ガエル記

散策

『三国志』再び 横山光輝 十巻

張飛よ。しかしこの時が伏線ともなるのだ。

悲しいなあ。

 


ネタバレしますのでご注意を。

 

この巻もとても辛い巻だ(おおよそどれもツライ巻)が演出としてとてもうまい。

「酒を飲むんじゃないぞ」と玄徳に釘を刺されて留守番を任されたのに(しかも自分からすると言い出したヤツ)あっという間に酒を飲み始めしかも酔っ払って文官をぶん殴りそのために呂布に告げ口されて玄徳の留守に張飛達城兵が酔いつぶれているとばらされてしまう。

ここで面白いのはその呂布も「玄徳は俺を優しく迎え入れてくれた男だ」と言いながらもそれを裏切り城と領土を奪ってしまおうと決意してしまうというふたりの豪傑の心の弱さを並べて描いているところだろう。

 

呂布張飛という稀代の戦士がちょっとした誘惑の言葉にうっかり負けてしまう、という巻なのである。

 

その結果張飛は玄徳アニキが勅命を受けての留守番を果たせず憎々しく思っていた呂布に城を奪われ玄徳の母と奥方も城の中に置き去りにしてせめて兄貴たちに謝り自害しようと考えた。

徐州の城で留守番をしているはずの張飛が戦場に現れ驚く玄徳と関羽

わけを話して死のうとする末弟をふたりの兄貴は留める。

「もし今日の事を恥と思うなら生きてその恥をそそげ」

張飛は泣き崩れる。

 

その後呂布軍が袁術にそそのかされ玄徳を討たんと向かってくる。玄徳は「蛟竜が淵に潜むのは時期を待ち点に昇らんがため」とつぶやいて逃げ延びる決意をする。

ところが結局呂布袁術に背を向けられてやむなく「玄徳を味方にするしかない」ことになってしまうのだ。

玄徳の城と領地を奪ったばかりの呂布が手のひらを反して「仲間になろう」と言い出す。

しかし玄徳もまたそれを受け入れるしかなす術がなかったのだ。

 

この経緯はそもそも曹操の(部下の)計略だった。

「二虎競食の計」「駆虎吞狼の計」として呂布と玄徳の仲を裂き互いを食い合わせ己は戦わずに邪魔なふたりを除いてしまおうという計略にはまった呂布と玄徳はなぜか再びくっついてしまう、という奇妙な結果になったのだ。

これも呂布の軽々しさと玄徳の人の好さの表れにも思える。

 

 

ここから孫策の話に移る。

孫堅を落石によって失い孫家一門は今や落ちぶれていた。息子の孫策袁術食客に甘んじる身の上でしかなかった。

しかし孫家を再建したいという念願は消えてはいなかった。孫策はただ一つの持ち物である「玉璽」を袁術に渡すことで兵三千と馬五百頭を借りたのだ。

さらに江東の二賢者を味方にする。

まず孫策は叔父を丹陽の地から追い払った劉繇を攻める。

若干二十一歳の孫策の初戦である。敵は牛渚の要塞に立てこもり圧倒的な力を持っていた。孫策は不利だった。

が何故かこの時敵の中で多数の謀反人が出て要塞内部で殺し合いが起き城門が開かれこの機を逃さず孫策軍はなだれ込んだのだ。

孫策の勝利となった。

そのきっかけとなった要塞内の反乱は地元の湖賊らの仕業だった。彼らはかつて孫堅将軍に縮み上がっていたという。その息子の孫策が軍船を引き連れてくると聞きもう賊はやってられないと決心して孫策の家来となり真人間になろうと話し合ったというのだ。

そこで湖賊の者たちが要塞内部に入り込みあちこちに火をつけて手柄を立てそれを手土産にして孫策の前に現れた、という次第だった。

孫策は父孫堅の威光を感じ彼らを家来とした。

 

戦地は神亭山へと移る。

そこで孫策はひとり山頂で敵陣形を偵察した。それを聞いて飛び出していったのが劉繇の家来太史慈だった。

孫策太史慈の一騎打ちが始まる。