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プロフェッショナル選「宮崎駿スペシャル “風立ちぬ”1000日の記録」

プロフェッショナル選「宮崎駿スペシャル “風立ちぬ”1000日の記録」を観ました。

風立ちぬ』は以前何回か鑑賞しておりいつかは忘れましたがブログ記事を書いたりもしたと思います。その時ははて何と書いたのでしょうか。「面白かった」と書いたのではと思いますが、今日この番組を観て『風立ちぬ』は酷い戦争賛歌アニメであるし、宮崎駿は卑怯な人だと確認しました。

 

風立ちぬ』の主人公堀越二郎ゼロ戦の設計をした人物です。そのため「戦争における人殺しの機械」を作った人物を主人公にするのは戦争を推奨することになるのではないかと公開当時話題にもなりました。私はその上でもよくできたアニメ作品だと思っていたのですがまったく浅はかな考え方だったのです。

この番組の中では何度も繰り返し「なぜこの題材を選んだのか」「二郎はどうしてゼロ戦を作ったのか」という答えを模索しています。つまりなぜ「宮崎駿は戦争兵器を賛美しているのではないか」という疑惑を打ち消すための答えを探しているのですがどんな逃げ口上を考え出してもゼロ戦は人殺しのための兵器であり、その飛行機のために敵だけでなく同胞も死んだわけです。

「妻からどうして戦争アニメを作るの?って聞かれるのに答えなきゃいけないんだよ」と宮崎氏は笑っていました。「トトロみたいなのにすればいいじゃない、って言われてもねえ」

どうして妻の大事な問いかけと説得を彼は聞かず笑い飛ばしているのでしょうか。奥様の問いかけをくだらぬことと思ったのでしょうか。とても大切な言葉だと気づかなかったのでしょうか。

宮崎氏は何とかして誤魔化そうとしていますが判らないわけがありません。彼は戦争が大好きで人殺しの兵器が大好きでどうしてもどうしてもそれを描かずにはいられなかったのです。奥様や周囲の人たちから反対されても笑って誤魔化してしまうほどその欲望から逃れられなかったのだ、と何故認めてしまわないのでしょうか。

公開当時百田尚樹氏の『永遠のゼロ』も映画化されていて互いに右翼的だと罵り合っていたのを思い出します。

私は当時百田氏の事をよく知っていなかったのでその小説も映画も観ました。今では百田氏の人柄を知って嫌っていますがそれら作品だけを見比べて言えば『永遠のゼロ』のほうが単純なヒロイズムものなので納得もできるのです。その時も宮崎氏は百田氏の右翼性と自分の『風立ちぬ』は違うと弁明されていましたが、私は好き嫌いは置いとくとすれば百田氏『永遠のゼロ』よりも『風立ちぬ』の戦争への意識がはるかに悪質だと思っています。その上での映画作品という覚悟の上ならわかりますが、なんとかして逃げ口実を作ろうとしている本番組の意義はぞっとするものがありました。

 

どんなに逃げようとしてもゼロ戦は兵器でありそれを作った人間は人殺しの道具を作った人間であるのです。

彼はむしろナチスアイヒマンのようにクソ真面目に設計に頑張ったのです。飛行時間を長くするために骨格に穴をあけ機体を薄くしたために人命は危険にさらされました。

機能優先で人命を犠牲にする。まったく日本人らしい気質といえばそれまでです。彼はまた現在のブラック企業を作り出した日本人のようでもあります。少しでも仕事の能率を上げようとして工夫に工夫を重ねブラック企業は人々を死に追いやり堀越二郎ゼロ戦から防御力を奪って乗組員を死に近づけたということです。

 

そんなアニメ映画を作ったのなら覚悟は決めなければならない。宮崎氏はアニメ以外でも戦闘機の漫画を描くほど好きなのだし逃げ口上と理由を必死で考えるのはあまりにもかっこ悪いではありませんか。

 

この番組はいったい宮崎氏を貶めるために作ったのでしょうか。

彼はいつも仕事の仲間を見下げるように怒鳴り散らしています。スタッフに「これからは今までのような女の子の生き方みたいな話を作っている場合じゃない」などとも言っていました。どうやら自分の作り出したヒロインの作品は不満のようです。男が主人公でなければ意味はないそうです。

また『風立ちぬ』では堀越二郎の妻に早死にをさせました。実際の彼の妻はそうではなかったようですから宮崎駿氏は「妻は早死にしたほうがいいなー」と考えているように思えます。もしそうでないのなら何故現実でそうじゃない妻を早く病死させたのでしょう?

風立ちぬ』はこれまでと違い宮崎駿の欲望「大好きな戦争兵器を作り、妻は若いうちに死なせる」を表現した作品なのです。主人公堀越二郎のラストを宮崎氏はどうしようか、とも考えていました。

決まっているじゃありませんか。

戦争礼賛をした人物のラストなら悲惨な最期を迎えさせるべきです。

しかし宮崎氏は二郎を明るい顔で生きさせました。

 

つまりはそういうことです。宮崎駿氏は彼に賛辞を送ったのです。

 

思い切り自分の欲望を描けたので泣けたのでしょう。