ガエル記

散策

どろろ」新旧比較してみる その5

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どろろ」ざんまい続きます。

さて「ばんもんの巻」に続く「白面不動の巻」は新旧同じ順番になっています。1969年版で12・13話の二回。2019年版では13話めの一回です。

 

順番と回は重なっていますが内容と受ける印象はかなり変わっていて私としては新版で最もがっかりした回になっていました。というのはこの回、私は「どろろ」の中で最も観たいと期待していた回のひとつだったからです。

この回だけでも感動の一話として語られるべき内容だとずっと記憶していたものなのに何故まったく違う内容になってしまったのか、残念でなりません。

 

マンガ・旧版ではこの回どろろと百鬼丸がケンカして(昔の百鬼丸は感情豊かです)途中までどろろ一人が化け物体験する話になります。

ここでどろろは「おっかちゃんそっくり」の女性に出会いすっかり幼児返りしてしまいます。この「おっかちゃんそっくり」の女性は「白面不動」という妖怪に人間の「顔」を奪うための手先となって動かされていたのですが甘えてくるどろろに自分も母親のような心が生まれてしまう、という設定になっています。

ここまでの話似てはいますが「母親の心が生まれてしまった」という部分は昔ほど感じられませんでした。

そして百鬼丸が一緒にいるためにどろろが自分の心をさらけ出してしまう、という事ができないのですね。人に見せられない恥ずかしい部分をおっかちゃんだけには許してしまう、という展開が出せないのです。

妖怪の手先で人間ではない操り人形でしかなかった「なにか」が赤ちゃんの様などろろの可愛さに触れて「どろろという子供を守ってやりたい」という心を持ってしまう、という場面を観たさにこの回を観ていたのですが物語がまったく違う運びになってしまっていたのです。

新版ではこの妖怪の手先が殺した旅人の顔がどうしても気に入らず最も良い顔をした百鬼丸の顔に目をつける、という設定になっていたのですが、私にはこの考え方が「どろろ」という物語として必要なのか、わかりません。

そしてそのことが物語に上手く作用しているとも思えないのです。

逆にマンガ・旧版での「白面不動の巻」は「どろろ」の中でも最も重要な回であると思えます。妖怪・人間でないもの、であっても「この子を守ってやりたい」という愛情を持った時に「それ」は妖怪ではなく人間になってしまう、ということですね。(まあ、人間より妖怪のほうが愛情があるかもよとかの話は別として)「おっかちゃん」と言われて愛されたことで自分も同じように愛情を持ってしまう、マンガ・旧版で感動的に描かれていたこの題材が新版では強く感じられなかったのは白面不動による解説「女!われを裏切る気だな」が省かれていたせいでしょう。

新版では白面不動は鬼神ではなくこの女は仏像の顔を何度も彫ろうとして果たせず死んでしまった仏師の怨念として描いています。

百鬼丸の失われた体の部分が元は48だったのが減ってしまったための空欄のような一話と言っていいのでしょうか、それでも昔のままではやれなかったのか、と悔やまれてしまうのです。現在では母親の心が宿る、という話は成り立たないのか?そんなことはない、と思うのですけどねえ。

 

と書いて来て思ったのは「どろろ」という話はどろろによって大好きなおっかちゃんが語られ、百鬼丸によって大好きなパパが語られている、ということです。

といってもこれも昔版での話で新版では百鬼丸を育てた寿海は百鬼丸に「おっかちゃん」と呼ばれてしまうので新版に「大好きな父親」は登場していないことになってしまいます。

 

どろろ」新版の改変は現在に「どろろ」を復活させるために様々な新しい解釈と説明があり他のリメイクと比べとても面白く有意義だと思っていますが、「白面不動の巻」は失敗だったのではないかと思っています。

しかしよりによって名作回で失敗しなくてもなあ・・・。

 

そして新版の「白面不動」は早足で次のエピソードにまで入っています。なぜか急にどろろと百鬼丸が温泉にはいるという一種のサービス展開?なのですがそこに至るまでと入ってからも奇妙なほどセリフの説明が多くて違和感があります。

テレビアニメの脚本というものがどのくらい内容に責任があるのか、私は知らないしこれまであまり脚本を気にしたことがなかったのですが初めて脚本家の名前を見てしまいました。

「白面不動の巻」は村越繁、という方が書かれているのですね。これまでは「無惨帳の巻」「絡新婦の巻 」となんとなく自分としては微妙な回だったことで変な納得をしました。

さて次は新版で私がダビングし損ねてしまった14話「鯖目の巻」です。でも大丈夫。アマゾンプライムこのために加入しました。いやあ便利だなあ。