ガエル記

散策

『殷周伝説』太公望伝奇 その3 横山光輝

これは四巻の表紙です。記事は三巻の終わりほどからです。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

崇侯虎を除く三大諸侯は紂王に対し上申書を出すが紂王はそれを読む気などはなく三人を謀叛者として処刑を命じた。

これに反論された紂王は仕方なく上申書を読むがますます怒り狂ってしまう。だがここでも黄飛虎がとりなしをすると紂王は姫昌だけはおとなしく口を挟まなかったという理由で幽閉となり他の二人は残酷に処刑された。

崇侯虎のみは忠臣ということで無罪となる。

東伯侯・南伯侯の後継者たちは反旗を翻して出陣した。西伯侯は占いのとおりとなった。

 

ここでみんな大好きあの哪吒が登場する(まあ私が好きなのですが)

封神演義』とは違い父親李靖は息子の誕生を喜び生まれたばかりで自分に笑いかける赤子を可愛く思う。

そこへひとりの道士が現れる。太乙真人である。

こういう人ではなく

こういう人である。抱っこしてるのが哪吒である。七年後に師弟関係となる予言をする。

そしてそれまで関から外に出さないで育てるように忠告した。

哪吒はすくすくと自由奔放で優れた運動能力を持つ子どもに成長していく。

だが哪吒が七歳になった時彼はわがままを言って外へ出てしまう。太乙が言った満七歳にはまだ時が足りなかった。

そして聖なる岩の上で小便をしたのを咎められふたりの男を殺してしまうのだ。

しかも男たちの父親は哪吒の父の義兄弟だったためにより困惑する状況になった。李靖は仕方なく哪吒の名付け親太乙真人に相談した。

 

太乙は「哪吒を死んだことにするために同じ年ごろの死んだ子を探して立派な葬式をあげて天罰で病死したとふれ回りなさい。そして哪吒をこっそりと崑崙山脈まで連れてくるがいい」と答えた。

 

封神演義』では(ここは小説の方を覚えているが)李靖が哪吒を殺してしまうので母親が泣く泣く神様にお祈りすると蓮の体を持って生まれ変わる、というファンタジックな話になっていましたがこういうことでしたか。

 

李靖は太乙真人の言葉通りに従い義兄弟の怒りも静まった後太乙真人の崑崙山に訪れる。

そこでは息子・哪吒がのびのびと修行をしていた。

そしてここであの太公望呂尚も修行をしていたのである。

さらに李靖は太乙真人に天文を見せられ殷が滅ぶ前兆だと教えられる。新しい国を作るために親子で働きなされ、と太乙は告げるのだった。

 

太乙真人は呂尚を呼び下山してここで学んだことを天下のために役立てよと命じた。

呂尚は驚いた。かれはすでに七十二歳になっていてそんな大役はできないと答えたのだ。しかし太乙真人は「そなたはここで鍛えたおかげで体力は四十代。四十年間学んだことを世の中のために役立てぬ気か」と諭す。「今天下は混乱している。そなたは自分の目でそれを確かめ国を治めるにふさわしい人物を見つけ助けるのだ」

 

こうして呂尚は崑崙山を降りた。

(そうか。太公望の話もこういう話だとすれば納得できますなあ。しかしなんとなくちゃらんぽらんなのはどの話でも一緒だ)

四十年間も山の上にいた呂尚はやむなく知っている宋異人の屋敷を訪ねていった。

 

宋異人は死んだものと思っていた親友が生きていたのを喜び歓迎した上「世話をしてくれる嫁が必要だろう」として親戚から嫁まで探してきてくれた。しかも面倒は自分がみるという。

呂尚はこれを受けてのんびり暮らすつもりだったが探してきてくれた嫁がぶらぶらしている呂尚に不満を持ち働いてください、と𠮟りつけた。

呂尚は仕方なく竹ざるを作ったり小麦粉を作ったり牛馬を市場で売ったりしたがまったく金儲けができず妻から罵られる。

まあ若い奥さんではあるのだがw

呂尚が邪気払いができるのを知って宋異人は彼を占い師にした(ほんと宋異人は良い人だ。でも嫁を探してくれない方がよかったw)

この職業は呂尚にぴたりとはまったがなんとこの占いに妲己の仲間である琵琶精がいたずらに並んで本性を呂尚に見破られてしまうのだ。

 

