ガエル記

散策

「サンカの民と被差別の世界」五木寛之

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落ち着いた語り口がとても読み心地の良い一冊でした。五木寛之氏の文章はいつもそうですが。

「サンカ(山家・山窩)」裏表紙に五木氏の言葉が載っています。

「私は、隠された歴史のひだを見なければ、“日本人のこころ”を考えたことにはならないと思っています」

現状、五木氏のこの言葉の逆「歴史のひだを見ないようにする」人々が横行し見ようとする者を「反日」と呼び誹る風潮が蔓延っているように思えます。

が、古来から日本では(そしてたぶん世界中の国々で)定着して生きる人々の間に漂泊して生きる人々が存在しその人々が体の中の血液のような働きをしてきたことが本著に記されていて興味深く読みました。

「サンカ」というものの定義はない、という話が出てきます。またその名前も土地土地で異なり様々な呼び方があるわけです。

つまりは「よくわからないもの」なのであり、定着して生活する「一般の人々」から見れば「よくわからないもの」になり「一般の人々」にとってそれは差別すべき対象となり時に畏敬の念を持つ時があっても「それは異世界の者だ」と差別し侮蔑することで納得したのでしょう。もしそうしなければ定着して生活する者がいなくなってしまうという不安が起きてくるからでしょう。

 

本著に「弾左衛門」という賤民の頭、という人物というか制度が出てきます。余談になりますが、私が大好きで読んでいた(ドラマを見ていた)中国・武侠小説作家・金庸が描いた人物に洪七公がいます。

洪七公は丐幇の第18代幇主なのですが、丐幇というのは乞食によって構成される巨大組織であり洪七公は彼らを取りまとめる優れた人物なのでありまして彼はその地位を次に黄蓉という美少女に託します。

金庸小説の面白さはこうしたマージナルマンを主人公或いはそれに次ぐキャラクターとして活躍させていることだと思います。

 

日本で言えば「仮面ライダー」のようなマンガ・ドラマがそうしたイメージでもあるでしょうか。「甲殻機動隊」もそうでしょう。

つまり表向きの政府ではなく裏稼業という組織がそうなのだと思います。

漫画や小説ドラマなどを見て表向きの組織の物語なのか(普通の高校や中学の話、警察や普通の会社・店の話など)陰の世界を描いたものなのかを考えてみるのも面白いでしょう。

 

裏で生きる人々には表に生きる人々にはない才能があり魅力がありますが、表向きの社会はこれを良しとするわけにはいかず差別することでこの世のバランスは成り立ってきた。

そのことを知ろうとせずただ差別し侮蔑することは社会を破壊してしまうことに繋がるのではないでしょうか。