごとく追撃を開始した。

が時すでに遅し。張郃は敵影を見ることもなく引き揚げていった。

うわあメンタルやられた。曹真だいじょうぶか。

いやだいじょうぶではない。(反語)

気の毒だなあ。

無理だったんだ。あんなのと戦うのは。あなたが悪いわけじゃない。

曹真・・・お大事に・・・