呂尚がいきなり琵琶精を殴り殺したせいで町の人々は呂尚を頭がおかしくなったと騒ぎ出す。

この騒ぎを副宰相の比干が聞きつけ呂尚は捕らえられるが彼は琵琶精の手をつかんだまま紂王のもとへと連行された。

 

ここから太公望と紂王と妲己が相まみえることとなる。

呂尚は琵琶精の手脚に護符を貼りつけ逃げ出せないようにして積み上げた柴の上で焚き上げさせる。

二時間焚いても琵琶精のからだはまったく焼けなかった。

さらに一時間焚くと琵琶精はむくりと起き上がり呂尚を罵った。呂尚が霊気をほとばしらせると琵琶精の上に落雷したのである。

 

呂尚は力尽きて倒れ琵琶精は石となった。こうして呂尚の無実は証明されたのだ。

 

妲己は石となった琵琶精にまだ生気が宿っているのを感じ必ずもとに戻し呂尚に復讐すると誓う。

そのためにも呂尚を近くに置きたいと思い紂王に呂尚を召し上げるように願った。

 

突如呂尚はなにもできない老人から宮廷に住む下大夫と出世した。

呂尚の口うるさい妻は大喜びとなり宋異人もこれを祝ってくれた。(ほんとに良い人なんだよ)

 

妲己は琵琶精を蘇らせるための豪華な宮殿の設計図を描かせ琵琶精を置く空洞を作った。

妲己は紂王に玉石だけで作った高い御殿を作れば天女が舞い降りて不老長寿の薬も与えてくれるでしょう、と進言する。そしてその指揮を呂尚にして欠点を見つけ出し炮烙の刑にするつもりだった。

 

呂尚はその設計図を見て完成には三十五年かかり妲己が求めた空洞を無くさねばならないと言う。ぎょっとした妲己呂尚を𠮟りつける。

 

退出した呂尚は玉石だけで巨大な宮殿を作るために人民がどれほど苦しむかを思い、師・太乙真人が言った世直しとはこういうことかと気づいた。そして妲己のいう女に不信を持った。

 

一方あきらめきれない妲己は建設指揮を崇侯虎に任せるようにした。

崇侯虎は数年で鹿台を仕上げるというのを聞き紂王と妲己は喜ぶ。そして大宴会を開くが黄貴妃は出席せず出席した姜皇后の侍女たちは口を嚙み涙を流した。

これに気づいた妲己は憤り紂王に訴える。

七十数名の姜皇后の侍女たちは捕らえられまたもや妲己が考えた蟇盆(たいぼん)の刑に処されてしまう。

女性たちの悲鳴を聞いた比干と呂尚後宮へ赴く。

そして恐ろしい刑罰を見て諫言をした。

が紂王と妲己はこれに罵声を浴びせ二人を捕えよと命じた。

呂尚は呆れ逃げ出すが比干は覚悟の上だととどまった。

さすが修行をした太公望

 

そして比干は自ら蟇盆に身を投じた。

 

官職にとどまるか野にくだるかの「出処進退」は比干が死んだ時に生まれた士道観である。親に過ちがあっても骨肉の情でつながる子は親についていかねばならない。

しかし主君と臣下は義によってむすばれている。主君が間違っていれば臣下は主君を見捨てることが許されるというものである。後世に人々はこの考えを一つの基準として忠不忠を判断した。

 

逃げた呂尚は宋異人と妻の元へ戻り事情を話して妻と離縁し西岐へ向かった。

宋異人は「呂尚が大変な大物のように思える。大きすぎてまわりの者には全体が見えないのじゃ」と言った。(宋異人さんはまじで良い人なんじゃ)

 

崇侯虎によって「鹿台」の造営が始まった。国中から玉石が徴収され人夫が動員された。

呂尚が三十五年かかるというのをニ三年で建てるというその労働は過酷だった。

崇侯虎・費仲らは玉石をピンハネして私腹を肥やした。

 

紂王の享楽はとどまることを知らず「酒池肉林」を楽しんだ。

 

遠地に幽閉されていた姫昌には彼を尊敬し差し入れをする人物もいた。

姫昌は帝都の様子を訊ねた。紂王はますます悪くなっていき比干が処刑されたという答えだった。

姫昌の幽閉の七年はそろそろだった。

姫昌は占いの道具を貸してもらい占った。

出たのは「幽閉は解かれるが息子の伯邑考の不運は消えていない」というものだった。

 

これまで知ったこの世界観が本作で謎解きされるようで面白い。

どれが正解というわけではないのだろうが横山作品になるとなるほどと納得させられる。