番組を観る前『バルバラ異界』が取り上げられないのではないかと思って「これが最高傑作なのに」と思わずツイッターに書いてしまったのですが中条氏が選んでくださっていてうれしい限りでした。しかも私と同じように「これが最高傑作ではないか」とも言われていて喜びひとしおでした。
ネタバレもしますのでご注意を。
既に書いたことですが番組内で皆さんが言われている通りこの作品は一筋縄ではいきませんね。私は単行本になってまとまった形を初めて読んだのですがさすがに一度目は何が描かれているのか把握できず「???」「よくわからない・・・」となってしまいました。
繰り返し読むことで少しずつ意味と物語がつかめてきた、という感じです。
私はなんといっても主人公・渡会時夫のキャラクターが際立っていると思っています。
キリヤはいかにも萩尾作品の主人公になれそうな繊細できかん気の可愛らしい少年ですが『いかにも』すぎるキャラとして造形されていると思えます。
渡会時夫キャラは萩尾氏が後年作り上げた「おたおた男性キャラ」です。
後に『王妃マルゴ』のシャルルにそれは受け継がれていると感じますがこの「おたおた怯えうろたえまくる男」というキャラ造形は素晴らしい(なんか変なほめ方ではありますが)のではないでしょうか。
萩尾キャラと言えば『ポー』のエドガーの冷たい青い目だとか『トーマ』の知的なユーリとか『スター・レッド』のセイの情熱的な赤い目だとか『メッシュ』のあまりにも美しいメッシュだとかクールで物怖じしない主人公が魅力を発してきましたが『バルバラ異界』の渡会はそうしたそれまでのキャラをぶち壊してしまう衝撃的な造形なのです。
少年ではなく「おっさん」でクールという言葉がまったく当てはまらない、いつも「僕はどうしたらいいんだろう、僕は間違っていたんだろうか」とうじうじ悩み迷い続けているような男性です。
妻だった女性からも見限られた感がある。彼女が選んだのはそのいかにも素敵な男性というエズラだったわけです。(美形で知的でクールな)
萩尾氏だけでなく渡会時夫のような主人公キャラは案外マンガ界ではいないのではないでしょうか。
マンガ界の主人公は良くも悪くも強いキャラにしがちです。神のような、とか悪魔のようなとか。
萩尾氏自身もそうだったわけですがここにきて萩尾氏は「いじいじうじうじくよくよ男」というとんでもないキャラを投入してきたのです。
渡会氏は元妻も離れていた息子キリヤにも強い愛情を持っていながら上手く関係を結べないままですがそれでもなんとかできないか、と苦悩します。
特にキリヤには執着ともいえる愛情を持ち続けますがこれも今までにはない感情の持ち主に思えます。
もしかしたらメリーベルを思うエドガーのようなものかもしれませんが後になるとエドガーはあまりメリーベルに触れません。どちらかといえばエドガーを思うオービンの心に近いでしょうか。
ちょっとしばらく異界に行っていましたw
内容が理解できるようになったら異界にすぐ入ってしまいます。
それにしても・・・この作品は当時「狂牛病」が話題になったところから始まったといいます。
現在脅威となっている「新型コロナウィルス」は萩尾望都の思考に影響を与えたに違いありません。
貪欲な読者は新しい作品が生まれるのではないかと期待してしまいます。
以下は過去記事です。
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