かなり前から観たいと思いながらなかなか機会がなくやっとアマゾンプライムで観ることができました。
熊井監督作品は幾つか観ているのもあって期待はしていましたが想像以上に恐ろしい迫力の映画でした。
事件の推理などはできようもありませんが昭和23年(1948年)1月という戦争が終わってまだ2年半ほどしか経っていない時期だからこそ起きたそして謎めいた事件だったのでしょう。
謎めくといっても犯人は逮捕されていて死刑判決を受けたものの処刑されず1987年(昭和62年)に95歳で獄死しているわけです。
とはいえこの映画は1964年つまり事件後16年に公開されたものでありこうした問いかけが他にも多々あったにも関わらず日本の裁判は「疑わしきは罰せず」ではなかった(現在も?)ことがわかります。
ましてや「一人の罪なき者を罰するより10人の罪人が免れたほうがよい」という考え方などはこの国には存在しないのかもしれません。
「怪しいのは確かだ」と考えるのか「絶対とは言えないのだから」と考えるのかです。
以下ネタバレしますのでご注意を。
衝撃はすぐに訪れました。
戦後の光景を説明的に映した直後事件が起きた帝国銀行椎名町支店(現在の三井住友銀行だが支店は現存せず)の裏門から入る犯人の背後が映されます。
犯人の描写は常に背後に徹していて銀行員たちはその顔を見て画面側に向けているので鑑賞者が犯人の目になっているような奇妙な感覚になります。
この犯人が銀行に入り込んで行員たちに説明をし青酸カリを飲ませる状況が淡々と丁寧に映されていてまるでその場にいるような恐ろしさを感じました。
凶悪犯の顔と表情がわからないまま犯行を観るのはぞっとするものです。
ちょっと変なところに引っかかってしまったのですが最初にこの支店でその日5人が欠勤している、という説明が入ります。
小さな支店で5人に欠勤者というのは随分多いように思えてしまったのですがこれも戦後間もない頃の現象なのでしょうか。思い過ごしかもしれませんが。
とにかくこの恐ろしい犯行現場だけでも観る価値があります。
そこだけ見て止める人はいないでしょうが。
それにしてもこの映画の空気感はなんでしょうか。
戦後20年近く経っているとはいえまだその記憶は存在してはいるのでしょう。その頃の暮らしぶりの貧しさが生々しく描かれています。
さらに55年経ってしまった今ではこの雰囲気を出すのはもうできないのかもしれません。
自動車の中で火鉢を使っているのも驚きでした。こういう場面は今まで観たのか覚えがありません。
唐突に「インドのガンジーが暗殺された」話題も振られ慌てて検索したら確かにガンジーはこの時期に逝去されていました。
まったく歴史に無頓着なのを再認識させられました。
昔の映画は生活の生々しさが伝わってきます。特に夏の暑さ描写はにおうようです。
新聞社編集室に氷の塊を置くことで涼を取っているのも驚きでした。
ともかく事件については迷路としか言えません。
平沢役を演じた信欣三氏がなんとも独特の風貌で実際の人物のようにさえ思えてますます迷路に入ったような気持ちになってしまいます。台詞(実際の証言に基づいたものでしょうか)も奇妙で何もかもわからなくなってしまうのです。
しかしこうした映画は日本ではなくなってしまいました。
ドキュメンタリーは少数ながら作られているようですが映画よりも目にする機会が減ってしまうのです。
ドキュメンタリー作品でももっと観られる媒体が増えれば、と願うしかありません。
これからはこうした歴史的な事件を映画化ドラマ化することがより意義があるのではないかと思うのですが。