ガエル記

散策

「100分de萩尾望都」その4『ポーの一族』

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最終項『ポーの一族』です。夢枕獏氏が論じられていました。考察だけでなくなにより夢枕氏の『ポーの一族』そして萩尾望都愛に感動してしまいました。

氏が何度も萩尾氏に『ポー』の再開をお願いされたことでそれが叶ったのであるなら夢枕氏にどれほど感謝しても足りませんね。

 

ところで番組内で夢枕氏が「成長しない14歳の吸血鬼」というエドガーの設定を「世界の誰も考えつかなかったことを萩尾さんが成し得た」と言われています。

夢枕氏はわかって言われていたかもしれませんが萩尾氏はレイ・ブラッドベリから構想を得ているはずです。過去言われていたのではないかとも思います。

とはいえブラッドベリの短編は「子供のままで成長しないために旅をする少年の話」というだけで吸血鬼ではありませんからやはり夢枕氏が言う通り「成長しない14歳の吸血鬼」は萩尾望都だけが考えついたことに間違いありません。

 

そして『トーマの心臓』がSFである、と指摘されたように『ポーの一族』はよりSFであることは確かです。もちろんこの物語は後年『バルバラ異界』に形を変えて表現されていったのですね。

番組内でカズレーザーさんが「『ポーの一族』は表面的な不老不死だけど『バルバラ異界』は内面の不死になっている」と言われたのが感激でした。

マンガ家という職業は若い時に最高傑作を発表して衰えていくことが多いのですが萩尾氏は成長し続けた稀有な存在だと思っています。

年を取っていくとどうしても単純な構成になりがちなのですが(やはり込み入ったことが考えられなくなってしまうのでしょうか)萩尾氏はより複雑になっていくという不思議な人です。

現在連載されている『ポーの一族』シリーズもとってつけたような単なる再開ではなく設定と歴史を深く考察したものになっています。

こうした再開も多くは「以前の登場人物を使いまわす」のが定番なのに萩尾氏は新しいキャラクターと新しい展開を繰り広げていくのです。

これも凄まじい才能なのではないでしょうか。

 

 

さて本来の『ポーの一族』に戻ります。

ところで私はそれほどマンガを読み込んでいた子供ではありませんでした。

小学生時代、家ではマンガを買ってもらえなかったのもあって他の場所で機会があれば読む程度でなぜか家では図書館で借りる小説で満足していたのでした。

中学生になってからかなる前だったのか。

偶然『ポーの一族』を読んでしまったのです。読んだのはちょうどメリーベルが消滅してしまう回だったのですがその時から私は世界が変わってしまいました。

(つまり雑誌で読んだのですがとりためて置かれていたように思うので明確な年月にできない)

それから私の読書は能動的にマンガが取り入れられていきました。それでも小説のほうが面白かったのですが萩尾望都作品だけは特別な価値があったのでした。

 

なので私にとって萩尾望都は人生を変えてしまった人になるのです。

そしてその作品は『ポーの一族』でありキャラクターはエドガーとメリーベルだったのでした。

今でもメリーベルの「エドガー、エドガー」という叫び声が聞こえるような気がします。

 

そうです。萩尾望都はマンガなのに私はいつも彼女の作品を音声と香りとアニメーションで観ています。

一度映画のワンシーンが頭に浮かんでなんであったか思い出そうとしたのですがそれが萩尾作品だったと気づいた時自分だけで驚きました。

なぜならその場面は動いていたからです。

マンガを自分の頭の中で動かして覚えていたので映画だと思い込んでいました。しかも実写の。

萩尾望都作品を読んでいると風が動いていますし、雨の匂いと音がします。

今まで聞いたはずのない声が聞こえます。

彼女の作品がアニメにならないことがものすごく悔しいのですがアニメになっても萩尾マンガほど動くことはないのもわかっています。

 

なぜそんなことができるのか、なぜ神はそんな才能を与えたのか。謎です。

そしてその才能を日本の人々はあまり気づかずにいるのか、なぜもっと騒がないのか、なぜ様々な映画やアニメにしないのか、不思議でなりません。

 

今からでも遅くない。しましょうよ。